神の代わりに。

守山 漆

「終幕」

トウキョウ湾で突然始まった。


地球の崩壊が始まった。


トウキョウ湾で発生したバリアのようなものは膨らみながら、触れたありとあらゆるモノを消していく。

このような状況に対処できる人間はほとんどいない。

みんな絵に書いたように悲鳴をあげ、逃げる。


道路では、先頭の遅い車が原因で渋滞が発生し、それに焦りを感じて車を置いて足で逃げる人が現れる。

それにより、一生進まない渋滞が完成した。

車の中が最後になったお利口さんも居たみたい。


歩道の方では全力で走る必死な子供

泣きながら我が子を抱くお父さん

高い位置に登って

「バイザーイ!バンザーイ!」

と消滅してる方に向かって叫ぶ大学生。

まさにヨリドリミドリ。


そんな阿鼻叫喚とした人だかりの中に「サラ」が居た。


サラは急いでいた。

人混みの中を必死に藻掻いて、誰もいない路地裏へと出た。

ゼェゼェと苦しそうに呼吸をしているサラは壁にもたれかかる。

頭はボーッとするし荒い呼吸がなかなか治らない。

力も何となく入らなくなっていた。

体の状態は最悪だった。

そんなサラの両手の中には”レコード”が抱えられていた。


「ドア…」


小さく呟くと、奥へとゆっくり進んだ。

すると少し先に小洒落た喫茶店があった。

扉は全開になっていて、中には誰もいなかった。

全開になってた扉を閉めると模様が伺えるようになった。

木製の扉にはハットを被ったウサギがバーカウンターでコップを拭いている様子が彫られており、

その下には"Master rabbit(マスター ラビット)"と洒落たフォントで書かれたネームプレートが貼られていた。

それ以外の装飾は一切されて無い。

その扉を見たサラは抱えてたレコードを手に取り、


レコードを


扉はまるでビデオデッキのようにゆっくりとレコードを飲み込んでいった。

もちろん、Master rabbitの扉にそんな機能は無い。

レコードが完全に飲み込まれたのを確認し、サラはドアノブを捻り扉を開けた。

その先に広がった景色は思いも寄らないものだった。


真紅の絨毯

黄金の手すり

天井から吊り下げられた豪勢なシャンデリア

まるで、、、

というより完全に殿

そんな空間が扉の先には広がっていた。


扉の方は円が壁に半分めり込んだような形の二階フロアに繋がっていた。

その場所は黄金の手すりが囲むように配置され、二階フロアの左右からは一階へと向かう階段があった。

下の階には分厚い本が入っている大きな本棚。

それが奥の方へ永遠と連なっている。

そして二階フロアの一番端には机があり、その上には一冊の本が置いてあった。


ここがサラの希望を唯一叶えてくれる場所。

超巨大記録保管庫:ホロニック


ここならあのバリアから逃れる事が出来る。


そして、ここなら消えてしまった人、


そして、消える運命にあるこの世界を救う手立てがある。


この時、サラはもう限界を迎えていた。

サラはドアにもたれ掛かるようにして開けてしまったからドアを開けた瞬間、前に倒れてしまった。

真紅の絨毯に手を付き上体を起こそうとした瞬間

「ウ"ッ ゲホッゲホ」

サラは血を絨毯に吐いてしまった。

真紅の絨毯はそれを目立たせなかった。


そんなサラの足にはもう立ち上がれる程の力は残ってない。

「ヤバ、、い」

口の端からは血が垂れ、目は虚ろになっていた。

サラは死力を絞り、這って机へと向った。

足で歩けば数秒もしないくらいの距離。

しかし匍匐前進でしか動くことが出来ないサラにとっては遠く感じた。

その間にもサラの命は削られていく。


それでもサラは這い進む。

彼女は自分の存在意義を理解しているから。


弱くなったサラの体は、目に入る光すらもまともに受け付けられなくなっていた。

眩しすぎて目を開けられないサラは手を前に伸ばした。

すると、手に何かがぶつかった。


「…え?」


頑張って手を上にあげようとした。


しかし、サラの意識はここで途切れてしまった。

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