11
あれ、ボスでアンデットって……女の人?
「か、火炎魔法っ!」
よし、命中した。小屋にも引火していないはず。
……ていうか今のってボスだよね、そういえば確認せずに放っちゃったけど生きてる人間だったらどうしよう。
「生身の人間に火炎魔法とか……容赦ないというか鬼畜というか」
後ろから声がした。や……やっぱりあれ人間だったんだ。
「あ、因みにあれ俺の妻ね。もし怪我してたら弁償かな」
弁償……港の国の女王様からもらったお金で足りるかな。多分足りないよね、労働で払えとか言われたらどうしよう。魔王倒しに行けなくなる。
ていうか怪我で済まない、本当に生身だったら殺人……
炎が収まり煙が上がった。現れたのは焼死体……ではなく、巨大な氷の壁だった。
よかった、相手も魔法使いだったらしい。あれなら弁償は免れ………………ん?
「だ、誰?」
「気づくの超遅いじゃん。女の子の頭撃ったってマジだったのかも」
振り返った先に立っていたのは、黒服姿の若い男性。
私が頭を撃たれたことを知っているって……もしかしてこれがボス?
「いやあ超怒ったんだよ? 俺ら奴隷商であって殺人犯じゃないんだぞって。まあその件もこれでおあいこかな」
ボスってこんな軽い感じなの? しかもあんな中年だらけの集団なのに、この人私と大体同じくらいの歳に見える。妻と言ってたさっきの女の人なんて私より年下だと思う。そんな若い人が……やっぱり相当の実力者なんだ。
男は私をジロジロと見回すとにやりと笑った。
「しかし話に聞いてた通り、魔力量は多そうだからそれなりに良い値がつくね。ところで攻撃しないの? しないなら早速寝てもらうけど?」
物凄い余裕だ。気絶させてどこかにある奴隷市に運ぶ気らしい。
「か……火炎魔法っ!」
「お、急に来たね。でも火ばっかりで芸が無いな」
燃え上がる炎の中から男の声が聞こえる。通りで余裕そうだと思ったらまさか火で燃えない体質なのか。そんなの無敵じゃん。
「これだけ威力が弱ければ俺でも抑えられるな。あの二人はどうも威力が強い魔法を使うから、試しに受ける余裕なんて無かったんだよね。ま、高く売れそうで良いけどさ」
私すごい舐められてる。ていうかエルフの子って回復魔法以外も使えたんだ。それともアンデットだから回復魔法も逆効果とか……?
いやいやそんなことを考えている場合じゃない。火が駄目なら次は氷だ。
「氷魔法っ!」
目の前に巨大な氷の柱が立った。多分男はこの中にいる。
これだけの氷で包まれたならなかなか出られることは…………
……あれ? 氷が溶けている。そんなに簡単に溶けるはずはないのに。
「ふむ。氷魔法も使える……となると大方の属性は使えそうだな」
男の声。あの温度の低い氷に覆われても普通に喋っている。
「風魔法……っ!」
「今度は風? でもなんかこれだけ急に威力弱くなった気がする」
予想通りびくともしない、それどころが男は平然と体に付いた氷を払っている。凍傷すらしなかったらしい。
「な……何で魔法が効かないの……?」
「聞かれて答えるわけないじゃん。で、もう終わり?」
確かに聞かれて答えるわけが…………ってだから余計なことを考えるな。
他の魔法、私がまともに使えるもので言ったら電気魔法か水魔法だ。でも電気魔法はコントロールが悪くてどこに当たるか分からない。それに水魔法は賢者の毒以上の水圧が出せない時点で無意味だ。
「終わりなら……おーい、そろそろ布持ってきて、あと縄も」
男は茂みの向こうにいる女性に向かって声を上げた。
手が出せない。あの女性まで加わったら人数的にも能力的にも私の方が不利に……
……いや、逆かもしれない。彼女がいれば男は攻撃しづらくなる。人質作戦だ。
待った、良いのかそんなことで。
仮にも魔王討伐メンバーの一人、あえて言うことは無いけど正義の側だ。確かに今までも明らかにアウトなことはしてきた気がする。魔物を見逃してるし。私がやった訳では無いけど村に放火したり森林を派手に破壊したり水路に毒流したりしている。あれ、ここまでやってるなら人質はまだセーフなのでは? 一度は生身の人間に思いっきり火炎魔法を放ったわけだし。私だって実質殺人未遂だ。
よし。今回は特別ということにしよう。成功するかは分からないけど。
「何か急に大人しくなったな。魔力切れ……ってことは無いよね」
男からは弱い魔力しか感じない。攻撃は効かないけど彼からの魔法に警戒する必要はないらしい。
そうだ、人質作戦をするなら何か武器がいる。刃物的な、脅しに使える物が良い。今のところ凶器は何も……って何かその言い方はやだな。完全に犯罪者みたいだ。脅迫は犯罪だけど。
あえて言うなら手に刺さってる点滴の針。あれ何で私これ刺しっぱなしにしてたんだろ。通りでさっきから手の甲がチクチクするわけだ。
「あ、来た来た。この子の口塞いどいて」
「はい。この魔力……さっき私に火炎魔法を放った者ですね」
まずい、余計なことを考えている間に女性が来てしまった。今私の後ろにいるらしい。こ、こうなったらイチかバチかだ。無茶な気しかしないけどやってみよう。
「こっ……この針には猛毒が含まれている! 刺さったら瞬時に死ぬ!」
女性の首筋に針を向けた。え、何この話し方。
「なっ、人質とは卑怯だな」
よし、男は動揺している……多分。男がここで妻を選ぶという根拠は弁償の話しかなかったけど。
あともう一押しだ。
「小屋にいる二人を解放しなさい! さもなくば……」
「水魔法!」
言い切る前に後ろで女性が声を上げた。……え、魔法?
銃で頭を撃たれた影響は想像以上に大きいのかもしれない。
女性が魔法を使えること、すっかり忘れてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます