15 予選
京都予選は北山のコンサートホールで行われる。
1次予選から最終予選まで何回かに分けて行なわれ、去年までの岡崎の会館から変更され、この記念大会が初めての予選会場となる。
「ま、うちらはうちららしく歌うだけやけどね」
江梨加は自信を取り戻したのか、どこか毅然としていた。
宥がくじ引きから戻って、
「今回は3番やて」
「3番かぁ…まぁまぁやんか」
貴子はうなずいた。
そこへ遠くから、
「宥ちゃーん!!」
と、呼ぶ声がある。
振り向くと雪菜が葉月と手を振って駆け寄ってきて、
「応援に来たよ」
今回から、京都予選も地域によるが1次予選も一般開放になったらしい。
演奏は双ヶ丘、二条、鳳翔、壬生の順で、
「いよいよ初戦やね」
固くなっている美織に、薫子が寄ってきた。
「うん…」
今回の『輝ける奇跡へ』で美織は間奏でテナーサックスを吹く。
「…ひゃっ!」
美織が声をあげた原因は、カンナである。
「…ほら、Relux!」
気づくとカンナの手は美織の肩にあって、無言で肩を掴まれた美織が、思わず声を出してしまったらしかった。
2番目の二条高校の順が来ると、West Campのメンバーは舞台袖にスタンバイし、袖で歌を聴いている。
「やっぱり初戦なんやな…何か硬いもん」
しかもグループAである。
そうこうするうちに二条高校が引き揚げて来た。
「さ、行こ!」
バンドリーダーの貴子の合図で、明るく照らされるステージへとメンバーは立った。
どうにか無事にパフォーマンスを終えて舞台袖に引き揚げると、壬生商業のメンバーとすれ違った。
黙礼で入れ替わると、観客席に移って結果を待つ。
楽器や荷物を手に移動を完了すると、第2ブロックはすべて演奏終了となり、一時休憩に入っていた。
「あとは結果待ちかぁ」
「でもこのあと第3ブロックで、桜城とか今出川見られるしえぇやん」
千沙都に薫子が応じた。
結果は今日の日程すべてが終わってから最後に知らされるので、出番が終わると昼休みを挟んで最後まで観客席にいることとなる。
中央地区は第7ブロックまであり、全部で28校出るのでおよそ3時間ほどのパフォーマンスとなる。
その他に。
移動や休憩など細々と時間があるので、だいたい4時間ほどかけて1次予選が行なわれ、それぞれの1位通過の学校をランキング化し、その上位4校が中央地区ブロックの最終予選進出の代表となる。
つまり。
最後まで予選通過は分からない。
「ったく、蛇の生殺しやないか…んなもん勿体つけんとチャッチャとやっつけたったらえぇのに」
イラチなところのある江梨加に言わせると、そんなものらしい。
午前中の最後に中央地区ブロック予選の第3ブロックが出るので、そこでようやく桜城や今出川を目にすることとなる。
「3位か4位あたりで最終予選に行ければ、まぁいいほうかなぁ」
どこか現実的なカンナに対して、
「カンナ先輩、やるからには1位通過を目指さへんと」
ことスクバンにかけては人の変わるところがあった桜花が強く言った。
第3ブロックが始まり、トップに今出川が出ると空気が変わった。
新島実穂子の後を継いだボーカルは華があり、勝ち上がるのは分かり切ったようなところがある。
ブロックのシメは桜城で、
「確かここで、桜花ちゃんのお姉さん出てくるんよね?」
貴子は桜花の姉の桃花が、ボーカルであることをおぼえていた。
──4番、桜城高校・cherryblossom。
アナウンスがあった途端、会場は総立ちとなった。
暗転したステージを人影が動き、やがて鎮まってのち、照明が点くとそこには、衣装に身を包んだメンバーを従えて、白川桃花らしき女子生徒がセンターに立っている。
「…わぁ」
歓声が上がる中イントロが始まった。
チェリブロことcherryblossomは和楽器を採り入れたバンドで、どこかエキゾチックなところが海外から受け、いわば人気が逆輸入のようにして入って上がっていったグループである。
「何か、ときめいてまうわぁ」
宥が思わず聞き惚れたのは桃花の濁りのないボーカルで、和泉橋女子や聖ヨハネ津島といった全国区の強豪校から、スカウトが来たのも宜なるかな──といった声質であった。
cherryblossomのパフォーマンスが終わると拍手が止まず、
「これより昼休みとなります」
というアナウンスが消されかかったほどてある。
昼休みを挟んで第4ブロックのあと第5、第6と進んでいく中、宥はあることに気づいた。
明らかに観客席の人数が減っていたのである。
千沙都によると、
「まぁ桜城終わったらみんな帰るって」
とのことで、結果は午後6時にホームページに掲載されるのもあって、あとからチェックするチームもある。
「そうかなぁ…ちゃんと見といたほうが、なにか役立つような気もせんくはないけど」
「それは宥先輩がマネージャーやからですって」
桜花は冷静に言った。
第7ブロックの最後、宇治北陵の演奏が終わって結果発表が始まると、West Campの第2ブロックの結果がステージのプロジェクタースクリーンに映し出された。
「…1位通過や!」
目ざとい江梨加が素早く見つけると、取り敢えず最終予選に残れた安堵から、大きく宥が息をついた。
が。
ここから上位4校に入れなければ終わる。
第7ブロックまで発表が済み、ランキングがそのあと表示される。
「あとはランキングよね…」
カンナは目を閉じた。
随行していたノンタン先生によると予想は4位通過で、桜城、今出川、宇治北陵、鳳翔が残ると思われていた。
ところが。
ブロック代表のランキング発表の段階でそれは崩れた。
「宇治北陵が2位て…」
千沙都が目を丸くした。
昨年の代表・宇治北陵がまさかの第7ブロック2位で、予選敗退となったからである。
さらにサプライズは上位ランキングの発表でも起こった。
「うそ…今出川が5位って」
これには桜花や千沙都だけでなく会場がざわつき、不穏な空気が漂い始めている。
4位は福知山第一。
「ではベスト3を発表します!」
3位と2位は一気に発表され、驚くべきことに2位に鳳翔女学院高等部〈West Camp〉と記載があったのである。
ちなみに3位は、これまた無名の府立淀高校である。
「…鳳翔女学院って、どこ?」
背後からそんな声がする中、1位はやはり桜城で、つまり桃花と桜花の白川姉妹がワン・ツーで並んだこととなる。
「…2位通過って」
宥は思考が止まった。
「あとは来月の最終予選までに準備せな」
江梨加は頭を切り替えていたらしく、早くも曲の構想をまとめたスマートフォンのアプリケーションを開いて考えていた。
スクバンはオリジナル曲を用意する関係から、準備期間が設けられてある。
「宥ちゃん、やったね!」
無邪気にはしゃぐ貴子に肩を掴まれたまま、宥は何とか思考をまとめようとしたが、そう容易くまとまるものでもなかったのか、
「これは…大変や」
と言うぐらいが、せいぜい精一杯のところであった。
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