第3話 実家へ帰宅
帰還の魔法を唱えて手を繋いでダンジョン最下層から転移してきたレティシアとユーリ。
実の所、ダンジョンからの転移が出来る人間は稀である。
ボスを倒し現れた転移の魔法陣的なものを利用して脱出するのが一般である。
大魔導士を天職に持つアリシアでも出来ない。
ユータが万能過ぎると言うのも頷ける話ではあるが、当たり前のように使っているレティシアにその自覚はない。
そして転移してきた二人が最初に目にしたモノは……
「ねこみみメイド?」
ユーリがその存在を確認すると呟いた。
転移先は少し豪華な部屋。視界に飛び込んできたベッドを見れば平民の部屋ではない事が窺える。
そんな少し豪華な部屋にはメイド服を着用し、頭にはなぜかねこみみを装着した女性が……
ベッドの上でうつ伏せになり、足をぱたぱたとさせながら枕に顔を埋めているところだった。
「オイコラ、メイ。人の枕で何くんかくんかしてるのさ。それと、スカート捲れてるんだけど恥じらいはないのかな。」
「すーはー、すーはー。見せてるんですー。というか今お嬢様の声が聞こえた気がしますが気のせいでしょうかねー。」
頭を枕に押し付けたままのためくぐもった声のメイド、メイは足をパタパタとさせ露わになった下着を惜しみなく見せつけている。
正確にはドロワーズである。
「よし、いっぺん死んでこい。」
ユーリを掴んでいた手を離し、レティシアは歩き出しベッドの横に着けると、メイドの頭を枕にさらに押し付けた。
「ぶべっ!?ヴぁーヴぁー、しぬぅ、じんでしばいばうー。ぶはっ」
(自覚なしの怪力で)枕に強く押し付けた後、後頭部を掴んでメイドを枕から引きはがす。
メイの真横にレティシアの顔。メイの身体は膝立ち状態になっている。
頭を掴んだ腕一本で小柄とはいえ、うつ伏せに寝ていた女性を引き上げるなんて芸当、普通の女性には出来ない。
メイは目線を横にずらすと冷や汗が頬を伝った。
伝ったのは普通に汗だが、血の気も引いてきているのであながち間違いでもない。
「メイ、貴女の変態さは知っているけれど、流石に目の当たりにすると
メイドのメイは実家にいる頃からフラベル家に仕えているメイドであり、歳も近いためレティシア専属のメイドを務めていた。
学園に通っていた頃には一緒に王都に行き王都の屋敷でもメイドを務めていた。
学園の卒業と同時に実家のあるフラベル領の屋敷に戻り、冒険者とはいえたまに戻って来るレティシアのために部屋の維持を行っていた。
どうせいつ戻って来るかわからないからと、清掃する前にこうして枕に顔を埋めたり、布団に入ったりしていたのだけれど……
「ええっぇぇぇえがっ、笑顔が怖いですよ、お嬢様……」
なお、未だに後頭部を掴んでいる手は離していない。
「そそっ、それに私の頭がトマトになります。リンゴになります。ジュースになりますぅ。」
ちなみにメイの天職は唯一無二かは定かではないけれど、「ねこみみメイド」という文献にも記載のないものであった。
それ故に天啓を受けた後からねこみみを着用するようになっている。
辺境伯家の現当主であるレティシアの父もそれは認めている。
メイはレティシアより歳上ではあるが、小柄で童顔なせいか妹に見えてくる時がある事をレティシアは実感している。
「ただいま。私の部屋と客室を1室2時間以内に使えるようにしなさい。それと暫くメイのおやつは抜きとお父様に報告しておきます。」
20歳を超えていてもおやつは好きな者が多い。甘味は別腹であり娯楽の一つと巷では言われているくらいには心のゆとりとなっている。
食べ過ぎて美女がオークになったという話も極稀に聞く話でもある。
それほどに15時のおやつは魅力的で魅惑的なのである。
「そ、そんな……」
「庭に首まで埋まってエンドレス水やり体験する?最近家庭菜園に興味が出てきたのよねぇ。」
「ひえぇぇっ、お嬢様。それはもはや溺死の未来しか見えませんよぅ。」
言動からわかる通り、メイはぽんこつである。
しかし本人の能力なのか、ねこみみメイドという天職のおかげか、心身共に超頑丈ではあった。
その証拠に怪力でもあるレティシアの掴みによって頭部が破壊されていないのがその証拠でもある。
「聖女の言葉とは思えな……」
「何か言ったかしら?」
「スグニトリカカラセテイタダキマス。」
取り残されていたユーリはその一部始終をただ見ている事しか出来なかった。
「お父様達に帰還の報告をしたいけれど、ダンジョンから直接転移してきたから着替えたいね。」
レティシアは別のメイドを呼び湯浴みの準備を急がせる。
実家に存在する者は余程の新規採用者でなければレティシアの転移の事を知っている。
突然現れたレティシアの姿を見て驚く事はあっても対処・対応は早い。
メイの慌てた様子を偶然目撃していたのか、既に準備は進めていたとの事であった。
「私は長女ではないから、元々そこまで厳しくされてないからね。家の中では口調もこんな感じでも許されてるんだ。」
ユーリが疑問に思っていたかは定かではないが、貴族の娘らしからぬ言葉遣いであったためにいつかは聞いていただろう。
「ぱぱんが娘には甘いというのもあるけど。おっと、ぱぱんじゃなくてお父様ね。」
やがて準備が整ったという事で案内された二人ではあったけれど、友人同士二人で入るからとレティシアは使用人を下がらせた。
曲がりなりにも貴族の娘であるため、入浴の際にはメイドが付き添い洗体する。
着替えも本人は立っているだけでメイドが身に着けさせてくれる。
冒険者も経験したレティシアは一人で出来るし、自分でやった方が早いと思っている。
下がらせた使用人にも立場というものがあるため、譲歩策として浴場の外に待機はしている。
「シア、洗いっこしましょう。」
冒険者時代から、もっといえば学園時代から女同士の友情は深めていた二人である。
天啓を得て、荷物持ちとして扱っていなかったユータ達ではあるが、レティシアだけは学園時代と変わらず友人として接していた。
荷物持ちではあったけれど、大きなリュックには最低限のものしか詰めていなかった。
冒険を始めていた頃、その大半の荷物はこっそりレティシアの空間へ納められていた。それが実情だった。
もちろんユータ達は知らない。薄々気付いてはいたかも知れないけれど。
そしてそんな空間への収納をレティシアはユーリに教えていた。
ユーリも空間収納を習得している。
ユータ風に言えば、レティシアは万能過ぎる聖女であるが、ユーリもまたチートと呼ばれるのだけれどユータ達は知らない。
超器用貧乏と言えば良いのか、突出したものがない代わりに全てを得る事が出来る。
装備で言えば剣士は杖を装備出来ないし、魔法使いが剣や斧を装備する事は出来ない。
正確には装備は出来るけど、天職による補正なのか、職に適さない装備はマイナスに補正が働く。
魔法職が重いものを持てないというイメージを考えてみればわかり易い。
魔法使いが剣を装備しても、効果は剣士や戦士に比べ圧倒的に低い。
それでも稀に殴り杖とか特殊な事をしたがる人はいる。
余談ではあるけれど、なんでも拳で解決するレティシアもその稀に含まれるのかもしれない。
しかしすっぴんにはそのマイナス補正がない。
何でも装備可能である。
流石にレティシアを装備は出来ないけれど。
天職に適した装備品に対するプラス補正もないけれど。
それは装備品に対してだけではなく、魔法等にも同じ事が当てはまる。
その気になればほぼ全てを覚える事が出来る。
これらは報告書に纏めて実父には報告済である。
それ故に領主権限でユーリに対しては娘の友人として、最大限ビップ対応をするように使用人には伝えられてある。
だからこその友人同士水入らずの入浴もすんなりといったわけではあるのだけれど……
「あ、あたってるよユーリ。」
「当ててるんです。あ、逃げたらだめですって。」
流石のぱぱんも使用人達も風呂場できゃっきゃうふふが繰り広げられてる事は知らない。
後のユーリ曰く、超仲の良い女同士の裸の付き合いですと。
シャンプーをつけてレティシアの後ろから頭をわしゃわしゃしているユーリであった。
「シアの髪って綺麗ですよねぇ。つやつやですべすべでさらさらで。」
「ほ、褒めても何も出なくってよ。」
オークキングを拳一発でシメるレティシアではあるが、風呂場での一連は普通のツンデレお嬢様のようだった。
そしてその様子を隠れて見ているメイは……
「尊い……てぇてぇですぅ。」
―――――――――――――――――――――
後書きです。
レティシアは昔、フライングピストンマッハパンチでメイを庭に埋めた過去があります。
そして顔にバターを塗って、家の番犬を放った過去があります。
それとあまり貴族の娘っぽくはないです。次女だしそこそこ自由には出来ていたし、ぱぱんが甘々だったので。
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