第三章 男の娘ニンジャと、神待ち竜幼女

新パーティ名 決定

「これからどこへ行く?」

「まずは、ファウルハーバーのギルドだね」


 ファウルハーバーに到着する。走ってきたから数時間で着いた。


 ここでやらないといけないのは、ギルドの変更である。


 入所すると、さっそく冒険者たちから変な視線を向けられた。ボクが追放されたことは、知れ渡っているみたいである。


「ねえサヴ、ホントに追い出されちゃったの?」


 一人の女魔法使いが、ボクに話しかけてきた。


「はい」

「よかったら、ウチでお世話するけれど? あなたニンジャでしょ? トラップ解除要因が欲しかったの」


 彼女が引き連れているのは、総勢一三人の中規模パーティである。

 しかし、彼女たちはファウルハーバー近隣でしか活動していない。依頼達成率は高いが依頼の量自体が少ないため、パーティのランクも低かった。

 いわゆる、お気楽集団である。


「ごめんなさい。別の土地に行く予定なので」


 ボクが詫びると、女魔法使いもいさぎよく引き下がった。


「あらそう。気が向いたら立ち寄って。元勇者御一行なら、いつでも歓迎するわよ」

「ありがとうございます。スカウトをご所望なら、ブランケンハイムに有能な冒険者がいますよ。子どもですけれど」


 メモを書いて、ボクは女魔法使いに渡す。


「ボクの名前を出せば、パーティに入ってくれるかも」

「助かるわ。ありがとう。危ない旅はしない主義だから、その子はウチで鍛えるわ」


 上機嫌になった女魔法使いは、ボクたちに投げキッスをよこした。


 気を取り直して、受付へ。


「いらっしゃる頃だと思っていました、サミュエル・フォン・ブランケンハイム様」


 ギルドの受付嬢さんが、笑顔を見せた。やはり、ホルストを通じて事情を知っているらしい。


「いつもどおり、サヴでいいですよ。ボクがお屋敷を出ることは、想定済みだったってことでしょうか?」

「ひとつのところに押し止められるとは考えにくいと、ホルスト様が」


 ホルストらしいね。ならば、話が早い。


「冒険者ギルドの登録を、やり直したいんですが」


 ボクは、勇者のパーティを追い出されていた。今後は、キュアノと組む。


 ギルドカードの提示を要求されたので、二人一緒にカウンターに置く。


「二一歳なんだね、キュアノって」


 ボクが一七歳だから、キュアノの方が四歳年上だ。 


「では、こちらに新ギルド編成の申請を」


 ギルドの受付嬢が、紙を渡してきた。


「ご記入の前に、まずギルドを変更したことについての諸注意を説明しますね」


 受付嬢さんが、ボクたちに書類を見せてくる。


「まず、サヴ様はパーティのランクが下がります。イチからスタートになりますが、よろしいですね?」


 パーティとしては、新設したばかりだから、たとえ、かつて勇者パーティーに所属していたとしても。


「平気です」

「といいましても、これまでのあなた様の実績から換算して、ランクは算出されますので、ご安心を」


 レベルや依頼達成度などの個人実績は、普通に引き継がれるという。


「人数は?」


 現在、仲間が増える予定はない。


「キュアノと二人でいいね」

「そう」

「ところでさ。ボクの登録名は、変えたほうがいい?」


 一応ボクは、ホルストから逃げている。彼が追ってくることも視野に入れないと。


「サヴリナとか、名前の考えてはいたんだけれど」


 提案してみると、キュアノは首を振った。


「私がついている以上、どのみち足がついてしまう。むしろ元の名前で動いたほうが、向こうも無事だと安心する」

「うーん、連れ戻されないかな?」

「あなたが一度や二度の捕獲で心が折れる人物なら、そうしてる」

「そうだね」


 いくら「頼りがないのは元気な証拠」とはいえ、ホルストならしょっちゅう様子を見に来かねない。


「女性名で変装を考えているのは、自分が女子っぽいと自覚があること」


 やたら食い気味で、キュアノは熱弁する。


「そういうつもりはないからね」


 あくまでも、見つかりづらさを考慮に入れての判断だから。


「普通に登録をやり直そう」


 ひとまず、名前だけ登録する。あとは。


「パーティ名は、何にしようか?」

「勇者たちの軍勢は?」

「『鉄槌アイゼンハンマー』だよ」


 命名者は、カミラである。

 ホルスト的には「自分たちが正義感ぶるのは好ましくない」と、難色を示していた。まるで、自分だけが正しいみたいだと言って。


 ヘルマは「悪党をぶちのめすぞ、とアピールできればそれでいいのよ」と軽く考えていたらしい。それで自分たちにヘイトが集まって、嫌でも悪党が寄ってくるぞ、と。


 彼女は「自分の信じた正義を貫きたい」のではなく、「合法的に人を殴れれば、それでOK」な性格なのだ。とはいえ、自分のパンチで悪が減るとも思っていないリアリストである。


「チーム・クノイチ」

「それだと限定されちゃうね」


 キュアノはニンジャではないし。


 うーん、女装が得意なニンジャと、男装の麗人の騎士なんだよね。

 あーもう、ホルストがあんなこと言わなきゃ、こんな苦労なんてしなくてよかったのに。

「ボクなんかに惚れてるんじゃないよっ。ホルストのやつ」

「それ」


 ボクを指差して、キュアノが言う。ペンを取って、こう書く。


「へええ、【ガチ恋無用ドント・フォール】か。なんか、どんな組織かわかんないや」

「謎めいている方が、私たちらしい」

「……いいね」


 これで、登録完了とした。

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