第46話 山猫団が消える日②蜂の巣


 ラッキーストライク商会の娘ピールとその護衛の4人の女冒険者と四肢を切断された1人の女冒険者が犯されている大広間。

 かつてAランク冒険者として活動していたものの5年前に捉われ、性欲処理+苗床にされているライラは更にその奥の牢兼墓で現在進行形で強姦真っ最中。


 獣欲の臭いは洞窟内を充満している。

 性には若干疎いレティシアやユーリ、ノルンはともかく。


 少し前にトレントに強姦されていたアルマやユキ、オークに強姦されていたミーシャはとてもこの臭いには敏感だった。


 そんな中、一番恨みがましい表情をしているのはユーフォリアだった。

 レティシアと出逢い、トレント退治の後ついでに回復が掛かり、身体が生娘に戻ったと言った言葉。

 あの言葉と今回のような獣欲めいた事に何か意味や関係があるのか。

 ユーフォリアに関しては謎が多い。


 アイラというもう一つの名前を使っての冒険者活動も然り。

 一緒に行動していたノルンでさえそこについては言及をしていない。


 臭いがきつくなってくると、終着点の場所が近い事を教えてくれる。



 レティシア達とユーフォリア達が其処に着いたのはほぼ同時刻だった。


 同じ部屋の反対側から両チームは入室し、その異様な光景を目の当たりにする。


 「だめっ」

 レティシアが制止の声を挙げる。


 既にアルマの人形が2体、主の制止を振り切るが如く勝手に強姦中の男達の首を刎ねた。

 その勢いのまま、周囲の男達の身体を切り刻んでいく。


 「アルマッ、伏せっ」

 珍しくレティシアが大きな声を挙げる。

 山猫団の面々ですらその声に時を忘れてしまう程に。


 この部屋にも30人程の団員達が存在していたが、その数は今の数瞬で半分以上が肉塊に変わり果てていた。



 「これはこれは、随分なお客様だ。人の家に来るなりいきなり殺戮とは……親の顔が見てみたい。」

 部屋の奥から一人の男がレティシア達の前に現れる。


 10日程前、女冒険者の一人を最初に辱めた男である。

 

 「残ったのは10人か。18人もやってくれちゃって。1人1箇所……」

 刹那囚われていた女達の身体が18箇所宙に舞った。

 そして地面に到達する前に何者かの炎によってそれらは焼失し消失した。


 レティシア達はその様子を見ているだけしか出来なかった。

 流石にやるとわかっていれば防ぎようもあったのだけれど、何の合図も前触れもなしの出来事のため反応が遅れたのだ。


 残ったのは一番小さな女の子の右腕と真ん中にいた女冒険者の左足だけだった。

 


 「どんな高名な僧侶でも魔法使いでも司祭でもでも。無くなった腕や足は回復できまい?」

 「ゴロツキではあるが、仲間を奪われたんだ。その仇として身体の部品の一つを奪うのは弔いとしては優しい方だと思うけどねぇ。」


 男は一人語っている。

 団員達はおろおろするばかりで体勢を整えようとはしていない。

 個の実力はBランクには負けないのかも知れないが、真の暴力の前には無力である。

 それを悟らせないためのパフォーマンスでもあった。


 男は侵入者の実力を過小評価してはいない。

 抑認識阻害にてアジトの場所は容易に見つかりはしない。


 仮に見つかっても、要所にある程度の人数は待機させていたのだ。

 それなのにこの部屋に侵入者が来るという事は、そいつらも倒してきているという事に他ならない。


 「さて、どうだろう。ここまで来れるだけの実力者。手打ちという事で見逃しては貰えないだろうか。」

 「この場を去れというならば去り、森の中でも他国にでも去ろう。この肉奴隷達もこんな身体ではあるが命に別状はない。」


 「処置が適切であれば……という条件はつくが。」


 

 「私達がそれを飲むと思って?」


 決して敵を過小評価しない男。侵入者、特にレティシアとユーフォリアに対しては特段の注意を払っていた。

 まともにぶつかれば自分達の不利は否めない。

 

 「そこでこういう提案をしたいのだが……お前達が勝てば俺達の事は好きにするが良い。どのみちこの後に提案する内容によって俺達が負けた場合……」

 「他の団員達ではお前達を倒せるとは思えん。そして俺達が勝てば、新しい肉奴隷となる。」


 「だから、俺達山猫団とお前達。5対5で戦うというのはどうだ?」

 男は団体戦でこの場の勝敗を決めようと提案をしてくる。

 普通に考えてこの提案を受け入れるメリットはレティシア達にはない。

 一刻も早く女性達を救出し回復させなければならない。


 山猫団側にいる回復系能力者は演出を盛り上げるために肉奴隷と化した女達に回復を務めていた。

 男にはいざという時の人間爆弾として使えるよう、命だけは奪わないようにしていた。



 「それで私達に何のメリットが?私達は山猫団に捉われた人達の探索と可能であれば救助。山猫団の処遇については一任されている。」

 それは捕縛も殺害も何をしても良いという事。合憲者ギルドからは救出を第一にと言われている。


 それ故に先程の切断は赦し難いものがある。

 助けに来ておいて傷を増やしてしまった自責と憤怒の念もあった。

 


 「正直、お金には困ってないから別に国や領にあなた達を突き出す必要はないの。あぁ、ラフィー連れて来れば良かったかな。」


 

 「それはこいつらを繋ぎ合わせるって意味ですか?」

 アルマが恐ろしい事を尋ねる。


 「シア少し怖いぞ。」

 ユーフォリアが珍しく引いている。

 男が話している間に全員が一ヶ所に合流していた。


 「相手が魔物であれば、まだ仕方ないと思わなくもないけど、


 

 「あぁ、喋る魔物か。人の姿をした魔物もいるしね。」

 こいつら山猫団は魔物だ……とレティシアの脳内で変換されていく。



 「良いでしょう。その茶番に付き合ってあげる。その代わり、一人足りとも。」



 「まずは一人はこの私。」

 レティシアは当然の如く自らを指さした。

 

 「お姉さま危険です。」

 アルマとユキが止めに入る。それは先程の女冒険者達の四肢が突然爆ぜた事を見た事による不安。


 「そしてSランクとして当然私もやるわ。」

 マントを翻して前に出てくるユーフォリア。


 「それなら王族として参加しないわけにはいかないですね。」

 ユーフォリアの後に次いで一歩前に出るノルン姫。


 「それは流石にだめでしょう。」

 

 

 「彼女の実力は私が保証するわ。」

 かつて一緒に冒険をしており、実力の一旦を把握しているユーフォリアの一言でノルンの参戦も決定する。


 「あと一人、あと一人は誰に……」



 「お姉ちゃん達にはごめんだけど、私がやる。魔物代表として、人間からも魔物からも認められない存在のこいつら、とても赦せない。」

 いつになく饒舌なラウネが最後の一人に名乗りを挙げた。

 それは魔物だった者としての矜持か、人を憎んでいた過去を思い出してか。


 レティシア、ユーフォリア、ユーリ、ノルン、そしてラウネの5人が茶番に付き合う事にした。


 山猫団は後方に下がり、先程の男を中心に小軍団を形成する。



 「最初は私がいきます。」

 広場の中心へ向かってユーリが歩き出す。

 山猫団側からも一人の男が出てくる。拳と拳をガンガンぶつけて何かをアピールしていた。


 「俺の名は破砕の……」

 団員の男が喋り始めたところで、ユールがそれを遮るように言葉を重ねる。


 「貴方の名前にも能力にも天職にも興味はありません。死にゆくモブに誰が注目すると言うのでしょうか。」

 ユーリは槍を構える。


 破砕の何とかが拳をラッシュのように連打をする。恐らくは一撃一撃が全てを破壊する拳なのだろう。

 

 「当たるビジョンが見えないですね。」

 ユーリは拳と同じ個所に槍の穂先を合わせていく。


 「全然砕けませんけど?」


 破砕のなんとかは怒りに任せて拳を繰り出してくる。


 「もう時間も勿体ないので、終わらせます。ただし、これまでの事を悔いながらお逝きなさい。」

 ユーリの突きは目に見えない程早く、音だけが周囲の者に届く。


 突き終わったと判断したユーリはくるりと背を向けてレティシア達の元に戻ろうと歩を進める。


 ぷちっぷちっと破砕のなんとかの身体に一つまた一つと穴が開いていく。

 その一つ一つはとても小さい。本当に槍の先端中の先端、大きさにすれば数mm程の穴。

 それらが徐々に身体の全体を覆っていく。

 蜂の巣のように穴だらけになっていく破砕のなんとか。

 

 攻撃を喰らった方としてはどこまで意識を保てているのか。


 穴が身体を侵食していき、徐々に穴の方が大きくなっていく。


 やがて穴は穴でなくなり、何もなかったかのような空間となっていく。


 「ぁ……あ……ぁ……」


 そして破砕のなんとかさんは欠片も残さず消失した。



 「数々の女性達と、男性達の恨みを思い知りなさい。」



 ユーリを怒らせるのはやめようと思うレティシア一行だった。




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