AH-project #11 「アダミノシス」


担架を使いウニさんを運ぶ名の知らない研究員の二人とオグラは突き当り左にある『観察室3』へ入って行った。

ヒラダは部屋に入る直前、後ろを振り向いた。

するとこの地下フロアの全体像が分かった。


簡単に言うとL字型で短い辺の端に階段があり、辺部分には観察室と名札が付いている部屋が三つと研究員休憩室があり、観察室3というのは短い辺と長い辺の交わる部分に位置している。


次に長い辺の部分には研究室A(細菌・微生物)、C(植物・昆虫)、D(爬虫類・両生類)、E(鳥類)、F(哺乳類)、手術室、名札の無い無名部屋がある。

そして長い辺の端には生物フロア長兼所長室と名札の部屋があった。


(困ったな。

本来の俺たちの目的はカナタ君を見つけてここから脱出するとこだったのに…。)


「おい、何をしている。」

オグラが入るように急かしてきた。

ヒラダは煽られるまま、観察室3に入った。


ヒラダが部屋に入った時には、ウニさんはベッドの上に移されていた。

「それでは、我々は自分の持ち場に戻らせてもらいます。」

そう言うと、ウニさんを運んだ二人の科学者は部屋を出ていった。


「さて、それじゃあ君たちが言うブドウについて説明しよう」

オグラが丸イスをベッドの近くに用意したので、ヒラダはそれに座った。


「まず、君たちはこの事件を知ってるか?」

オグラは白衣のポケットからタブレット端末を出し、表示されているニュース記事を見せてきた。

そこにはデカデカとした見出しで


”日本に隕石落下 空中で光る物体を複数人目撃”


と書かれていた。


「なにこれ…30年前の記事?」

「見出し通り、この事件は日本に隕石が落ちてきた話…というテイで世間には伝わっている」

「…つまりフェイクニュース?」

「実際の出来事は明らかに一般人向けじゃなかったのでね、大手新聞社に協力してもらい、この記事を作ってもらったのです」

「じゃあ、実際に起きた出来事というのは…?」


するとオグラが端末にとある写真を出した。


そこには地面にできた巨大クレーター。

それを取り囲むように大勢の警察と特殊部隊が配置され、そしてクレーターの中心には、若い男性が両手を挙げてが立っていた。


「本当に振ってきたのは隕石じゃなくて、生物だったんだよ。」


「…え?この人、宇宙人なの?」

ヒラダもウニさんと同じ感想を持った。

どう見ても写真に映っているのは”地球人”である。


「やっぱそう思うよな~

だがコイツは正真正銘、宇宙から飛来してきた宇宙人、エーリアンだ」

「…なぁ、この話のどこがブドウと関係してんだ?」


じれったい話の進め方にヒラダがため息を吐く。


「要するに、この写真の男が”ブドウ”なんだよ」

「え?」「は?」

二人の目が点になった。

「いやどう見ても違うよ?うちのブドウはこんな見た目じゃないよ?」

「…それじゃあ、とりあえずコイツがブドウである事を証明しよう」


話の助走をつけるように咳払いをして、話始めた。


「何の前触れもなく飛来してきた歴史上初の地球外生命体。特徴の一つである体を形成している黒い細胞の中には、ヒトには無い細胞小器官がいくつも確認できている。皮膚といった外膜を持たないため特定の形状を持たず、本来はスライムのような見た目をしている。」


これは完全にブドウの特徴だ。


「でもこの写真じゃあどう見てもヒトだけど。」

「この姿は細胞同士の繋ぎ方や細胞の形状を操ることで、人間の皮膚に近い疑似膜を形成して、ヒトの形に化けている。

さらに細胞の結合の仕方に関係する話で、圧縮が確認されている。」

「圧縮?」

「そうだ。研究によると鉄は簡単に貫けるくらい硬くなるなるらしい。」


思い当たる節があり、ヒラダの脳内に襲われた時の記憶が蘇る。


「まだまだ説明してない特徴が沢山あるんだが…もう十分だろ?」


確かにオグラの言っていることは、ブドウにしか存在しない習性だと思う。

ブドウにしか存在しない習性を説明出来るという事は、ブドウには同種族がいる事、その同種のことは調査済みという事が真実になる。

そして彼がホラを吹いてなかったとしたら写真の男はブドウと同種、または同一人物という事になる。


どちらにしろ、ウニさんの体の中にいる黒い生物は”地球外生命体”という認識になる。


「それが…か」

ヒラダは呟くように言った。


「えっ今なんて言ったんですか?」

「さっきウニさんが気絶してた時、オグラがその名を言ってたんだ。」

「あっ あなたオグラさんって言うんですね」

「え?今そこじゃないだろ。」

オグラが呆れた表情を浮かべた。


「オホン…百歩譲って、この写真の男とブドウが同一人物だと信じましょう。」

100%は信じてなさそうな表情だ。

「それじゃあ、なんで「オグラ君、何かあったかい?」

突然、電子扉の方から声がした。

「しょ、所長!」


(ホンマルのお出ましか…!)


何が起きてもいいようにヒラダは身構えた。

扉がスライドして、姿を見せた。



見た目は、一言でいうと”ネクラ”だ。

深緑色でもっさりしている髪型、前髪は目を完全に隠している。

白衣を着ており小柄に見えるが、よくよく見てみると猫背が酷いだけだった。


「君の仕事はウニさんの捕獲まででは?」

「いえ、所長の手間を省こうと」

「…余計な事をしないで頂きたい。」

前髪の下の目が鋭くなる。


「…申し訳ございませんでした」

そういうとオグラはすぐに部屋をでた。


「…ここからは私、五十嵐イガラシ 楓太ソウタが説明させてもらう。」


この時、見ることの出来ない彼の心の感情には、喜びや期待、煩わしさがあった。

罪悪感は一切なかった。

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