第23話 視線で発熱させる男。
昼休みになった。
俺は自分の席に座り、教室の中を見回しながら、その姿を見つけようとした。
だけど教室のどこにも彼女はいない。なんとなしに窓の外を見てみるも、校門を潜ってくる人ももういなかった。
今日のこのクラスには、欠席の生徒が二人いる。
一人は恋水さんという女子生徒だ。確か、昨日の昼休みに俺に話しかけてくれた子だ。そんな恋水さんは、今日は発熱で学校を欠席とのことだった。
『恋水ちゃん、昨日、隠川くんと喋ったから熱が出たんだってっ』
『私も、昨日の夜とかヤバかった。隠川くんの事思い出すと、全然寝れなかったもん!』
『だよね! 熱が! 知恵熱と、恋熱がヤバいよね!』
「…………」
……教室の中で、俺の名前が聞こえてきた気がした。
俺のせいで熱が出た……。俺のせいで、寝れなかった……。
……なんだろう。それは、なんというか、何か悪いものが蔓延しているみたいな感じだろうか……。
まるで、伝染するみたいに。
俺は会話が聞こえてくる方をチラッと見てみた。
「「「ぎゃ!」」」
彼女たちと目が合った。
途端に、ギョッとした顔をするクラスの女子生徒たち。
顔が真っ赤に染まり、びっくりした様に飛び跳ねていた。
「あ! もうっ、隠川くん! 視線、禁止!」
「あっ、ちょっ」
パッと、こっちを振り返ったのは、俺の前の席の女子、冬下さんだ。冬下きいなさん。
今日の二時間目、消しゴムを忘れてしまったあの冬下さんだ。
「隠川くんの視線は、危険だからだめ! みんな、熱出しちゃう! だから、隠してて! 見るなら私のことだけにして!」
「あっ、ちょっ」
そう言って、冬下さんは俺の目を手で覆って、隠してしまった。
……やっぱり、悪い意味じゃないか!?
『隠川くん、やばい。今日もカッコ良すぎて、めっちゃドキドキする』
『てか、冬下さん、ずるい! なんか、隠川くんとめっちゃ仲良くなってる!』
『私も隠川くんの席の近くがよかったのに〜! くそぉ〜〜』
俺は冬下さんに目を隠されて、耳まで隠されて、しばらくするとようやく開放してもらった。
ともかく。
今日は恋水さんという子が欠席をしていた。そして、もう一人、春風さんも休みのようだった。
昨日の放課後に、会った春風さん。
それで一応、別れ際に『明日は学校行くよ……』と言ってくれたけど……来ていない。
朝からいなくて、途中で来るかと思ったけど、結局来なかった。
ずっと待ってたけど……多分今日は、春風さん、来ないんじゃないかと思う……。
薄々、そうなる可能性はある……とは思っていた。
昨日の今日だ。
もし、俺だったら、多分……学校を休むと思う。
行こうと思っても、行けなかったり、行こうと思うほど、逆に足が動かなかったり……。
この一年間、俺はずっとそんな感じだった。
もちろん、それは俺の場合で、春風さんは違うかもしれない。
でも……多分、今日は来ない気がした。
「あの……隠川くん」
そんな俺の肩が、とんとんと優しく叩かれる。
見てみると、隣の席に座っている栗本さんが話しかけてくれていた。
「栗本さん」
「ごめんなさい。隠川くん、何か考え事中でしたので、後にしようとも思ったのですが……」
「あ、ううん。全然大丈夫。ありがとう。ごめん」
俺は栗本さんの方を向いた。
それで、どうしたのかな。
「あの、隠川くん、昨日……春風さんに会いましたか?」
「えっ、あ、うん……会った」
「そうでしたか。あの、実は春風さんからさっきメールが来まして、隠川くん宛てにメッセージがあるそうです」
「メッセージ……」
春風さんからのメッセージ。
これです、と言うと、栗本さんは手に持っていたスマホの画面を見せてくれた。
そこには、春風さんからのメッセージが映し出されていたのだった。
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