第26話 アルラウネの花の蜜すぷらっしゅ

 新従業員5人が働き始めて数日が経過していた。

 8人体制で住居側を含めて上手く回せているとはレティシアも感じてはいる。

 しかし、現状のままだとストックしてある素材で製作出来るものに限られてしまうため、そろそろ素材採取に行きたいなと思い始めている頃でもあった。


 工房は週に一度定休日を設けている。

 メイには申し訳ないけど自宅を警備して貰おうと考えている。


 レティシアは日帰りで素材採取のため、明日の定休日に森の未開拓地域を探索しようと提案した。

 人数は数人、上限は決めていないけどメイと一緒に2人くらいは残って貰いたい旨は説明をする。

 

 「私は残ってメイさんと料理の幅を広げようと思います。」

 料理人のユキは探索を辞退する。


 「あら、珍しい。貴女は食材食材ィと言って真っ先に参加したいと言うのかと思いました。」

 アルテがユキの参加辞退を珍しく感じていた。


 ユキは料理人ではあるが、その幅は少ない。

 冒険者をしながらの料理だったため、主に肉料理と山菜料理に偏っているのだ。

 ユキはせっかくの天職である料理人の幅を広げ生かすために、万能メイドでもあるメイから技術を吸収しようという心算であった。

 数日一緒に料理をしているだけも充分勉強にはなっているのだが、一日みっちり教えを請うた方が良いと判断した結果である。 


 「私も商品となる人形製作をしたいと思います。」


 「あら、貴女こそ珍しい。伝説の自動人形を作るために色々集めたいのかと思ってました。」

 ラフィーの言う事ももっともで、初日に等身大人形を置いてあった日から新たな人形は製作出来ていない。

 自動人形を製作するには核となる部分の素材が必要となってくる。


 文献に核が必要とはあるが、その製作方法は残っていない。

 アルテはその鍵はダンジョンにあるのではと目星は付けているが、発見には至っていない。

 いつかダンジョンに潜ってその何かを手に入れて自動人形を製作する、それが冒険者となった時の目標だった。


 冒険者時代に使用していた戦闘人形は魔力の糸を通して操っていた。

 エルダートレントとの戦いで一度破壊された人形は、レティシアによって復元され今はアルテの部屋に飾られている。

 いざという時のための自宅の防衛も兼ねて残ると言ったんだなとレティシアは感じていた。


 レティシア、ユーリ、ラッテ、カリン、ラモーヌ、ラフィーの5人が探索に出かける事になった。


 ユキとメイが作ってくれた弁当を持って5人は探索に出かけた。

 街を出てから南側経由で西方面へと歩を進める。

 西側へ行かず真っ直ぐに行けば先日のエルダートレント出現ポイントでもある。


 師匠に頼んでいた外壁は徐々に出来上がっている。

 見えはしないが大分伸びているのでもしかするともうエルダートレント出現ポイントまで伸びているかも知れない。


 レティシアは流石師匠は仕事が早くて完璧だと感じていた。

 店を作った時に無意識に展開した結界の範囲内のため、無駄に魔物が出現しない安全地帯にもなっていた。


 植物や茸類を採取しながら進むとやがて結界の切れ目に差し掛かる。

 結界が切れる場所に辿り着いた時に異変を感じる。

 魔物の死骸が散乱していたのである。


 「これ、シアが結界を張った時に、結界の範囲内にいた魔物が弾かれてたんじゃないかな?」

 ユーリは進言するが、その通りであった。

 あの時に弾かれた魔物はその衝撃で息絶え、死骸が結界の外へと投げ出された。

 元々弱い魔物はその死骸を喰らい……


 食料に困る事はなくなっていた。

 そして森内の勢力バランスは崩れ、弱い個体が強い個体と並ぶようになり、森の中は群雄割拠の魔物の縄張り戦争が起こっていたりもする。



 「あ、アルラウネ。」

 

 レティシアが少し離れた場所にいる植物の魔物を発見する。

 通常のアルラウネであればCランク冒険者で対処出来るくらいの強さである。


 バカな男性冒険者がアルラウネと性交をし、あそこが溶けてなくなったのは文献として残っている。

 そしてその子供、ハーフアルラウネが存在したという文献も残っていた。

 その姿はより人間に近いものとなっていたが、光合成が出来る点、虫等を食す点、指等が蔦に変化出来る点などから忌み嫌われたとも。

 一部のマニアに捉えられたとも、どこかの物好きの嫁になったとも言われているが定かではない。


 そのような事をアルラウネを見たレティシアは思い出していた。


 10mくらいの距離まで近づくとアルラウネもレティシア達の存在に気付く。


 「人間……コロス。」

 レティシア達へと身体を向けたアルラウネ。

 水色の髪が太陽に照らされ綺麗な輝きを放っている。

 下半身部分にはピンクの華と緑と茶色の蔦が存在感をアピールしている。

 太腿部分までは人間の身体であった。

 つまり……前も後ろも人間であれば隠している部分が露わになっている。


 「普通緑色の髪に赤い花とかじゃないの?」


 「あら、可愛い。魔物というよりは妖精さんみたいだね。」

 レティシアの言葉にちょっとだけ嫉妬するユーリ。

 最近嫉妬キャラという位置付けに変わりつつあるのは、ユーリとしては不本意であろう。


 「誰に対しても可愛いと言うのは節操がないですよ。」


 「でも確かに可愛いですね~。」

 ラッテが返すのも無理はない。12~3歳に見えるその幼女アルラウネは下半身さえ魔物でなければ、妹キャラになれそうな見た目なのである。


 「こんな妹分がいれば楽しいでしょうね。」

 ラモーヌは見た目がおっとりお姉さんぽいので猶更そう感じるのであろう。


 「虫……無視スルナ。」


 「あ、ごめん。貴女が可愛い談義が始まってしまって。」


 「フラワーネクター・スプラッシュ!」

 指と手を広げ、腕を前へ出し必殺技のようなものを叫ぶと、アルラウネから透明な液体が噴出した。

 

 「あ゛」×5

 技名を叫んでアルラウネの股間部分から飛沫が放たれレティシア達へと飛散してくる。


 「防御結界。」

 レティシアを中心に円状の結界膜が覆い、分泌物は届く事はなかった。



 「なんかえっちぃ。それになんかイケナイことしているような気になってくる。」

 ラフィーがツッコミを入れる。


 「防御スルナンテ卑怯、スプラッシュスプラッシュスプラッシュ。」

 連発するアルラウネは次第に元気がなくなっていく。


 「はぁはぁ……」

 しかしその表情はどこか恍惚に満ちている。

 レティシアは歩き出し、アルラウネに近付いて行く。


 「すぷっ、すぷっ……」

 ぴゅっぴゅと飛び出す花の蜜攻撃。

 もはや潮吹きにしか見えなくなっている。

 後方では手でその様子を見えないように隠しているラッテ達であるが、指の隙間から見えている。


 「無理しなくて良いんだよ。廻りは敵だらけだったんでしょ?身を護るためだったんでしょ?」

 レティシアは優しく諭す。アルラウネは真っ赤になりながら小さく頷いた。

 レティシアがアルラウネの手に自らの手を重ねて優しく微笑む。

 それこそ、すっかりと忘れていたのように。

 


 「一緒に来る?」

 「……うん。」

 こうしてアルラウネはレティシアの仲魔になった。


 「名前は?」

 「名前はまだない。」


 「じゃぁ……アルラウネだからアルラかラウネね。」

 レティシアはアルラウネの頭を撫でながら候補を告げる。

 「……ラウネが良い。」

 頬を真っ赤にしたアルラウネ、ラウネが答えた。


 レティシアには打算があった、庭に薬草園を作ろうと。

 その薬草の面倒をラウネに見て貰おうと。


 「じゃ、回復っと。」

 「んっあはぁぁぁっ。」

 ラウネは何故か一際高くスプラッシュしていた。


 「お姉さまは女の子たらしですね。」

 ラッテが呟いていた。


 「回復魔法で絶頂……お姉さま流石、さすおね。」

 ラフィーも続いていた。


 「羨ましい……」

 ユーリはしょげていた。

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