海賊の背景
ドラゴン頭の騎士が、ボクらの船に降り立つ。どうも彼が、船長さんのようだ。
「あなた方が、クラーケンを退治してくださったのですね? ありがとう」
ボクは、ドレイク族の船長に声をかけられた。
「信じられませんな。こんな大部隊でさえ手に負えなかったクラーケンを、たった三人だけで倒すとは。すごいお力の持ち主とお見受けするが」
「ええ、まあ。やったのはあの子ですけれど」
ボクは、ルティアに視線を向ける。
最大の功労者は、ふて寝していた。こちらに見向きもしない。ドレイク族だと知られると厄介なのか、シーツを目深に被ってピクリとも動かなかった。
「騎士様たちは、どうしてこちらに?」
「はっ。クラーケンの討伐に、やってまいりました」
さる貴族の荷物を運搬するので、邪魔な海賊とクラーケンを倒しに来たという。
騎士団様まで動かせるなんて、その貴族様ってすごい権力の持ち主なのだろう。
「ですが、一足遅かったようだ。海賊を追い払えただけでも、よしと致します。ありがとうございます」
艦隊の誘導で、ボクらは港を目指す。
「もっとお話したいのですが、作業があるので失礼します」
ドレイク族の船長は、自分の船に戻った。
「少し横になっているといい」
「そうするよ。疲れちゃったね」
キュアノに膝枕してもらいながら、ボクはウトウトする。
ルティアの騎銃が、カタカタと動き出した。
『さっきから重いのです、ルティア!』
「どわっ!」と変な声を出して、ルティアが騎銃から突き飛ばされる。それにしても、騎銃が言葉を発したように思えたけれど?
「さっきは、ありがとうです」
「わ、なんだ!? 騎銃がしゃべった!」
やっぱり、さっきの声はルティアの騎銃からだ。正確には、騎銃についているストラップからである。
『ぼくは、ルティアの使い魔のシュータなのです。この騎銃に取り憑いた、精霊なのです』
ルビー色に光る小さい玉が、ピカピカと点滅しながら話す。人間の上半身を浮かび上がらせた。幻影を映しているらしい。
「使い魔じゃねえって、お前は」
なぜかルティアが、悲しげな顔をした。
『バカなルティアがケンカを売って、ごめんなさいなのです。おまけに無愛想な子で、でも、ルティアはそこもかわいくて大好きなのです。ほんとはいい子なのに、素直になれないだけなのです』
「なあっ! バッカお前……」
恥ずかしい紹介をされて、ルティアは不機嫌そうに舌打ちをする。
「気にしなくていいよ。ボクはサヴ」
ボクに続き、キュアノも名乗った。
『ありがとうなのです、サヴ。でも……』
シュータは、落ち込んだ顔になる。
『裏切ってしまった以上、村人の命が危うくなるかもです』
「ワケを話してくれる?」
『はい。ぼくとルティアは、この海を邪神から守る竜族です』
それは知っている。邪神を倒せたのは、この地に住むドラゴンの協力があったからだ。
『勇者が邪神を倒してくれたときは、しばらくこの村は安全だったのです』
しかし、竜族の敵対勢力が、表舞台に返り咲く機会を伺っていた。
「それが、アナンターシャとかいうやつ?」
『はい。奴らは卑しくも、邪神側の竜族なのです』
邪神が封印されたのをいいことに、邪竜たちはその力を自らに取り込んでしまった。その力で、竜族をほぼ壊滅に追い込む。
「死んじゃったの?」
『逆に力を封じられたのです。なんとかしようとしたのですが、ぼくたちも村人を捕らえられて』
結果、邪竜のいいなりになっているそうだ。
『アナンターシャはその力を使って、魔族とも手を組んだのです』
竜人族は力こそ強いが、争いを好まない。好戦的な個体は少ないという。
力を奪われ、今は並の冒険者程度の力しか使えないらしい。
「村人が海賊をやらされているのも?」
「はい。その代わり、家族の安全は保証すると」
しかし、海賊である彼らの方が命の危険にさらされている。
「抵抗したくても、邪悪な力で海を汚染されているので、漁にも出られず」
アナンターシャが海にはなった瘴気のせいで、漁獲量が減少傾向にあるという。魚が獲れたとしても、街の貴族に持っていかれる分で終わり。村民たちには食料がまわってこない有様だ。
「だから、さらに海賊行為をするしかなくて」
「ひどい! 最低な奴らだ!」
ボクらがいなくなってから、そんなことが起きていたなんて!
船が、港に到着した。
『これでお別れなのです。サブさんキュアノさん、さようなら』
「あばよ」
ルティアは自分から、騎士団のお縄につこうとする。
「君は脅されて加担していたんだろ?」
『それでも、罪は罪なのです』
騎士団も、ルティアを捕まえていいかどうか迷っていた。
「待って。この子は、利用されているだけです!」
「事情は、取り調べで聞きますから」
「そんな!」
ボクが騎士と言い争っていると、一人の紳士が港に現れた。整えられたカイゼルヒゲを口に携え、まるまると太った中年男性が。
「なんの騒ぎですかな、っておや? あなたは」
「ああ。ダンセイニ卿! ちょうどいいところに」
アウノ・ダンセイニ伯爵。彼こそ、ボクの知り合いである。
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