第47話 山猫団が消える日③「化け物集団、レティシアと愉快な仲魔たち」

 

 「ユーリを怒らすと怖いという事がわかったよ。」


 「女の子を〇っ〇む穴だと思ってる男は滅びれば良いのです。塵一つ残さず。



 「いや、もう既に破砕のなんとかはその塵すら残ってないけどね。」

 噴出した血すら地面に落ちたり後方の壁に到達するま前に消え失せている。



 「シアお姉ちゃん……」

 ラウネはレティシアにしゃがんで欲しいと手招きする。

 その仕草を見てレティシアは「なに?」と耳をかた傾ける。



 「……」

 「んー、ばっちくない?」


 「大丈夫。の中に入れば一緒~。」



 「というわけで次は私だよ~。」

 レティシアの元に来て、日々を生きている内にラウネの表面は変わりつつある。

 クエストに参加する前までは見た目相応の口調であったのだが、洞窟の外で見張りを攻撃した時から口調に変化がみられている。


 語尾こそ間延びしているものの、5歳児が急に10歳児くらいになったと表現すれば良いか。

 少しだけ成長しているようにも感じられた。


 

 レティシアやユーフォリアは気付いていた。

 ユーリが戻ってきた時から何か微かな匂いがする事を。


 ある一点に集中してそれが向けられている事を。


 そして、その向けられていた人物が相手の2人目として前に出てきた事をレティシア達は気付いた。


 「獲物としか見てないよね。」

 「まぁラウネは可愛いけど魔物幼女だしね。」


 哀れな山猫団犠牲者を眺めていた。


 

 「破砕を倒したくらいでいい気になるなよ、なんせあいつは山猫団最高幹部四天王になれたのが不思議なくらい弱っちぃやつだ……」


 「おぢちゃんおくちくちゃぁぃ。」

 10歳くらいの口調になったと説明した途端の5歳児戻りであった。


 「もごぉぅっ」

 ラウネから飛び出した液体が男の口の中に入り込むと、それは嚥下する事無く口の中に存在し続ける。

 

 

 「な、なにあれー。ラウネちゃんの手から出た液体が、男の口の中に溜まって説明出来ないようにしているー。」

 アルマがありのまま状況を声を大きくして実況をする。

 冒険者をやってはいてもこれでも貴族令嬢であるのだが、その設定……事実を覚えている者はいない。



 「あれだけで溺死しそうな攻撃だね。アレは花の蜜を凝縮したものかな。戦闘前から散布していたものとは違うようだけど。」

 ユーフォリアが説明に入る。ラウネの放った液体の正体は植物の樹液や蜜の一部である。

 その効果は口の中に滞留する物と戦闘前に散布されていた物とで別であった。

 

 「本人は攻撃の心算はなく、臭いし煩いから黙らせるために詰め物をしただけだと思うけどね。」

 「戦闘前から撒いていたのは幻惑効果があるもので、次に自分が出てくるように誘導される効果があるみたいよ。」

 レティシアがそれを補足するかのようにさらなる説明をする。

 ラウネの率直な心の内と散布されていた蜜の効果について、皆に聞こえるように補足する。


 


 「それでまんまとおびき出されたと。これはただの捕食だね。」


 「そうね。ラウネにとってはこれは捕食。外で自然災害並の事したからお腹減ってるんだよ。」

 レティシアは見ていた。

 当の本人は夢の中へ旅に出ていたけれど、レティシアの背中におぶられていたラウネの足や背中から枝や茎のようなものが伸びていた事を。


 その枝や茎のようなもの……触手が山猫団の死体を他のメンバーに見られないよう吸収お食事していた事を。

 そのため、ラウネが通った通路に死体は残っていない。



 ラウネの腕……枝触手が伸びると男の四肢をがっちりと掴む。

 

 「もごっ、ふぐぅっ」

 男は言葉にならない声を発して逃れようと身体に力を入れようとしているが、微動だにすらしない。


 掴んだ腕の形状が変化すると、四肢を飲み込む。

 

 「うぐぁぁっぁほげのふでがっあひがっ」

 

 数十秒もすると変化の結果は訪れる。

 丸呑みされた男の身体が地面に落ちた。肩の少し先、太腿の付け根の少し先からを失った、誰も得をしない男のダルマが転がった。


 ずるっと触手の先から何かが落ちる。


 「あ……落としちゃった。勿体ない。カルシウム?なのに。」

 落とした骨を再び触手が飲み込んだ。




 「あ、あれはっ!?男の骨ですってー。ラウネちゃん捕食してたってことー!?」


 「あれ、溶かしてたって事だよね。」


 「良い子は見てはいけないやつだね。」


 「切ったり叩いたりだけが調理じゃないと理解しました。」

 アルテが驚き、ユーフォリアとレティシアが説明し、ユキが関心していた。



 「おぢちゃん達もお姉ちゃん達を捕食してたんだよね。だから私に食べられても文句は言えないよね。」

 残った胴体の下半身部分から再び触手が飲み込んでいく。


 徐々に食べられていく感覚。

 しかし出血もしているのに、身体がなくなっていくのに絶命はしていない。


 それはラウネの小さくて細い触手が脳内をいじくり、麻痺させている事と延命させているに過ぎない。

 ラウネは深く考えているかは不明であるが、恐怖を長く与えてじわじわ殺害するこの方法は、恨みを持つ相手からすると最高にざまぁ見ろ、スカッと爽やかな光景に映るだろう。

 

 「後は首から上だけだね。」

 首から上だけしかないのに、未だに息絶えてはいない。

 最後の延命処置で最期の恐怖を与えようとしていた。


 「じゃぁいただきます。」

 ラウネの触手が大きく口開くと、そこには無数の歯が男の目に映る。


 「最後くらいはばりばり食べないと、顎の発達に良くないからね。」


 「いや、触手の顎を鍛えてどうするのさ。」というツッコミがいくつか飛び交った。


 「ひぎぃ、いやだあぁぁぁぁ、た、たべっ……」

 最後まで言い切る前にラウネの触手は頭を掴んで大口が飲み込んでいった。


 良い子どころか大人ですら聞くに耐え辛い咀嚼音が響いて、山猫団の残り3人はその様子を黙って見ていた。

 やってる事は極悪に分類するだろうけれど、相手が悪党だからか誰も気持ち悪いとかすら思っていなかった。


 


 「あぅぅ。ま、まずかったよぉ。」


 「はいはい。ユグ汁蜂蜜ジュースで口直ししなさい。」

 レティシアは空間収納からあの殺人的な甘さの蜂蜜で作ったジュースを取り出した。


 あの甘さに耐えられるのは、否。甘すぎると感じない者が一人だけ存在した。

 それがラウネである。


 「シア、ユグ汁って……いくらシアの聖水とラウネの力で成長した、ユグドラシルの木に巣を作った蜂の蜜から作ったからといって……」


 「ユーリ、説明ありがとう。」


 「じゃぁ次は私が行きましょうか。流石に私は塵一つ残さないやり方を期待されても出来ませんよ?」


 それでも負ける事は微塵にも感じていない。


 相手の首魁の男曰く、末端でもBランク冒険者以上、幹部はAランクでも余裕で倒せると豪語していた相手に。



 3人目の男が前に出てくる。

 きちゃない盗賊にあってそれなりに見栄えは良い男。


 綺麗にしていれば、おそらくはイケメソと呼ばれていたのではないだろうか。



 「あなた……元の生活には未練はないのですか?元の家族や友人達はどうでも良いんですか?」

 ノルンは問いかける。

 男は何も答えない。


 「あなたが切ったと思っていても、世間はそうは見てくれませんよ。」


 「団員になると決めた時からそういったもんは俺達には関係ない。団員が家族であり友人だ。」

 その声は少し、低く見た目の補正もあるのかいい声をしているように脳が判断する。


 「名乗らなくて良いですよ。私も名乗りませんし。貴方は名も無き射手によって終わるのです。」


 左手の指を広げてノルンは拒絶の言葉を告げる。

 同時に死の宣告を告げているのだけれど、気付いている者がいるかどうか。


 「お家、断絶になるかもしれないですね。」

 男からは身体が陰になっており見えないけれど、ノルンの右手は何かを摘まんでいる仕草をしている。

 ノルンがその右手の人差し指と親指を離すと……


 ピンッと何かを弾いた音が聞こえる。

 レティシアとユーフォリアの耳にはその音も軌道も見えていた。


 「へぇ。」

 「なにあれ。」


 お食事を終えたラウネはユキに抱かれて再び夢の世界に旅に出ている。


 「ほげぇっ」

 ちょっとしたイケボでイケメソだった男は閃光を見たと感じた瞬間に、視界が下がっていく事を理解する。

 そして衝撃を受ける前に意識を手放した。

 それが死を意味するモノだと自身が理解する前に。



 「顔だけを潰すなら理解出来るけど、首から下だけを1射で消し去る射手を初めて見たよ。正確には5射になるのかな。」

 しばし一緒に冒険していたユーフォリアでさえ驚いていた。



 「何故か二人には少しバレているみたいですが、魔力を極薄く練り上げた弦に任意の5属性の魔法を込めた矢を放ちました。」

 ノルンは簡単に言っているけれど、目に見えない程魔力を練り上げる事も首から下だけ爆散する程の威力を出すのもピンポイントに首から上だけを残す技量も普通の人には出来ない。

 それはたとえレティシアの良くわからないバフが掛かっていたとしても。

 

 「まさか、矢を弾いた音を拾われるとは思ってませんでしたし、軌道を見られるとも思ってませんよ。二人は化け物ですか?」


 「失礼な王女様ですね。シアは化け物ではありません。こんな可愛い化け物がいるなら世の中の化け物は何なんですか。」

 ユーリが抗議の声を挙げる。仮にも王女に対して不敬では?と思われるところであるが、この場でそれはあってないようなもの。

 冒険者をしている時点で、ノルン自身にもそういった事は関係ないと思って活動をしている。

 そうでなければいくらSランクとはいえ、ユーフォリアの対応は不敬だらけである。


 「私は?」

 「あなたはSランクというだけで充分化け物です。」


 「うわ酷ーい。」

 棒読みでユーフォリアは抗議する。

 

 「その首は不本意でありますが、持ち帰って公表しなければなりませんから。これでも私、王族ですので貴族……元だろうと8男だろうと堕ちていようと覚えてないわけがありません。」

 「生首の男ソレ、北方地方を治めているビアンゴ侯爵の9男、スラナール……」

 「ビアンゴ侯爵の5男、フィルド・ビアンゴ・アランは現在王都で魔法師団の団長を務めておりますね。」

 

 お家断絶云々と漏らしたノルンの言葉は国にとっては重大である。

 北側の関所、防衛ラインという意味でビアンゴ侯爵家は要である。

 王都に居を構える王国魔法師団団長である5男フィヨルドの立場も、北の要ビアンゴとしても危うくなってくる恐れが浮上する。



 「捕縛して死罪という……」

 レティシアが問いかけようとするがノルンは直ぐに遮った。


 「私も先の二人のように我慢が出来ませんでした。国賊でなければ全てを消し去っていたと思います。」


 「塵一つ残さないやり方は、期待しても無理みたいな事言ってたのにね。」

 バフ等はかけられているけれど、ノルンにはアトリエ産の武器は装備されていない。

 半分は実力という事になる。


 「国の事は父である王や周囲の者達が考える事です。私は目の前のクズを一人射貫いた。それだけです。」

 


 「じゃぁ次は私だね。大将は美味しいところをどうぞ。」

 ユーフォリアがじゃぁ行ってきますというノリで前に出て行く。

 例の細断の男はレティシアに譲るよ~と。


 4人目は見た目20代前半の、これまた盗賊団には少し似つかわしくない見た目の男だった。

 先の男同様、イケメソの部類に入るだろうか。しかしスラナールよりは痩せて見える。


 「俺は毒し……」


 「あぁ、私もあんたらの名前にも能力にも出自にも興味はないんだよねぇ。結局人間の男はどこの世界もいつの時代も変わらない。」

 「女を穴としか思ってない奴に、名乗る名はないし簡単に赦し殺しもしない。」






 「も、もう殺してくれぇ……」


 。未だ見た目は五体満足の男は死を願っていた。

―――――――――――――――――――――――――――


 天挑五輪大武會みたいなノリ……

 アルテが富樫・虎丸化してるし。

 

 そしてもはやどっちが悪党かわからなくなってきている。

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