AH-project #10 「ウニ」


「誘拐犯のうちの一人です。」


「やっぱりか!」

ヒラダはバットを前に構えた。

「おいおい、そんな紹介無いだろ…で、そちらはどなた様でしょうか?」

ゆっくりとした威圧的な口調で話しかけてくる。

「別にあなたに話す必要義理なんてない。」

だがウニさんは動じず、強めの口調で言った。

「そうかよ。それじゃあ、とりあえずだなぁ…」


するとその男はおもむろに白衣の胸ポケットに手を入れる。

そしてヒラダを見て、こう言った。



「患者の連れてきてくれて、どーも。」


(何かが来るッ…!)

ヒラダとウニさんは即座に身構えた。


…………。


「何も起こら…」

何も起こらないわけなかった。

その時、ウニさんが崩れるように倒れた。


「ッ!?ウニさんどうした!?」

「そういえば自己紹介がまだだったなぁ。俺は物理フロアリーダーの小倉オグラだ。」

「お前の事なんてどうでもいいから!これはお前の仕業か!?」

「それ以外に何があるって言うん…思ったより効いている。」


ウニさんは床にうずくまりプルプルと震えている。

するとオグラはそんなウニさんを指差して言った。


「お前、そいつの近くに居たら危ない!早く離れろ!」

「急に何を言い出すんだ…?」


そういえば、ウニさんの丸まっている背中が何となく大きなっている気がする。


「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」


突然、ウニさんが叫んだ。

何かを耐えるような絶叫だった。


「いいからそいつから離れろ!!」


ウニさんの背中が急激に膨れ上がった。


それを見たヒラダは危機的にウニさんから離れる。

そして次の瞬間、



ウニの背中から巨大で真っ黒な針が無数に突き出てきた。



「ウニ…さん……!?」


刹那に起きた出来事に言葉を失った。

ウニさんを中心にし、全方向に出土していた円錐型の巨大な針は左右の壁、そして天井に突き刺さっている。

ウニさんの着ていたジャージはだんだんと赤黒く染まっていく。

その時には叫び声は止まっていた。


「…対象の鎮静化に成功したが、これは流石にやりすぎだ」

オグラが白衣に付いているマイクらしきものに話している。

「とりあえず早く装置を切って来てくれ、このままだと、どこにも動かす事すら出来ないし、彼女の命も危ない。」


話が終わったみたいでオグラはこっちを見てきた。


「ところで、お前は本当に何者なんだ?肉親でないのはわかるのだが」

「…ただのリーマン兼一時的にウニさんの身柄を預かっている者だ。」

「そうか…ただの一般人か。すまねぇがこの子の事は国家機密に該当していてな、このままどうぞお帰りくださいとは言えないんだわ。」

「大丈夫だ。最初からウニさんを置いて帰ろうだなんて微塵も思ってないから。」

今のヒラダの目的は『アマネさんとカナタ君を無事に家に帰す』ということだ。

自分の身のために逃げるなんて事、毛頭からない。


「そうか、それじゃあとりあえずアマネ君が目覚めるまで待ってくれ、こんな見た目してるが息はちゃんとある」

オグラは膝を畳み倒れるウニさんに近づき、背中をじっと見ている。

この時、ウニさんの体から突き出た真っ黒な針は徐々に縮んでいた。

そのうち、針は完全に体内へ引っ込んでいった。


「ウニさんは…アマネは今まで通りの生活を送れるんですか…?。」

ヒラダの声色に不安の色が無意識のうちに、にじみ出る。

しかし今のウニさんを見ればみるほど不安は確実に増えていった。

背中から生えた針は体内に戻ったが、そこからは血がじんわりと出ている。

何より背中が穴だらけなのだ。

そんなむごいアマネの姿に、聞かずにはいられなかった。


「常人なら無理だ。。」


オグラは背中の穴を指さした。


穴の空いた背中なんてグロくて見てられないが、そのに何かがあるのだろう。

躊躇ためらいつつも、穴を覗き込んだ。


「これが、アダミノシスの凄さだ」

直径4cmくらいの穴の端に、黒い何かがうごめいている。


「これは…ブドウ?」

全長1cmのナマコのような形をしてる。

そんなブドウは傷口の縁を素早く、なぞるように動いている。


「これは傷口を塞ぐ作業だ。アマネ君の体内にある栄養とエネルギーを使って皮膚のタンパク質を作り、それで周りの皮膚と繋ぎ合わせ傷口を塞いでいる。」


そう説明しているうちにも、どんどんと傷口は小さくなっていった。


「それだけじゃない、まず普通の人間なら体にあんな穴あいた時点で大量の出血は免れない。だがアダミノシスが体内をコントロールしているおかげで、最低限の出血で済んでいるのだ。」


「なぁさっきから言っているっていうのは、もしかしてブドウの正式名称か?」

「んあ?お前たちはコイツのことブドウって呼んでるのか」

オグラが視線を俺に向けた。

「あぁそうだ。まぁアダミノシスという名の「うぅ…」

その時、ウニさんが意識を取り戻した。

「あっアマネ!!大丈夫?!」

脇目も振らずヒラダは声を掛けた。

「はい…なんとか大丈夫。イテテ…。」

そう言うと上体を起こした。

だが起きるのでやっと、という感じだった。


「目覚めたみたいだな、それじゃあ観察室に移動だ」

すると上の階から待ってましたと言わんばかりに担架を持った二人の男が現れた。

「ワタクシは化学フロアのリーダーを任せられ「さっさと運べ。」

オグラが威圧的な口調で命令した。

「は、はい分かりました」

面食らったような反応をする二人はテキパキとウニさんを担架に乗せ、運んで行った。

オグラも無言でその後を付いていった。


(…なんか雰囲気が怪しい。)


バットを拾い、警戒しつつヒラダもその後を付いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る