第19話 分からない関係と二通のメール


「あぁ……最悪な所をおばさんに見られてしまった……」


 数馬は自宅へ帰るや否や、自室へ駆け入るとそのままベッドの布団に顔を伏せ、つい数分前の出来事を思い出しては悶絶していた。

 体調を崩している幼馴染の上半身を裸にしているところをその娘の母親に見られたのだから、無理もない。

 というか、悶絶しない方が無理である。

 例え、看病する中で必要になった事であってもだ。


 それに加えて目撃直後に放たれた、『お楽しみのところ、お邪魔してごめんなさいね』という言葉。

「なんですぐに否定しなかったんだよ……。一香と俺はそんなに関係じゃないだろ……」

 ───じゃあ、どんな関係なのだろう。


 自分の言葉の直後に脳裏に過ぎる疑問。

 短いながらも、今の数馬には重すぎる疑問。

 単純に見えて、難しすぎる疑問であった。


 そんな中で届く、一香からのメール。

『さっきはお母さんがゴメンね。数馬が一生懸命看病してたってことちゃんと説明しておくから心配しないで!』

 ゆっくりと開いたスマホの画面に映る、普段の一香らしい爽やか且つサバサバした文面。

「……適わないなぁ。ほんと」

 そう呟くと、自分の未熟さを感じながらメールを閉じようとする数馬。

 しかし、本文はまだ終わってなどいなかった。画面脇に、スライドマークがまだ続いていたからだ。


「……まだ、何かあるのか?」


 数馬としては、これ以上求めるものなど無く、懸命に看病していた事が一香の母親に伝わればそれで良いのだ。

 それだと言うのに、メールは続いているのだから不安で仕方がない。

 そんな数馬を心中を裏切るように、続きの文言が現れる。

『それと、今日はありがとね。見直したよ』

 と。


「見直されるようなことは、何もしてないんだけどなぁ……」

 むしろ、『どうして怒ってくれないんだ』、と言うのが数馬の心境である。

 見直される事はおろか、千尋が忠言でもしてくれなければ一香の体調はさらに悪化していたかもしれない。そんな自分を一向に罵ろうとしない一香に数馬は困惑すら覚えていた。



 こんな調子で、ぐちぐちと自分を貶めながらカバンの中からデジカメを取り出す。

 データファイルの中には、つい先ほどまで森の中で無我夢中で撮っていた木々の写真。

 そして少し遡れば、昼休みに校舎裏で撮った一香の綺麗なお腹の写真。


 いつものように、机のノートパソコンに接続してデータをした上でファイリングしようとする。

 ホーム画面のドキュメントフォルダには『一香』と名のついたものがいくつかあったが、今回も例外も無く『一香⑥』とつけて厳選作業を始める準備をする数馬。

『自然』や『部活』とつけられたフォルダには見向きもしなかった。


 そんな彼だが、本日ばかりは指が機敏に動く事はなく、

「……いや、やめとこう。今日は、こういう気分じゃないや」 

 そう言って、一枚も選ぶ事なくフォルダを閉じた。

 辛うじてデータをパソコンに移すことはしたようだが、放課後に撮った写真も当然混じっている。


 そんな中、再び数馬のスマホが響き震える。


『明日は写真撮影をするので、カメラの容量をきちんと空けておくこと〜〜♪』


 幸か不幸か、ミリアの明日の部活動についての報告メールが、カメラの容量を空けたその時に届いた。


「嫌な予感しかしない……」

 言葉の通りに嫌な顔をしながら、『了解です』と返信する数馬。

 彼は知っているのだ。ミリアに逆らうことなど出来ない事を。



 そして同時刻、同じくミリアのメールが千尋の元に届く。


『スク水orブルマ』

 と。


 丁寧に、件名を『選べ♡』と付けて。




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