03

 思わぬ形で犯罪者の仲間入りを果たしてしまった。


「いやあにしても凄い威力だったね。村があっという間に火だるま」

 美女がのんきな口調で言った。何でこんなに冷静でいられるのかさっぱりだよ。

 目の前にはまるで何事もなかったかのように村がある。村の人たちは恐る恐る村に戻っていくと首を傾げつつまた仕事に取り掛かり始めた。


 というのも、美女が手からビームを出して全て元通りにしてしまったのだ。

 手からビーム、とかどんだけ古い表現なんだと自分でも思うけど正直そうとしか言いようのないものだった。それ以上の分析は私にはできない。多分あれは新しい禁術魔法とか秘術とか、そんなものは無いと思うけどそういう類なのだと思う。無いと思うけどそれだと思うってつまりどういうことなんだ。

「び、美女、今のは一体何……?」

「うーん……説明めんどくさいからパスで」

 パスられた。美女は自分が今とんでもないことをした自覚が全くないような表情をしている。何者なんだ彼女。美女なら本当に魔王倒せるかもしれない。

 

 ただ怖いのは美女のビームもそうだけど賢者の方。もう完全に彼女が放った謎技の方で頭が一杯になっている。ついさっき村を火だるまにしておいてこれだ。これは手遅れになる前に手加減と言うものを……というか常識を教えないと大変なことになる。二人とも。

「しかし賢者君の魔法凄いね。あんなぱぱっと火柱立てちゃうなんて」

 美女は両手を擦り合わせながら、考え込んでいる賢者の方を向いた。

「うん……なんか王様が二人を選んだ理由が分かったよ。私には到底敵わない域に達してる」

 二人? と美女が不思議そうに繰り返した。やっぱり自覚無しだこの人。それにしても賢者のあれはもしかしたら大魔法使いクラスとかなんじゃ。でも確かに魔王が倒せる可能性が上がるとはいえそんな人材失うのは致命傷じゃないかな……。駄目だやっぱり王様の考えていることは私にはさっぱりだ。

「でも魔女ちゃんの回復魔法のおかげで誤魔化せてるところが大きいと私は思うよ」

「えっ。……そういえば慌てて魔法放ってた気がする」

「あの業火で負傷者ゼロ人だもんね。流石は魔王討伐メンバーの一員」

 いやあそれほどでも……ってまた乗ってしまうところだった。美女は何と比べてそれを言ってるのだろう。

 というか私が平均レベルを超えられるのは回復魔法くらいしかないと思う。これでも小さい頃から何かと回復魔法を放っては『回復魔法乱発娘』と村中の人から呼ばれるようになったからね。とはいっても村だから決して武勇伝とかになる話ではないんだけど。地味に自信の種になっているエピソードでもある。


「それにしても、これなら本当に魔王倒せちゃうかもしれない……」

 思わず呟いたらまだ考えていた様子の賢者が顔を上げた。

「美女さんの力ならどうかわかりませんが……難しい、というより無理だと思います」

「でも賢者の魔法凄かったよ。手加減すべきだとは思ったけどあんな一瞬で火柱立てるなんて……」

「魔王なら同じ要領でさっき通った森まで消失させます」

 さっき通った森……というと大体ここから徒歩十分くらいの距離。

 何それ無理じゃん。ていうか規模が今まで知ってた魔法と全く違って逆に想像がつかない。つまり面向かって戦ったら私たちなんて一瞬で灰も残らない状態になるということ……? 

「ですが一度実力を測ってみる必要はありそうですね」

 賢者は辺りを見回すと、森の出口付近にある大きな穴を見て頷いた。

「この洞窟に入ってみましょう」

「えっ……そんないかにも魔物が住み着いてそうな所に」

「ええ。それに運が良ければボス級の魔物がいると思います。美女さんはどうしますか?」

 話が全くかみ合ってないよ。ボス級がいるってそれ運良いの……? 

 美女は満足げに村を眺めていたが賢者の話を聞いて目を輝かせている。

「行く行く! で、どこに?」

「ここの洞窟です」

「よっし暴れ回るぞーっ」

 二人ともやる気満々だ。これは断れない空気……でもよく考えたら強くならないといけないわけだし、ここは是非魔物を倒して腕を上げるべきなのかもしれない。どうも私は魔王を倒そうと言っておきながらどうすべきか考えていなかったようだ。

 それに対して二人は積極的に強くなろうとしている。私が平均並みなのはこの辺りに原因があるんじゃ……。




「積極的も過ぎるのはマズイってことが分かった」

 そう言いたくなるような惨状だ。というか言った。

「魔女ちゃん回復魔法もう一発求む」

 あの謎パワーを操り自由自在に動き回る美女がボロボロになっている。

「あ、うん。回復…………あれ、いつの間にか魔力が限界間近に……」

「それなら魔女さんは休んでいた方が良いです。魔力は使い過ぎると気絶することもあるので」

 賢者はそう言って自分の傷に自分で回復魔法をかけた。道中気が付いたけど賢者の回復魔法の方が明らかに威力があると思う。私の唯一の自信は完膚なきまでに叩きのめされている。けどその賢者ですら傷だらけ、回復魔法を節約しているあたり魔力ももうそんなに残っていないように見える。

「しかし。まさかあそこで魔法使うと天井が崩れてくるとは」

 美女は破けたズボンにさっきの修復ビームを当てている。道中、賢者が魔法を使ったら天井に当たって崩れ落ちてきたのだ。当たるほど威力を上げなければよかったのではと私は思う。

「でも美女さんが瓦礫をある程度砕いてくれたおかげで軽傷で済みました」

 その降ってきた天井を美女が砕き割った訳だけど、勢い余って壁まで崩れて隣の通路の魔物が大量に入ってきた結果がこれだ。勿論それだけでこうもボロボロになったわけではない。その後慌てて回復魔法を使ったら倒しかけた魔物にまでかけてしまい再度戦うことになったのだ。各自それぞれのの短所が最大限に発揮された結果とも言える。改めて振り返るとほぼ私のせいじゃないか。

 そんな私たちの前にはボス部屋の入口らしきドアがある。

「さて、入りましょう」

「祝! 初ボス戦だね」

 二人はドアを開けて中へ入っていった。


 え、この状況でボスに挑むの……?

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