ちゃんと俺を馬鹿にしてればいいんだよクソが

長谷川うたこ

第1話

黙れ。


どいつもこいつも頭は弱いがちゃちな正義感だけは強い。皆、どうやら自分より弱く、劣っていて、可哀想なものは華麗にマントをはためかせ、悪の前に仁王立ちし、声高に正義を謳い守ってあげる姿を演じたがるようだ。肩を組んで一緒に立ち上がってあげるだとか。抱きしめてぬくもりとやらを教えてあげたいだとか。私は、君が可哀想にも持たず生まれてきたものを教えてあげられるよ、だとか。持たざるものには分けてあげようねと笑って。2番目の奴が冷ましやがった風呂みたいなもんだ。先に入れた奴らはその後入る奴がどんなに冷えるか知らない。それを、寒いだろうから入りなよ、私は入ったら温たまった、君もそうだろう、そうなりたいだろう、さあ入りたまえと。目を細めて、口元を少し上げて、まるで平和で安定した世でも作りあげたかのような顔だ。黙れ阿保が。平和ボケしちゃいけないね、とわざとらしく眉を下げて笑い合っている。平和だからボケたんじゃあない。ボケ共が平和だと勘違いしているだけだ。

優しそうな言葉でで丁寧に包まれた欲望なんて受け取れるか。上流階級共は皆、欲を満たすためにさらに欲を重ねやがる。剥き出しの欲望だけ俺に投げつけていればいいのだ。承認と手柄、二兎追うものは一兎も得ず。そうなればいい。

そう、いつだって俺は平和にも、安定にも、幸せさえも手が届かぬ低脳なクズなのである。罵ってくれ、踏みつけてくれ、てめえが居ることが人類の損であると目を見て罵ってくれ。俺に足りないものをベタベタと補ってくれる必要なんてないんだ。凹んでいるんじゃあない、筒抜けなんだ。埋めても埋めても端から漏れ出していく。俺はそんなどうしようもないゴミなんだ。



何が優しさだ。何があなたの為だ。

そんなくだらない見栄なんて張るんじゃあない。自分のためだろう。

有能な手下を増やしたい。目障りだから沈んでないで仕事でもしてて欲しい。恩を売って貸しを作っておきたい。対価を要求したい。俺を助けたという事実で周りから評価を得たい。

そう、言えばいい。

損得でしか生きてないんだ、人間てのは。

それはちっとも悪いことじゃない。後ろ指を指されるようなことでもない。

気持ちよく生きるために、必要なことである。


どうしてみんなそれを恥ずかしがるのか。卑しいと思うのか。いい人だと思われようとするのだろうか。

誰も、他人を根っからのいい人、悪いことなど知らないような人だなんて思わない。皆、人間の考えることなんてわかりきっているんだ。

優しさだとか言わないでくれ。

もう何度も騙されたんだ。二度と信じないと誓ったんだ。俺に少しの希望さえもちらつかせないでくれよ。



値段じゃなく、割引きになっていないことで高いと感じる。

純粋な欲望からものを買えない。

何かを手にする時、必ず売ることも考えている。

人が捨てるものに目を光らせている。

無料じゃないものは生に必要でない限りできるだけ手を出さない。

読み込みが遅いので解像度の低いまま芸術作品を鑑賞する。

時間に価値があることがわからない。

薄まった不確かな情報で生きる。

買い物が焦燥感と隣り合わせで、快感になりえない。

不安か睡眠か、どちらかの日々。

友達と遊ぶと金がかかるから体調が悪いフリをする。

いつしか常に体調は悪くなった。

酒より風邪薬より、自傷の方が快楽まで早く、安上がりだ。

ずっと寝ていたい。目を開けても閉じても暗い。起きている意味があまり分からない。



しかし死ぬのはもっと面倒くさい。

生きてしまったし。


誰も俺のためなんて言わないでくれ。

優しくしないでくれ。助けないでくれ。

信頼など恐怖の種でしかない。面倒は見ないんだろう、だったら蒔かないでくれ。


素直に俺を馬鹿にしてればいいんだ。頼む。

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