二十七話目

 そこからさらに一年。


 どこもかしくも血と炎の海。銃声、叫び声。植民地が散らばり軍隊がどこからでも襲ってくる。

C社会主義連邦国だけ。と言ってもいくつも街を飲み込んでやった。もう首都は見えている。私は戦車を送り込み戦闘機を送り込んだ。最後だ。さようなら、我が旧友。

 


 降伏。



 戦争は幕を閉じた。人々の希望を消し壊し理性を失い死ぬことが正義と教わったまま戦争は終わった。暫く敗北した国は政治がボロボロ過ぎてまともに国が成り立っていなかった。

 我がY帝国は賠償金を得て土地も得ることができた。こちらとしては万々歳だ。しかし他の国からの信頼を得ることができず国際緊張度は高いまま。しかし我が国は大喜びだった。

 生き残った兵士が酒を被ったり、家族に会いに行ったり。国はボロボロでも喜びは大きかった。

 

 


 私は降伏が放送されて大興奮だった。ビルが私に抱きついてきた。情報管理部隊長も泣きながら喜んでいた。死んでしまった人もいた。それでも勇敢に戦った彼らを悔いることはなかった。

 

 一通り喜び終えて静かになった。ニコライは外交に行ってから帰ってこない。ドラジエントもっといない。少し悲しくなりながら帰りを待った。アレクサンドル総統様も、すぐ帰ってくると言った。互いに信頼しあっている彼を私は見て薄っすら安堵した。




 彼はすぐ帰ってきた。軍事基地は再び喜びに溢れた。私も喜んだ。

 彼の姿を鮮明に思い出しながら駆け出した。アレクサンドル総統様がニコライの隣で笑っていた。ニコライは私を見て微笑んだ。私は目から大量の大粒の涙が溢れた。そして私は大きな立派なニコライの体に抱きついた。

「ただいま、アディーレ。」

「おかえり、ニコライ。」

 ニコライは筋肉質な腕で私を優しく抱きしめた。温かい体に溶かされる緊張と恐怖が涙になって零れていった。

「アディーレ、これからもよろしくな。」

 ニコライはそう言って私を撫でてくれた。


 私はアレクサンドル総統様に聞いた。

「ドラジエントはどうしたんですか?」

 するとアレクサンドル総統様は清々しく笑って私を撫でて言った。

「ドラジエントは、少し遠くに行きたいんだと。しかし我々の仲間であることに変わりはないからきっとすぐ帰ってくるぞ。」

 私は泣いた。こんな沢山泣いたのは生まれてはじめてだつはじめてだった。




 


 それから年月は経っていった。しかし皆楽しそうに笑って生きていた。私はニコライと交際していた。彼からだったこの告白は。幸せだった。

 暫くして嬉しい知らせが入った。この国に天才技師が来たと。私は胸が高鳴るのを感じた。

 帰ってきてくれた。


 ドラジエントが。


 彼は、大人らしくなっていた。眼鏡をして赤いマフラーをしていた。荷物はなく清々しい男性になっていた。

 彼は、笑った。私を見て笑った。

「ただいま、アディーレ。」

 私は、泣いた。彼を見て泣いた。

「おかえり、ドラジエント。」

 彼は、沢山のお見上げ話を聞かせてくれた。その後私達が体験した戦争で亡くなった人の墓参りに行った。ニコライをちゃんと彼に紹介して彼は、喜んでくれた。

 

 私の戦争記はここで無事終わった。

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隻脚の外交官 桐崎 春太郎 @candyfish

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