半分の戦果

 『伝説の釘バット』をバラバラに粉砕しながら、眼前へ構えた小太刀まで『魔眼』は届いた。

 ……強い衝撃はあったものの、何かを弾き返せた感触が伝わる。さすが写し・長久だ、なんともない!

 さらに勝機チャンスだった!

 消音フェンスが低くなる区域へ――さすがに足場とできない区域へ差し掛かっている! 『赤き豹』は高速道路へ戻るしかない!


 アクセル全開フル・スロットル相棒マイコゥが力強い排気音シャウトで応える。

 狙うは着地狩りだ! 翼なき身を嘆かさせてやる!


 ところが相棒マイコゥの加速をのせた小太刀・長久の一閃は、まるでリンボーダンスでも踊るかのように、NyooooooooooNと身体を反らすことで躱された!

 馬鹿な!? 時速百キロ超で疾走しながらだぞ!? 凄み漫画じゃあるまいし!!


 だが、避け方は予想外だったものの、それも想定の範囲内だ!

 真の本命は、着地で片脚の不安定な足元!

 

 しかし、渾身の! そして奥の手に隠し続けていたノノベリティの足払いすら、いとも容易く飛び越される!

 そんなの読み切っていたとばかりに井筒いづつが――『赤き豹』が嗤う。


「まだだ!!」

 言い放ちながら拳銃P320で狙いをつけるも――

 それでとばかりに、オーラを集中させた左掌を翳してくる。いままで銃弾を無効化してきたのは、それか!


 構わず内頬を噛みきりながら、脳内で数えるように音楽を響かせる。……あのオサレな音楽アシッド・ジャズを。

 そして脳内のリズムと世界の響きがシンクロした瞬間、現実は急速に色を――速度を喪っていく。

 グレー・アクセル脳内加速を発動に成功した! 賭けは俺の勝ちだ!


 灰色の止まった時間が流れる世界で、ありったけの弾丸を『赤き豹』へ撃ちこむ。反動リコイルで暴れまわるのを、力ずくに抑えながら。

 銃器の反動は、拳銃ですら強烈だ。達人でもなければ、全弾発射での命中など覚束ない。

 しかし、それなら狙い撃てばよかった。

 実時間では数秒にすぎなくとも、グレー・アクセル中は十数秒もの体感となる!

 この至近距離で、ゆっくりと狙いを修正して一発ずつ……その条件ならば、俺でも全弾命中が叶う!


 色を取り戻し始めた世界で、狙い過たず十数発の弾丸は、勝ち誇る井筒いづつの左掌へ吸い込まれていく。

「知ってるか、馬鹿猫? 九ミリ・パラベラムでも五〇〇ジュール――おっさんのタックルと同程度な運動エネルギーがあるんだぜ?

 普通は、標的を貫通したりで力を使い果たすんだが……そんな風に受け止めちまったら――」

 残念なことに井筒いづつは、最後まで聞いてはくれなかった。

 群玉環状高速の外へ放り出されてしまったからだ。十数発分の弾丸に――おっさん十数人分のタックルに押されて。

 そして落ちゆく先も分流車線――サービス・エリアへ通じる支道と狙い通りだ。

 ゲームのシナリオ通りに物事が進めば、そこでかしら堅固けんごと対決になる。

 もう作戦成功ミッションコンプリートといってもよかった。……今夜の半分だけなら。

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