第3話 会いに来ない王子3

今日も誰にも気がつかれずに街にでれた。


お金はあるのよね。ドレスを売ったお金がまだ230ニードルくらい。

ニードル、私の国のお金に変換して考えたらいくらの価値なんだろう。


この国の事に、やっと興味がでてきたわ。

今日は何しようかな?街を歩いてるのも十分楽しいけど、何か出来る事を見つけたいんだよね。

だから、結婚させられる前にちょっとしたスキルを身に付けたい。

別居したら働きたいし。世間知らずだから、きっと大変だと思うけど、何もかも与えられて暮らすのは嫌だしね。


私が出来る事って、何があるんだろう。考えてみたら、1人で暮らすのには何一つ役に立たないじゃない…?

ダンスが出来たからって何の役にもたたないわ。


料理人の弟子にしてもらうとかどうかな…でも、師匠になってくれるような料理人と出会ってないし…。

というか、知り合いも友達もいない。…まだ2日目だから贅沢言っちゃ駄目よね!


今日も服を1着買った。いくらなんでもブラウスとスカート2着ずつだと、着まわしもできないし。


もっと見て回りたかったけど、雨が降りそうなので邸に帰った。


「え?」


そこには、誰もいませんでした。


「ちょっとまってっ!どういう事!?」


家にあった絵画も壺も、食器もない。家具もない、殆んど…っていうか、何にもない!!


「…あの3人……」


昨日私が街に出ていた事は気がついていたんだわ。そして、今日も出ていった。その隙をついて、3人に全部持ち逃げされた!


「……まさか!!」


私の部屋も荒らされて、何もかも持っていかれていた。

あるのは昨日着ていた服だけ。


「…いやいや。うん。まだ服があっただけよかったけどさ……。どうやって私は生きていくの?」


手紙さえ届かないんだよ?誰かとコンタクトとるとか出来ないし、『私は王子の婚約者なんです!』って言っても誰も信じてくれないよね。


1文無しではないけれど…どうやって暮らせばいいの?

まだ仕事について考え始めたところだったのに!せめて職についてから出ていってよ!



本当に、どうしたらいいの?

お父様に手紙を書いて迎えに来てもらう?

でも相手は王子…伯爵家なんて握りつぶされて終わりよ。そうなれば家族全員が、今の私のようになってしまう可能性もあるじゃない。


それに、迎えに来てもらうって言っても…ここの住所も知らないのよね。私。

ううん、住所があるわけないのよ。何か届けられるとしたら、全て城でチェックが入ってから騎士が持って来てるんだもの。必要ないというのが正しいわね。


孤立無援…!って、こういう事なのかしら…。



夜、大雨が降っている。


料理する道具も全くないけど…

「…食材1つ残さず持って行くことないじゃない!」


明日からどうしようかな。

今はお金があるけど、数日で底をついちゃうよね。


「窃盗団の仲間にでもいれてもらおうかしら…」


それは冗談だけど…。

大至急職探しをしなければ餓死してしまうわ。



次の日も雨…


これじゃ外に出ていけない。傘もレインコートも無い…このまま雨が降り続く…なんて事はないよね。

誰かが助けてくれるなんて思っちゃ駄目よ。既に3人に裏切られているんだもの。


食べるもの…水もないから、1度外に出ないといけない。


王子の婚約者…って、その肩書きは何の役にたつの?私の顔を知ってる人にしか通じないよね。貴族とかいうのも。


そうだ!!

このまま私がいなくなったって事にすればいいかも。放っておいたのは向こうなんだし。いなくても当分ばれない気がするのよね。

家がこれだけ荒らされてるんだから、誘拐されたって勘違いしたりして。

そうなれば、お父様達に迷惑をかける事もないよね。逆に、『この国の王子は他国の女だからそんな扱いをしたのか!』って、信用も名誉もがた落ちよ。

一矢報いるなら今しかない!


別居したいと思っていたけど、別居どころか王子と結婚しなくていいかもしれないよね!


そうなれば諦めていた『好きな人と結婚』が出来るかもしれない。好きな人が出来たらお付き合いして…結婚して、子供だって好きな人とならほしいし、家族で暮らせたら最高だわ!!


ピンチはチャンスと聞いた事があるわ。それが今よ!


…でも、今、この状態をなんとかしなくては。


ここで躓いたら餓死する…。


とりあえず、お水とタオル、それだけ買いにいこう。


もう少しすれば雨はやむかも…って思うけど、さすがに水1滴すら飲んでないのはきつい。


少しでも雨を遮る事が出来そうな物…私の読みかけの本。それしかない。


雑貨屋があったし、そこならきっとお水やタオルは売ってるよね…?

どこにどういう物が売ってるのかなんて、今まで考えた事がなかった。タオルなんて、用意されてて当たり前だったし…。

貴族の知識なんて、一歩外にでれば何の役に立たないわね。


そんな事を考えながら、雑貨屋に小走りで向かった。



「いらっしゃい…って、あなたどうしたの!ずぶ濡れじゃない!」


雑貨屋の店員は、濡れた私がお店に入っても嫌な顔ひとつせずに迎えてくれた。


「タオルを3枚、頂けないかしら。それからレインコートがあればそれも。」

「そんな事より、先に体をふきなさい。風邪引くわよ!」


タオルを持ってきて、急いで私をふいてくれた。


「あなた、この辺では見た事ないけど、うちは近いの?」

「ええ。最近引っ越してきたんです。すぐそこなので問題ありません。」


あの別邸に住んでるなんて、絶対気付かれないようにしなきゃ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る