第42話 外国籍探索者

「また50層超えるのが現れたよ……」


「そうだね……」


 タブレットに表示されたニュースを見ながら、幸隆と亜美が呟く。

 更新されたというのは、攻略されたダンジョンの最深部のことだ。

 これまで、探索者のどのパーティーも50層付近までしか行けないでいた。

 その理由は、魔物の数が原因だった。

 40層を超えると出現する魔物が大量になり、50層に近づけても疲労からボス戦を突破しようなどという危険を冒すような者たちはいなかった。

 それが、数日前に起きたダンジョンの異変によって、一気に魔物の数が減少したため、50層を攻略するパーティーが出現し始めたのだ。


「今回はアメリカのパーティーか……」


 ダンジョンに入れるのは日本人だけではない。

 創世期にダンジョンに入るのは日本人ばかりだったが、魔石が資源として利用できると知れ渡ると、ダンジョンに入る外国籍の探索者たちも現れるようになった。

 英会話教室講師をしていたアメリカ人やイギリス人、料理店を経営していたフランス人やイタリア人など、少数ながら色々な国籍の者たちだ。

 ダンジョンに入れるのは、ダンジョンができるきっかけになった隕石の落下地点から半径2km圏内にいた人間だけだった。

 そして、数年してダンジョンができて以降に生まれたダンジョンに入れる人間の子孫も入れることが分かった。

 それが分かってから、ダンジョンに入れる外国籍の者たちは、自国で丁重に扱われることになった。

 というのも、ダンジョンに入れる人間を増やそうと、多くの子供を産むように促したのだ。

 それによって、今では結構な数の外国籍探索者が存在している。

 その中でも、外国籍探索者の中でも多い部類のアメリカのパーティーが、今回50層を突破したというニュースが流れてきた。


「外国勢は攻略を目指しているからね」


「そうだな」


 日本の探索者と外国籍探索者の考え方には少し違いがある。

 魔石を手に入れて、それを売ることで収入を得ることがメインの日本の探索者とは違い、外国籍探索者はダンジョン攻略を目指している者が多いのだ。

 ダンジョンは、この地球上の日本にしか存在していない。

 魔石によって、世界屈指の経済大国に戻ることができた日本を、世界各国は内心快く思っていない。

 日本が一人勝ち状態だからだ。

 いつまでもその状態でいさせないように、ダンジョンを攻略してしまおうという思いが強いのだろう。

 魔石によってさまざまな分野を発展させてきた日本側からすると、はっきり言って外国籍探索者は迷惑な存在と言ってもいい。

 しかし、多くの国からの抗議を受け、日本だけで独占するわけにもいかないため、外国籍探索者を受け入れざるを得ないという状況だ。


「本当にダンジョン攻略されたらどうなるのかな?」


「今の日本だと少々まずいだろ」


 魔石を使用することで、日本はエネルギー分野の心配が要らなくなった。

 それに防衛の分野においても、魔石に依存しているところがある。

 正確には魔石を使用した探索者の力によるところが多いのだが、魔石がなければ探査機者はダンジョン外での魔力を使用することができないのだから、魔石あってのものと言ってもいいだろう。

 依存しているだけあり、今ダンジョンが攻略されてしまえば、日本の経済は一気に落ちる可能性が高い。

 この数日の外国籍探索者たちのニュースを見ていて、ふと疑問に思った亜美が問いかけると、幸隆は自分の考えを述べた。


「今のうちに動けば、大したダメージを受けることはないだろうけど……」


 そのうち、ダンジョンを攻略されてしまう可能性はゼロではない。

 それが、日本人探索者によるものなのか、それとも外国籍探索者なのか分からないが、今から攻略される可能性を考慮して、魔石に依存しすぎている状況から脱するべきだ。


「……それはちょっと難しいかもね」


「あぁ……」


 幸隆が言うように、亜美も今のうちに魔石依存の状態から脱しておく必要があると思っている。

 しかし、そうしようにも、魔石依存になったのは政府の誘導によるところが大きい。

 その政府が、今さら方向転換するとは思えないからだ。

 この国の政治家の本質はいつまでたっても変わらない。

 選挙の時だけ国民の気を引くようなマニュフェストを言うだけで、選挙を通ればマニュフェストのことよりも次の選挙をどうやって通るかを考えるだけの老人の集まりでしかない。

 国民の側も、何も考えずに今まで通りに与党に投票する者が多いし、極端な変革を求めている人間は少ない。

 本当に国民のためを思っている人間は、まず政治家にならないというのが本質だ。

 極端な変革ともいえる魔石からの脱却なんて、政府が選択するわけがない。

 そのため、亜美と幸隆は、その判断をする可能性は低いだろうと考えた。


『どうせそのうち、攻略しないとならないかもしれないんだから、さっさと方向転換しろよ』


 先日、倉岡家の当主である与一と、自衛隊員たちと共にダンジョンの異変を調べたときに与一が言っていたことを、幸隆は思い出していた。

 40層以下にあふれていた魔物たちが減った理由は、ダンジョンが急成長して更に地下に伸びたからだと思われる。

 成長したことにより、その深さは上部マントル付近までいっているのではないかと思われ、このまま成長を続けるのだとしたら、そのうち地球の核にまで到達してしまうのではないか。

 そうなったとき、日本のみならず、世界がどうなるのか分かったものではない。

 もしかしたら、地球が破滅する可能性がある。

 そうなる前に、ダンジョンの成長を止めるため、攻略をしなければならない時がきっとくる。

 その時が来るのが分かっているのだから、魔石依存からの脱却に進めておくべきだと幸隆は心の中で思っていた。

 本当は口に出したいところだが、それは与一から止められているため、口に出すことは控えた。


「そういえば来週から指導を再開するって言われた。亜美もそのつもりでいてくれ」


「うん。分かった」


 数日前におこなった調査によって、ある意味安全性は確認できたため、幸隆たち学園生もダンジョンに入ることが許可されるようになった。

 それに伴い、与一も指導を再開することを幸隆に知らせてきた。

 当然、亜美も一緒だ。

 そのことを告げると、亜美は嬉しそうに頷いたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る