カカの書塔 四
ポ助はそれを聞いて黙っているような奴ではない。
きっと死ななくてもいいようにと、カラスや猫たちと必死に動いた事だろう。それは右の前足を怪我している事と無関係ではないだろう。
だからそれ以上は何も言えず、シタは黙ってテレビをつけた。
するとそこに書塔のあるあの山が映っている。
それはニュース番組で、光水の違法採取の現場だとアナウンサーが喋っている。
「なぁ、ポ助。こんな風にニュースになっているのか」
「あぁ。光信社の連中が長いこと違法採取してたって分かってな、塔がグルなんじゃないかって疑われてんだよ」
ポ助は言ってから「あっ」と声を漏らした。
そしてシタは、しまったと頭を抱える。
カカが見舞いに来なくなって何かあるとは思ったが、書塔が世間から隠されるという事を過信し過ぎた。
書塔はあくまでも塔を守るために隠すのだ。
「お前が今日は私に言うなと言われた話はそれだけか?」
「あぁ……いや。バレたから全部言うけど、カカが行方不明なんだ」
「なに⁉ なんでそんな大事な事を言わなかったんだ!」
「お前が探しに行くから退院した日はダメだって言われてたんだよ! それに、行方不明とは言っても攫われた訳じゃない。カカは自分で出て行ったんだ」
書塔のある山には連日報道陣が詰めかけ、ああでもない、こうでもないと同じ話を何度も話しては今に始まった事ではない濃い光水を、さも悪徳かのように撮っている。
それに乗せられた国民感情は光信社の社長の自殺により行き場を失くし、一気に書塔に向いた。
「すぐに行くぞ!」
シタはポ助を連れて車に乗り込む。
さっきは話に夢中で気付かなかったが、町の様子はがらりと変わっていた。
見かけなくなったアバター。記念撮影のない葬儀。高騰する塩の価格。あちこちで見られる、岩塩ありますの幟。
「カカがいなくなってどれくらい経つ?」
「今日で六日だな」
「ウナはどうしてるんだ?」
「それがさ、ウナの事は誰も気にしないんだよ。目の前にいればインタビューされたり、責められたりするんだけどな。町に買い物に出ても誰も気づかないんだ」
なるほど、とシタは納得する。
やはり自分が塔を新しく建てたとしても、主はウナなのだ。ワッカ爺さんが亡くなって、塔によって選ばれた主なのだ。
だからウナだけは隠されている。おそらくカカはそれに気づいたから出て行ったのだろう。ウナを守るために。
着いてみると静かだった町外れの山の入り口はワゴン車が何台も路駐されており、野次馬たちの物と思われるペットボトルや袋のゴミが散らかっている。
車で中に入って行くと、すぐに河原で撮影をしていたカメラマンが追いかけてきた。
塔の下の駐車場に向かうまでにも、木には『自首しろ』だの『出ていけ』だのと書かれた旗がくくられている。
中には『私の夫を返して』などといった旗も見られた。
「酷いものだな」
「あぁ。一応カラスたちがウナの護衛をしてくれてるぞ」
「そうか。それは有り難い」
人間たちとは大違いだ、とシタは言葉には出さずに思う。
書塔自体は新たな核によって直ったものの、山のあちこちには黒い獣たちの遺した爪痕が生々しく残っている。
こういう痕を映し、黒い獣たちが現れた場合の対処の仕方などを流すテレビはないのだろうか、とシタは怒りに顔が火照る。
「ないのだろうな。視聴率が取れる方を選ぶのだろう」
「どうした?」
「いいや。あぁ……ここは本当に酷いな」
シタは言いながら車を駐め、書塔への階段を見上げる。
誹謗中傷、感情に訴える様々な言葉の書かれた無数の立て札。泊まり込みのテントがいくつも張られ、塔に向けて監視のためのカメラがセットされている。
注連縄のような太い縄のバリケードは、ウナの張った物だろうか。
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