ドレイクのプリンセス

 ルティアの後を追って、ボクたちは崖の洞窟へ向かっていた。


 途中、助け出された村人が魔物に追われていたので助ける。


 事情を聞くと、やはりルティアが一人でアナンターシャと戦いに向かったという。


 地下からとてつもない熱源を探知したキュアノが、崖の真下全体を魔力障壁で覆い尽くす。


 直後、大火力を誇る漆黒のブレスが。


「ものすごい力が、地下からせり上がってくるよ!」

「任せて」


 キュアノが、サーベルを抜く。バサッとパラソルのように、刃を展開させた。


「それは?」

「ダンセイニ卿がくれた。ドレイク族の技術が使われていると」


 キュアノの張ったバリアが、漆黒のブレスを簡単に弾き返す。


「ぎゃああああ!」


 身体を焼かれて、女の人が身悶えている。多分、あれがアナンターシャだよね?


「ルティア、助けに来たよ!」


 地下まで飛び降りて、ボクはルティアと再会した。


「バ、バカヤロウ! どうして逃げなかった!? アタシなんか死んだっていいんだ!」

「王女様一人、戦わせられないよ!」


 ボクが言うと、ルティアは黙り込む。


「そこのエルフから聞いたのか?」


 たしかに洞窟へ向かう途中、キュアノからあらかたの事情は聞かされた。


 ルティアが王女様で、シュータも別勢力の王子様だって。


 ヨートゥンヴァインの王様も、ドレイクの事情に詳しかった。そのため、ルティアの事情も王様にはバレていたらしい。


「違う。ボクはキミの正体に、薄々勘付いていた。なんとなくだけれど」


 ボクは、首を振った。


「いつから気づいていた?」

「ダンセイニ卿のお屋敷で、衣装の造形にやたら詳しかったでしょ?」


 身につけているドレスも、上品さが前に出ている。


 そのことから、ルティアはどこかのお姫様だったのでは、と思った。で、ドレイク族の王女が失踪したと聞いて、ルティアの存在が浮かんだ。


 キュアノから事情を聞かされて、確信する。


「そうだよ。アタシはエルネスティーヌ王女だ。でも、そんなことはどうでもいいじゃないか」

「まったくだよ。キミはルティアで、相棒はシュータだ」

「けど、シュータを元に戻すために、アタシは大変なことを」


 ヒザをつき、ルティアはうなだれた。


『ルティアが改心して、よかったのです。ぼくは、この姿でも満足なのです。ルティアが罪の意識に目覚めたことが大事なのです』

「けど! あたしは何もしれやれなかった!」

『どうしようもないのです。一度失った肉体は、元には戻らないです』


 現実をシュータからつきつけられ、ルティアが歯を食いしばる。 


『今は、アナンターシャを倒すことなのです! その後はその後で決めればいいのです! ここで落ち込むなんて、ルティアらしくないのです。ぼくの大好きなルティアは、前を向いているです!』


 騎銃を持つルティアの手に、力が戻っていく。


「そうだよな。ここでヘコむなんて、アタシらしくないよな」


 ルティアは立ち上がった。騎銃を一回転させて、肩に担ぐ。


 では、さっきからのたうち回っているボスキャラを撃退しよう。


 全身に炎を浴びて、アナンターシャはとんでもない状態になっていた。髪の毛は乱れ、皮膚はヤケドでただれている。

 顔には憎悪の念が全面に現れ、美貌は見る影もない。

 いや、元々これが本性だったのかもしれなかった。


「おのれえ。どいつもこいつも、わらわの邪魔ばかりしおって! 許さん!」


 美しい女の姿が膨れ上がり、衣服が弾け飛んだ。


「この美貌を維持する必要もない! お前たちを取り込めば、済むことだからねえ!」


 アナンターシャが、美女から醜い竜の姿となる。全身が泡立っていて、色も灰色に濁っていた。


「まさか、この姿を晒すことになるとはねえ!」


 首もブヨブヨの脂肪まみれで、支えるのも重たそである。ちょっと動いただけで、アナンターシャはゼエゼエと息を荒くしていた。


『邪神が内側から、アナンターシャの身体を食い破っているのです』

「制御できていないってこと?」

『はいです』 


 それを、アナンターシャが強引に抑え込んでいるわけか。


「昔のテメエは、性格こそ悪いが強い戦士だった。だが今は、黒竜だった頃のたくましさなんか微塵もねえ。ただのバケモンだ」


 不快感をあらわにしながら、ルティアが身構える。


「化け物で結構だよ! こうして最強の力を取り込んだのだからね! そしてわらわは、更に強くなる。魔王すら取り込んで!」


 よだれを垂らしながら、醜悪な竜と化したアナンターシャは口を歪ませた。


「哀れだな。邪神を吸収したことで強くなった代わりに、身体が崩壊に耐えられないか」


 こうなってしまうと、放っておいても死ぬ。しかし、とどめを刺さずにはいられない。


「何度でも言いな! 魔王を殺して取り込めば済む話だからね!」


 そうやって、この女は同じことを繰り返すんだ。世界じゅうを食いながら。


「勇者のいないお前たちなんかに、わらわは倒せない! 勝ちたければ、勇者にシッポでも振るんだね!」


 随分と、舐めたことを言う女だ。


「お前なんか、ホルストが手を下すまでもないよ。ボクたちで十分だ!」

「どこまでもマセた小僧だね! 女の格好なんてしているくせにさ!」


 うるさいなぁ、着替えるヒマがなかったんだよ! 

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