第22話 落としどころ

 ベルンスト家当主、ジョニーはただひたすらに謝罪をしていた。

 

 形だけではないのは顔から滲み出る汗を見ていれば伝わって来る。


 ジョニーは関係悪化を防ぐためならば息子と絶縁してでも繋ぎとめてきそうな勢いを感じる。

 父としてそれはどうなのかと思えなくはないが、国のためとなればその選択肢もまんざらではなくなってくる。 

 少なくともジョニーはそう考えていた。



 「慰謝料として王金貨100枚。ユータ君はフラベル領への出入り禁止。出禁に関しては国令として流す事。それと冒険者ギルドにも通達を出し、フラベル領への依頼は拒否させる事。」


 「万が一フラベル領で見かけた場合、逆賊として討ったとしても国は関与しない事。もちろんいきなり攻撃したりはしない。やむを得ずそうなってもという事だ。」


 「流石に一括での支払いだと領地運営に支障を来たす可能性もあるので、10年で分割は許そう。」


 「妥当な落としどころね。」

 第一王女、レーアは呟いた。大方この場にいる者達は納得している。頷いている事からも異論はないようである。

 金貨100枚で王金貨1枚に相当する。つまりはあのエルダートレント討伐報酬の10倍という事になる。



☆ ☆ ☆ 


 「勇者という天職を得て、増長したんだろうな。」

 重苦しい雰囲気から一転、学園の同期生としての喋り方で話すレオナルド。


 「全く、それについてはそうだろうなとしか言えない。王と教皇に指示されたように力をつけていけば良かったのに。」

 会合を終え、一気に老けた気のするジョニー。

 どっと疲れが出たのだろう。


 他の来訪者たちは用意された部屋で休んでいる。


 「シアとの差を感じて男としてのプライドが傷つけられたといったところか。武闘派のウチの人間がキチガイのように強いのはわかってると思ったのだがな。」

 自分の一族をキチガイと呼ぶあたり、自身達が異常に強い事は自覚していた。


 「東西南北全ての師匠から学んだシアが強いのは当たり前なんだけどな。天職やスキルに依存しない自身の強さなんだから、他と差があって当たり前なのに。」


 「それを理解するには、子供世代では無理があるってもんだ。大体レオのとこの他の子供達でも4人全員から学べたのはシア嬢ちゃんしかいないじゃないか。」

 世界には東西南北を冠に置く流派が存在する。

 フラベル家のナンポウムソウ。工房を作った西方無敵のセイホウムテキ、本名は不詳。

 そして東方と北方と合わせて四方を象る流派全てを学んだレティシア。

 それぞれが甲乙つけがたい化け物の流派と恐れられているため、一方を極める事すら通常は困難である。


 流石のレティシアも免許皆伝とまではいかないまでも、四方全てを学園に通う前に学んだ。

 レオナルドのように領主をやってる師匠は他にいない。

 レオナルドが他三方と喧嘩の末に、子供達に教えて貰えるように画策した。


 その結果子供達は教えを受けたわけだが、全てを学べたのはレティシア一人だった。

 

 最も東方はいつの間にか姿を消していたし、父は娘に甘いので完璧にというわけにはいかないが。

 それでも人外染みた強さを身に着けるには充分だった。


 そんなレティシアを、たかだか天職で勇者を得ただけのユータがマウントを取るのは、最初から無理があっただけの話だった。

 レティシアは天職を授かる前から、既に最強に近い存在だったのだ。



 「なるほど、シアのあの強さは四方のおかげなのね。納得した。」

 旧友二人が酒を飲みながら話しているところに突如会話に乱入したのは、本来ここにはいないはずのSランク冒険者ユーフォリア。


 「どうやって入ったとかは聞かないで。普通にドアを開けて入ってきただけだから。」

 Sランクともなれば、人には言えない様々な能力が身に付いているものだろう。

 二人は特に不思議がりはしなかった。


 「老木を倒したのはうちのシアなのだろう?」

 件のエルダートレントを老木と言ってしまえるあたり、レオナルドの力も人外なのが窺える。

 ただ、話しかけられるまでユーフォリアの存在に気付けなかった。


 違和感を感じてはいたけれど、その正体までは掴めていなかった。

 歳かな?と思い始めていたレオナルドの内心だった。


 「そうだね。Sランクの私の肩書を利用した討伐だけどね。その分の対価は貰ったけど。」


 「それで、珍妙な登場の仕方をして何用か?」



 「そのうち使いでも来るかと思うけれど、シアが助けた女性の中に王弟の娘さんがいたんだよね。」

 ずっと目覚めずにいた救出された女性達が目覚めたという。

 ちょうどシアのアトリエが開店した初日の事だった。


 目覚めた彼女達の検査と事情確認などで日を要してしまったけれど、その中にかの人物がいたというわけだ。

 

 近いうちに親である王弟であるウェダー公爵の者から接触があるだろう事を伝えた。

 公爵が娘を助けてくれた人に礼を言いたいと、ギルドに掛け合った事から行きついた話のようだった。


 「私、嘘は付けない性格なので本当の事言っちゃった、てへっ。」


――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 スローライフどこー


 ベルンスト家は慰謝料払って、ユータの出禁でとりあえずは落ち着きました。

 あくまで親レベルの中では。

  

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