Chapter 2

第4話 雨なんて......

結論から言うと、そこに私の赤い傘はなかった。


でも、昨日きーちゃんが帰ったあと私は忘れないようにちゃんと傘立てに入れた。たしかその時に母が「明日これたべよう」ともらったどらやきをリビングの机の上に置いていたような。



何が起こったのか私にはわからなかった。


どらやきはきちんと机の上にあった。傘だけが何処かへ消えてしまっていたのだ。


そういえば、救急車のサイレンが聞こえる数分前地震があったような気がした。しかしニュースでも全く取り上げられていなかったし、母に聞いてみても気のせいだったのではとしか言われなかった。


―――――


窓から見えるたわた菓子のような雲を眺めているうちにあの日のことを考えてしまっていた。雨が降ってきた。やっぱりあの日のことを思い出してしまう雨は好きにはなれない。それより、

「一体なんだったんだろう?さっぱりわからないや。」

声に出してつぶやいてしまっていたらしい。


「ん?どうした月島。珍しくわからない問題でもあったのか?」

私の席の近くを通った教師にどうやら独り言が聞こえてしまったらしい。

幸いよそ見をしていたことは気が付かれなかったか、普段はちゃんと授業を受けている(体を装っている)ので、とがめられることはなかった。


「大丈夫です。ちゃんと終ってますよ。」

ほら、と私はノートを見せる。これでも数学は得意なほうで今日の問題はすぐに解けてしまい外を眺めていたのだ。


先生が教卓のほうに戻ったとき、ふとまた別の雨のにおいがした。


(この教室の誰かの雨予報?)


高校に入ってから約2ヶ月のうちにそう思ったのはこれを入れて15回。うち空の天気が、人のほうが。にわか雨も含め天気の方はすべて当たっていた。


人の方はただそう思うこともあっても全部確かめられるわけではないので大体3回。


たとえば、通学中になんとなく雨が降るような感じがしていたら、帰りに公園で小学生の子が転んでしまって泣きじゃくっていた、なんてことがあった。部活の勧誘会のあとに先輩たちからふと雨の匂いがしたかと思ったら、放課後そのうちの一人が誰かに告白する場所に出くわしてしまったり。(あとから噂で聞いた話、ふったがわの男子生徒は私と同じ1年生だったとか。)あとは、下校前に職員室に行ったとき。40代ぐらいの大人が泣いていたかどうかは確かめようがなかったが、次の日、教頭先生が私情で休んでいたらしい。(そういえばなんとなく髪が長くなっていたような......

あれってもしかして、かつ......じゃなくてウィッグ?まぁ、このことは忘れておこう)


不明の1回はそんな気がしたけど天気はなんともなかったし、誰のことだったのかもわからないまま。


自分なりにこの予知能力チカラ?について考えてみたけど、発動の条件はわからなかった。天気の方はすぐ降り出すものもあれば1週間後ぐらいのこの時間かなぁーなどと様々だが、どうやら人のほうは「その日のうち」の事がわかる、ということだけがこの2ヶ月でわかった。



雨なんてキライだ。傘もキライ。

まるで私が悪かったって気持ちになってしまうから。


それなのに、なぜかまた気がついたら窓の外にある重たそうな雨雲を眺めていた。

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