お墓参り

 翌日、応援に来てくれた騎士団により、村はサッパリきれいになっている。


 ボクは、母の墓前に華を添えた。一〇年以上経っているけれど、母のお墓はピカピカに磨かれている。きっと、父が手入れをしてくれていたのだろう。


「どうしてバルログが襲ってきた?」

「ああ、リストラよ」


 キュアノの問いかけに、父はあっけらかんと答えた。「働き者の無能はすぐ殺せ」という理由からであろう、と。魔王からの指示というのが引っかかった。おそらく、人減らしをしたんだろう。この地に関して、なんの情報も与えずに。


「どうして? 魔王の配下なら、この土地がどんな場所か知っているはず情報共有していない?」

「学校で言えば、授業をサボっていた学生だったんでしょうね」


 教えていたが、聞く耳を持たなかったのだろうと、父は推理している。手がつけられないワルだった可能性が高い。態度の悪いクソガキに、魔王が社会の厳しさをわからせたのではないか、と。


「どうせ、倒しても弱体化してリスポーンするのよ」

「どこに?」

「あれ」


 先日もいたキッズ冒険者たちが、またゴブリンと戦っている。


「この村で死んだ魔物や魔族は、ああやってゴブリンやウルフになってやり直すの」


 あるいは心が折れて、おとなしく森の精気となるか。いずれにせよ、最下級からのりスタートとなる。


「それにしても、ネームドのバルログ族程度なら、意に介さないのね。結構強めの魔族なんだけれど」

「うん。確かにすごい……」


 父とキュアノから称賛を受けても、ボクは素直に受け取れない。


「母は、この一〇倍は強かったよ」

「そんなに?」

「ボクも、よく覚えていないけれど」


 もう一〇年も昔のことだ。


「亡くなった母こそ、まさに鬼神だった」


 父をも凌ぐ最強のクノイチで、そのまま世界さえ救えるんじゃないかって思えた。病でさえなければ。ここを襲いにきた魔王の一人と戦って、母は死んだのである。


「魔王まで来るとは」

「それだけ、母の持つ力が欲しかったんだろうね」


 キュアノもボクの隣に膝をつき、母に祈りを捧げてくれた。


「あたしたちは、妻の病気がサミュエルちゃんにも遺伝していないかだけが気がかりだったのよ」


 受け継いでいないってわかったとき、母は安心していたという。


「サミュエルちゃん、あなた、お母さんみたいに強くなりたいって思ってない?」

「思っているよ。だから修行して、ホルストたちの旅にも同行した。追い出されちゃったけれど」


 ようやくわかった。ボクが旅をしたい理由が。ボクは母から逃げたいんじゃない。母の分まで、世界を見たいんだ。母が見られなかった広いこの大陸じゅうを、母の代わりに。


「冒険なんて、あなたには似合わないからよ。サミュエルちゃんは、心優しい子。殺したり殺されたりする旅をするのは、友人として辛かったんじゃないかしら?」


 そうかな? それでもボクは、冒険をしていろんな世界を見て回りたい。腰を落ち着けるのは、その後でもいいじゃないかって思っている。


 ホルストのお屋敷に戻って、旅の支度を始めた。


「どうしても行くのね?」


 父が後ろから呼びかける。


「母さんだって、色々旅をして回って、ここに落ち着いたんでしょ。父さんがいい人で、ここが素敵な村だってことくらい、ボクにだってわかるよ」


 必要なものをアイテムボックスにしまって、ボクはうなずく。


「いいこと言うわね、サミュエルちゃん!」

「だから、ボクも旅に出たい。この村みたいに、魔王の侵攻を受けている場所があるなら、助けたいんだ」


 父は少し寂しそうな顔になったが、すぐにまぶたを拭う。


「わかったわ。もう何も言わない。行ってらっしゃい」


 そう告げた後、父は「ただし」と付け加えた。


「辛くなったら、いつでも帰ってらっしゃい。誰も、あなたを責めないわ」


 ここに戻るつもりは、ボクにはない。だけど、うれしい言葉だ。


「ありがとう」

「そうだわ。ウチの前までいらっしゃい」


 ボクは久しぶりに、実家へ。

 父が、桐の箱に入った何かをボクに寄越す。


「これを、お母さんだと思って」


 母の装束ではないか。ミニスカのニンジャスーツと、網タイツニーハイだ。


「さすがにこれは、家に取っておいてよ」

「そう? じゃあ、これだけでも」


 父が変わりによこしたのは、母の霊刀だ。桜色の鞘が、美しい。刀を抜くと、刃もややピンクがかっている。


「隕石で作ったとされる名刀よ。アンデッドも難なく斬れるわ」


 小刀しか持っていなかったから、ありがたい。


「大事にするよ。じゃあ行ってきます」


 ボクは、父に背を向けて港のあるファウルハーバーへ足を向けた。


「待ってください」


 道を、ヘルマさんが阻む。


「キュアノちゃんも連れて行ってあげて」


 ヘルマさんに肩を抱かれながら、キュアノがボクの前に。


「いいの、キュアノ?」

「私はあなたの世話係として雇われた。あなたにずっとついていく」


 そっか。ボクがいなくなると、キュアノは仕事がなくなっちゃうんだね。


「じゃあ、よろしくおねがいします。キュアノ」

「うん」


 ボクらは父とヘルマさんに手を降って、村を後にした。




 

(第二章 完)

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