イタコと犬 九
じっとしていると気が遠くなりそうなズキズキと鋭い痛みに襲われる。
傍らに物言わぬ彼が横たわり、山は夏真っ盛りで蝉が騒々しく、小川の流れる音が喉の渇きを刺激する。
目を閉じたらあっという間に意識が揺らぎはじめ、遠くに猫の鳴き声を聞いた。
しばらくすると「生きてるか?」という相棒の声が聞こえ、腹の上に無遠慮な重みを感じた。
「あぁ。なんとかな」
「依頼人が来てるぞ。その人が救急車も呼んでくれたから」
ポ助の言葉に崖の上を見ると、こちらを覗き込むユリの姿があった。
それからシタは救急隊に助けられるまで、ユリさんに本当の事を伝えようかなんと報告しようかと、そればっかり考えていた。
そして病院でやっと二人きりになった時、シタはユリに言う。
「すみません。彼は野生に帰っていました」
彼女は驚愕して目を見開いたけれど「死んでしまったとばかり思っていたので安心しました」と笑う。
そして、誰にも言わないと約束してくれたのだった。
そうしてから、シタはまた物思いに耽る。
「これは新たな自殺の形かもしれない」と言ったきり黙り込んでしまったシタに、ユリは「ポ助たちの所へ行ってきます」と伝えて病室を出る。
その言葉さえ、シタはもう聞いていないけれど。
光水核と呼ばれる結晶、集霊器を狙う誰か。おそらく元の持ち主だろうが、コソコソとしている所を見ると真っ当な奴らではないだろう。
そんな考えの合間に「あぁ、でも」とシタは呟く。
「こんな逃げ方も、案外と悪くないのかもしれない」
その日シタは、病院の駐車場で給料を請求して鳴く猫たちの大合唱を聞きながら眠った。
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