第30話 ラウネの心

 「寂しい、やっぱり1人は寂しいよぅ。」

 星降る夜空の下、暖かな土の布団に委ねるラウネ。

 土からの栄養がなければ生きてはいられない悲しい種族。

 土から出てしまうと蓄えてあるエネルギーが枯渇すれば死を待つのみ。

 だからこそ、一人寂しく外で就寝するしかなかった。


 一度人の優しさに触れたラウネにとって、ここの人達は居心地が良かった。

 結界の外に弾かれた魔物の死体を喰らう事で若くして進化し、通常のアルラウネよりは強くなっているラウネではあるが……

 周りは敵だらけの外界でこれまで独り寂しく生きてきた。

 人や大型の魔物、格上を食す事で保存エネルギーは格段に上がる。


 今日出会った人間達もそのエネルギーとなるはずだった。

 はずだったのに、結果は攻撃をされる事なく敗北。

 

 体内に溜めていたエネルギーも蜜の乱打で使い切る寸前だった。

 それなのに優しい言葉を掛けて貰う事で救われた。

 それどころか回復までしてくれた。


 これまでにないくらいの保存エネルギーを溜める事が出来た。

 ただ、その様子をずっと見ていたお姉ちゃん、ユーリの視線が痛かった。

 


 「一緒にいたいよぅ。お姉ちゃん……」 

 お姉さまではなくお姉ちゃんと呟いていた。


 ラウネにも肉親とも呼べる、姉がいた。

 ただ、レティシアによって結界が張られる前に、冒険者数人により討伐されてしまった。

 核とも呼ばれる魔石は持って行かれてしまったけれど、その肉体はまだ原型を留めていた。

 姉もただではやられていない。

 妹であるラウネを護るために必死に戦った。

 そして魔石を持ち帰った一人を除いて、全て相打ちにして周囲に散乱している。


 死する姉の最後の言葉、自分を糧にして生き残ってという言葉を胸に秘め、姉を丸呑みしその後姉と相打ちになった冒険者3人を食した。

 その瞬間アルラウネとしてのランクは既に高い粋には達したが、その分他の高位魔物から狙われる事が増える事となる。

 結界外に弾きだされた魔物の死骸は渡りに船であり、貴重な糧であったのは間違いない。


 

 レティシアの聖水(やらしくはない)によって深夜だというのに薬草は芽吹いていた。

 ユグドラシルの苗木も心なしか成長している。

 気付いていないがラウネ自身も進化している。


 「おねえちゃ……」

 眠っているラウネの瞳からは涙が零れる。

 目尻から伝う涙が地面に到達すると、本人も気付かない程度に身体が光る。


 深夜に出歩いている人はいないため、その光景をみた者はいない。

 ユグドラシルの苗木以外は……


 ラウネが呟いたのは肉親の姉か、それともレティシアか。

 夢見状態のラウネ本人しかその心は理解しようもなかった。




 「良く寝た……ふわぁ……おはようございます。」

 誰が同じ部屋にいるわけではないのだが、目覚めたレティシアは朝の挨拶をする。

 決して同じ布団に幼女が寝ているとかいうオチはない。


 洗面台へ行き顔を洗うと、軽装に着替え部屋を出る。

 朝陽を浴びるためだ。別に光合成をしに行くわけではない。



 「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ」

 レティシアは再び絶叫をあげた。


 庭に出たレティシアが目にしたのは。

 其処には……ラウネが土に塗れて眠っていたはずの其処には……


 水色の髪の全裸の少女が横たわっていた。

 大事なところは髪の毛が良い仕事をしていて隠れていた。



――――――――――――――――――――――――――

 後書きです。

 ラウネ、人型になりました。

 想像出来ていたとは思いますが。

  

 ラウネ、なぜ触手で攻撃しなかったのか、今更です。

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