第50話 埋葬

 レティシアの転移によってシンドラー町の入り口へと一瞬で現れる。

 門兵はそれには気付いていない。


 レティシア達が歩いて戻ると、何事もなかったかのように仕事をする。


 「お疲れ様です。」

 レティシアはギルド証を見せると少し多めのお金を握らせる。

 

 「騒がれたくないので黙っていてください。」


 ライラの事はともかく、姿を見せなくなった冒険者や商会の娘を連れて歩いているのだから、その姿を見れば何事かとなる。

 そうなればつい大声を出したりして騒がしくなるのは目に見えていた。

 だからすんなり通してくれれば良いよというレティシアからの無言のお願いなのであった。


 「彼女達は救出しました。それ以外はまずギルドに報告してからにしたいので、騒がないで黙っていてください。」



 門兵はその言葉を理解し、レティシア達を通した。



 冒険者ギルドに到着すると、レティシアは真っ直ぐに受付に向かい、自分の番がくると山猫団の顛末を報告した。


 「それじゃぁ証拠見せるから広い所に移動しません?」

 そして案内されたのは解体所。職員達は仲良く残業をしていた。

 ギルドマスターがいつの間にか解体所に姿を見せていた。


 レティシアは空間収納から、串刺しのままの首魁を始め何人もの首を出した。

 ラウネが吸収したり、ラストバトルで姿すら残っていない者は別であるが。


 「っておま、こいつ賞金首じゃないか。しかもくっそえげつねぇ。良い子には見せられないな。」


 「そうだね。他にも……」


 「こいつは……貴族じゃねぇか。」


 「あぁ、この首は私が責任を持って国に提出します。」


 「おぉあぁ、ノ、ノルン姫。そちらはお願いします。」

 貴族絡みは色々と面倒なため、王族や貴族がどうにかしてくれるというならば、丸投げした方が早い。

 悪徳貴族に任せるのでは不安だが、相手は王族なのだから下手な事はしないはずである。


 

 「それと……まだ目を覚ましてないけど、冒険者達も救出してきた。」


 マスターは後ろに寝かされている、商会の娘と冒険者達を確認すると若干安堵する。

 助けを求めてきた男の努力は無駄にならなかったと。


 しかし、完全には喜べないのは、彼女達が気を失っているという事。

 それは無事ではないという証に他ならないためだ。


 「一応、身体の傷は全て治ってるよ。心は完璧とは言えないけど。」


 「そうか。それでも充分だ。恐らく彼女らは死をも覚悟していたはずだ。目が覚めないと分からないが、普通に生活できるようサポートはする心算だ。」


 解体所から戻ると報酬の受け渡しのためにギルドマスター室に通される。

 

 「報酬白金貨10枚って本気?」


 「あの山猫団を潰したんだ。これまでの積み重ねも含めれば当然だろう。」

 マスターはどんとさらなる追加報酬を台に叩きつけた。



 「首魁のベルガーは賞金首だったからな。これも追加だ。」

 金貨3000枚が追加で支払われた。


 「金貨はギルド銀行に入れといてくれないかな?」


 「それとユーフィーとノルンもはい。」

 二人に分け前を手渡した。


 握った手を広げてその枚数に驚く。


 「いや、こんなに要らないよ。」

 二人にはそれぞれ白金貨2枚ずつ握らせていた。

 ノルンに至っては王族のため金銭感覚は、抑違うかもしれない。

 

 

 「う~ん。口止め料?私が怖いと言いふらされたら嫌だし。」


 「そういう事なら良いか。こういうのは持ちつ持たれつとも言うし。」

 

 「そうそう。遠慮は逆に失礼だよ。」








 目の覚めない冒険者達をギルドに預け、転移でアトリエへ戻ると、レティシアは彼女達の埋葬先を考えた。

 実家のある大きな墓地へとも思ったけれど、ライラは出来るだけ離れたくないと主張する。


 それならばとラウネに聞き、ユグドラシルの木からほど近いところに共同墓地を建てて良いか尋ねる。


 「良いよ。」

 ラウネは二つ返事でOKを出した。


 「ライラ、あのあたりを墓地にしようと思うんだけど。」


 ライラは頷いた。

 ユグドラシルというそれなりに大きな木のすぐ近く。

 蜂の邪魔にもならず、畑にも影響がない。


 早速レティシアは自ら産み出した聖水を蒔いて土を程よく耕す。

 そしてレティシアの産み出した聖炎にて乾かし浄化する。


 

 「それじゃ、ライラ。埋葬するよ。」

 空間収納から遺体を土毎埋葬した。

 上から如雨露で水撒きするかのように、うっすらと聖水を降らせる。

 浄化の炎のように聖炎を軽く塗して不浄を取り除く。

 やはりあの場の土のままというのは、気分的によろしくはないと考えていた。


 しかしこれらの行動が後にとんでもない事を起こすとは想像もしていない。


 墓石をそれぞれ設置し、その中には遺品がしまわれている。


 彼女らの墓石それぞれの前でライラは手を合わせる。


 「部屋は空いてるから、メイド服を着たメイに色々聞いて使ってちょうだい。」


 「色々と……ありがとう。」

 

 ライラの目には若干生気が戻ってきていた。

 声はまだ掠れているけれど、喋る事の弊害は殆ど残ってはいなかった。


 見つけた時に抱いていた赤子も、新しく埋葬されている。




 そしてアトリエに新たな住人が増えた。

 複数形の理由はいずれ語られる事となる。

 レティシアの別名は、フラグばんばん撒いて即回収するレディとも言う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る