06

「まさに危機一髪! だったね……」

 美女は異様に回復が早かった。森の跡地を出たころにはもう自力で走ってた気がする。なんかもう彼女ってほぼ人外だよね……。

「それにしても、どうしてあんな急に強い魔物が……?」

「魔王に気取られたのでしょう。なにせボス級の魔物が連続で倒されているので」

 私たちは完全に魔王を敵に回してしまったらしい。もう後戻りはできないんだと思うと、途端に必死で逃げ出そうとしていた数日前の自分が恥ずかしくなってきた。……ところで賢者はいつまで町人服を着たままなのか。



 海を挟んで北の大陸の港周辺、通称港の国。正式名称があるのかは怪しい。

 この大陸には人間以外の種族も多く住んでおり、特にここ港の国は様々な種族が共生しているということで有名。

 ……兵士学校のテスト範囲なので教科書の説明を丸暗記していた。待った、正式名称があるのかは怪しいってそんな不確実な情報を教科書に載せてたのかい。


 とりあえず今日も宿をとることにしたけれど、食事代がかさんだせいでそろそろ資金が底をつきそうだ。明日から野宿になるかもしれない。


「しかし、あの魔力……きっと万全の状態で挑んでも無理です」

 ベッドに座っていた賢者が断言した。賢者が言うのならそうなのだろう。

「そもそも何で美女のビームは跳ね返されたのかだよね」

「それは相手が闇属性だからです。先ほどのビー……いや、魔法は恐らく光魔法かと」

「賢者君全知全能だなぁ。ていうかこれって魔法だったんだ」

 確かに美女のビームが魔法だったことは衝撃的だけど、本人も知らなかったのか。

「先ほどのは魔法ですが、今までの村修復などは明らかに違います」

 だよね。あれが魔法だったら全魔法使いが喉から手が出るほど習得したがるに決まってる。

「ところで属性って? 何となく兵士学校で聞いたような気はするけど……」

「魔力の性質、特徴のことです。魔法は基本的に放った魔力に瞬時に属性を付与することで発動します」

「ごめんさっぱりだ」

 いかに私がまともに授業を聞いていなかったかがよく分かる。

「例えば火炎魔法なら火、水魔法なら水……と言うものです。魔物は魔力の塊のようなものなので必ずこの属性を持っています。そこの猫なら…………あれ」

 賢者は振り返ると首を傾げた。

「猫、森に置いてきたみたいです」

「えっ!?……あ、ホントだどこにもいない!」

 美女がベッドの下を覗き込みながら声を上げた。

 なんか猫がものすごく不憫になってきた。前からだけど。



「えっと……それで属性の話でしたね」

 あ、賢者話を戻した。この子やっぱ冷酷かもしれない。

「猫なら毒属性です。そしてさっきの魔物、死霊騎士は闇属性です」

「成程ナルホド。私のビームならぬ魔法は光魔法だから、闇属性の死霊騎士とは相性が悪かったと言うことでOK?」

 光と闇なら逆に相性が良さそうに思えるけどそういうものではないのだろうか。ついていけない。何で兵士学校卒業できたんだろうか私。

「打ち消し合うのでそうなります。逆に同属性でも同化してしまうので駄目です」

「となると相性がいい属性は?」

 美女の理解が速すぎる。今の説明で分かったんだ。

「特には無いです。これは全ての属性に共通して言えることです」

「えっと……つまり美女の魔法はあの魔物、死霊騎士には効かないと……?」

 どうにか理解できたのがこれだ。

「そうですね。まあでも、この属性の知識はこの先一切使わないと思います」

 それなら良かった。というか賢者そんなことまで断言できるとかどこまで博識なんだろう。いやこれ博識関係あるのか。


 難しい話を聞いたらなんだか腹が空いてきた。売店に何か買いに行こうかな。でももうこんな暗いし下の食堂で……でもそれだと食費が高くなるからやっぱり買いに行った方が……。

 ドアノブに手を伸ばそうとした時、ドアがゆっくりと開いた。しかしドアの向こうには誰もいない。もうすぐ冬だと言うのにすきま風だろうか。

 と思ったら下の方に黒いものがいた。

「お、お前ら……俺を飼うならちゃんと面倒見ろ…………」

 例の毒属性、猫だ。どうやらその小さい足で自力で森から帰ってきたらしい。

「猫! 吹っ飛ばした感覚があったけど生きてたんだね」

 え、美女吹っ飛ばしたの? 通りで猫の帰りが遅いと思ったら……

「良かったです。今夜も試したいことがあったので」

「今夜くらいは勘弁しろ! 毎度毎度宿に泊まるたびに変な薬入れやがって」

「まあまあ猫ちゃん、こんな夜に大声出してもしゃあないぜ?」

 美女の口調が地味に変わってる。

「つか俺猫じゃねえし! ちゃんとケットシー様と呼べ!」

「猫ちゃん」

「じゃあ様は任意でいいから」

「猫ですね。それより明日はこの国の訓練所で各自弱点を潰していった方が良いと」

「おい聞けっ!」


 猫曰く帰り道で狩人に襲われたり魔物と戦闘になったりしたらしい。魔物と戦ってしまった以上もう魔王城には帰れないと忍びなく猫を見ていたら不憫さが増した。ちなみに猫は魔王の十七番目ペットだったらしい。そして今夜もいつも通り隣の部屋から一晩中謎の異臭がしていた。これだと魔王城に着く前に変なものを吸って息絶える気がする。主に猫か私が。


 しかしそれでも猫が逃げなかったのはどうしてだろうか。

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