第19話 ぶっ壊れを倒せ!

 背負った旅人の大剣、それを淀みない動作で引き抜く。

 当然、自分はこんな大剣を扱ったことはないし剣道を経験したこともない。にもかかわらず、何の抵抗も迷いもなく大剣を抜き放って構えることが出来た。


 改めてここはゲーム——『デイブレイク・ゲート』——の世界で、それが反映されているのを実感する。

 頭で動作、とりわけ戦闘関連のことは実行しようとすると、身体が勝手に動いてくれる。



 まるで自分の妄想を具現化したように、流れるように構えや行動をとることが出来るのだ。



 視線の先に映るは、自分を遥かに超える体躯の大鬼ゴブリンキング。

 しかもそいつが手にするのは桁違いの破壊力を持つ呪われた刃、怨嗟の巨刀。


 対する自分はこのゲームを始めたばかり、先程の橋を落とす工程でレベルは一気に上がったろうが……この、桁外れの攻撃力を要する大鬼には到底かなわない。

 現状、ひたすら相手を殴り殺すことに特化したステータス相手に打つ手はない。




 ——普通に考えたら、だけどな!

 そのまま剣を構えて、石とコンクリで作られた橋を駆け出す。緑の巨体を持つゴブリンキングがどんどん近づいてくる。


 大鬼の狂気に満ちた瞳が俺を捉え……手にした武骨な刃を振りかぶった!



 やべぇ! こえええええええええええええ!

 すでに失禁しそうなほどだが、逃げない。というか、逃げても仕方ない。だってここは橋の上だからな。逃げ場なんかないのは、スタンピードの時から変わらない。

 そのまま近づきつつも、決してゴブリンキングから目を逸らさない。



 そして——無慈悲で武骨な刃が振り下ろされる。



 今!

 スキル『鋼体化』!



 ゴギィィン! と強固な金属同士を強靭な力でかち合わせる音が響いた。

 鳴り響いたのは言うまでもない。俺の身体と大鬼が振り下ろした刃——怨嗟の巨刀である。



 あああああああああああああああ! ちびる、てかちびったぁぁぁぁぁ!



 すぐにそう叫びたかったが堪えることが出来た。

 何せ痛みどころか痒みすらなかったのだ。辛うじて、脳天に何かが当たったな。と思うくらいの触角が刺激された程度だ。

 すでに泣きたくなっているがそんな暇はない。弾かれた刃を見てから『鋼体化』を解除する。


 ここからが始まりなのだ!



 コマンド、特技『衝破一閃!』

 頭の中でそう選択すると『激震剣』や、剣を構えた時と同様に身体が自然と動いていく。手にした大剣が繰られていく。

 踏み込みや身体の捻り、腕の力、それらを無駄なく伝えての一撃を叩き込む!



 大剣の一撃をまともに受けたはずだが、緑の巨体からは血の一滴も出ない。そして倒れもしないし、ゴブリンのように光に還ったりもしない。



 やっぱ一撃だけではどうしようもないか! けど……

 こちらに瞳を向けるがそれだけ、大鬼は微動だにせずに立ち尽くす、いや、立ち尽くすしか出来ないのだ!


 攻撃!

 自然と身体が動き、大剣を横に薙ぐ!


 攻撃!

 身を使って切り返し、振り上げての袈裟切り!


 攻撃!

 袈裟切りから勢いを殺さず、一回転して渾身の振り下ろし!



 流れるような、しっかりと武術を体得したものが繰り出せる——であろう剣筋を三段、碌に運動経験がないはずの俺が放つ。

 当然、現実の俺にはこんな真似は出来ないだろう。だがこれはあくまでゲーム世界、頭で『通常の攻撃』と入力すれば自然と行う様だ。


 格ゲーやアクションゲームをプレイしている人なら分かりやすいだろう。ボタン連打での通常攻撃三段、これをゴブリンキングに叩き込んでやった。

 そしてこれもゲーマーの諸君には伝わると思う。最大までコンボや連打攻撃を繋げると、硬直が出来てしまうということを。


 ゲームバランスというやつだ。当然自分にもそれは適用されるようで、振り下ろしの後にゴブリンキングと一瞬目が合う。

 か細い時間とは言え、向こうからすると格好の反撃のチャンスだが……それは来ない。いや、出来ないのだ!

 狂気の他に僅かに戸惑いの感情が漏れている。



 ……よっしゃ! 効いているぞ!

 再び攻撃を重ねていく。横薙ぎ、袈裟切り、振り下ろしの三段攻撃!

 もちろん、まだまだゴブリンキングは倒れないが……それなら倒れるまでやるだけだ!


 もう一丁! 横薙ぎ! 袈裟切り! 振り下ろ……うぉ!


 動けるようになったのだろう。

 ゴブリンキングが咆哮と共に緑の剛腕を振り上げ、力の限り武骨な刃をこちら目掛けて振り下ろしてくる!

 こちらの攻撃ヒット中にも関わらずの動作、スパアマ——“スーパーアーマー”こと怯みや仰け反りがない設定——持ちのようだ。


 やべっ! これ丁度硬直に刺……!

 覚悟も何もする暇もない刹那、ゴブリンキングの顔面に橙色の塊が叩き込まれた! 噴煙と爆発が醜悪な顔面を包み込み、断頭台のごとき無慈悲な刃が鈍る!


 一瞬の隙! ここだ!


 スキル『鋼体化!』

 再びスキルを発動し、自らの身体と衣服を無双の硬度へと変換する。タッチの差で鉄や鋼を軽く両断、あるいはひしゃげさせてしまいそうな無慈悲な刃を弾く!


 サンキュー、ヴェルトラム!

 しっかしあぶねぇ! 自分で提案したはいいけどこれマジでギリギリだぞ!


 肝を冷やしつつも『鋼体化』を解除して、再び鍵となるスキルを放つ!

 コマンド、特技『衝破一閃!』


 再び緑の巨体に渾身の一撃を叩き込む!

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