第31話 どうせすぐ脱ぐでしょ

 お盆休みはそれぞれ別々に実家に帰ることにした。独身最後の帰省になる。俺は実家の自分の部屋の片づけやら両親の話し相手、地元の友人との会食に時間を費やしたが、あっという間の6日間だった。そういえば、この滞在期間中にやっと母親のスマホに「Dishes Kitchen」のアプリをダウンロードできた。ナオさんが挨拶に来てくれてからも数度母親に会う機会はあったのだが、バタバタしていてできていなかったのだ。母親は素直に喜んでくれて、ナオさんにも「喜んでいた」と伝えてほしいとのことだった。


 残り3日の休暇は東京で過ごした。ナオさんも金曜日の夕方に東京の俺の部屋に帰ってきて、再会を果たした。

 「ただいまー。」

 「おかえりなさい。」

 「新幹線、すごく混んでたね。自由席の人たちが指定席の通路まで入ってきて、うるさくて寝れなかったわ。疲れた~。」

 「一度自分の部屋には帰ったんでしょ。」

 「うん、お昼過ぎかな、部屋に帰って片づけや、洗濯をして干してきた。」

 「ごはんは?」

 「まだだけど、ほら。ラーメン買ってきた。」ナオさんが鞄からお土産の豚骨ラーメンを取り出す。

 「俺も名古屋で手羽先を買ってきました。」今晩はそれぞれが買ってきたお土産を晩御飯にした。


 6日ぶりの夜、俺がシャワーを浴びて髪を乾かしていると、ピンクのリボンの装飾が付いた黒いショーツに白いTシャツ姿のナオさんが水を飲んだり、ペットボトルの水をコップに入れて小物入れの上に置いたり、冷房の設定温度を確認したりと部屋の中をウロウロしている。Tシャツの下はブラも着けていないのだろう、乳首がどこにあるのかすぐわかる。「いきなり裸なのは品が無いけど、どうせすぐ脱ぐでしょ」と言わんばかりの姿である。

 俺がドライヤーを止めて片付けた後、ベッドの上に座っていたナオさんが両手で手招きをしている。俺が近づくと手を握り、

 「一応確認だけど、帰省している間に浮気してないわよね。」

 「当り前じゃないですか。」そんな聞き方をされたら、していても「していない」と答える。

 「地元の友達とご飯食べた時に女はいなかった?」

 「いませんよ。電話でもLINEでも話したじゃないですか。」俺達は会社に結婚を報告した後、LINEも使うようになった。

 「エライ。よくできました。」やっと手を離してくれて、俺もベッドに上がって座ることができた。Tシャツとボクサーパンツを脱ぐ。

 「答えるの嫌かもしれないけど、一人エッチは?」ナオさんもTシャツを自分で脱ぎながら聞いてきた。

 「オナニーは1回しました。」

 「本当に1回だけ?ちゃんと私の事を思い出してくれた?」

 「本当ですよ。これからナオさんが自分の身体で試したらどうですか。」

 「ふふふ、エッチ。」

 ナオさんが俺の頬に優しい口づけをして横になったのを皮切りに6日ぶりのセックスが始まる。ナオさんと正式に恋愛関係になった年明け以降、こんなに日を開けたことは無かった。付き合う前、出張の度に今回は抱けるか、何日身体を許してもらえるかとドキドキしていたことを思い出す。出張に出れば毎回セックスをしていたわけではないし、期間中1日限りの時もあれば2日~3日できることもあった。完全にナオさんの気まぐれだった。


 ショーツしか身に着けていないナオさんの肌の感触を確かめるようにゆっくり撫でる。ナオさんはどちらかと言うと短気でハッキリと白黒つけたがる性格なので、ゆっくりじらすのをあまり喜ばないが、効果はてきめんだ。うっとり気持ちよくなった後に「お願い」とイキたいという意思表示をしてくれるのが俺は好きだ。

 今回もナオさんの上に覆いかぶさり、頬や唇にはフレンチキスを、上半身は胸を避けて肩や腕、お腹や太ももを柔らかく撫でる。軽く目を閉じて気持ちよさそうなナオさんに唇を重ねるだけの軽いキスを連続でしている時にナオさんから舌が伸びてきたが、ワザと無視して頬へキスする場所を変えた。さすがにイライラしてしびれを切らしたのか、ナオさんに右手を掴まれ力づくで胸に誘導された。形が良いお椀の淵をなぞる様にできるだけ低刺激でじらしていると、やっと「お願い」の言葉を聞くことができた。

 「俺、ナオさんが切ない声で「お願い」って言ってくれるのが好きなんですよ。すごく興奮する。」

 「そうなの?それは分かったから、はやくして。」

 「ナオさんも、男はもちろん、指でもしてないですよね。」

 「してないわよ。」少しイライラしている時の口調だ。

 ナオさんの股の間に移り、ゆっくり黒のショーツを脱がせる。当然内側はべっとり濡れていた。嗅ぎ慣れたナオさんのアソコの匂いだ。特に変わった匂いはしない。割れ目に沿って下から上へ数度舐めると、味もいつもと同じだった。親指で左右に軽く引っ張り、割れ目を広げて内側まで入念に舐めてあげた。そして米粒程度のクリも舌先で弄ぶ。俺は今まで付き合ってきた女性とは綺麗に別れてきて、浮気をされたことが無いので知らなかったのだが、浮気をされて付き合っている期間が重なっていたりすると、セックスの時に感触、匂い、味など、何かしらの違和感を感じるらしい。ナオさんは自己申告のとおり異常無しだった。

 しばらく舐めていたが、そろそろナオさんも我慢の限界だろう。ナオさんがいつも喜んでくれるクリを吸うやつをやってあげると、「いやん」と言いながらナオさんの腰が浮いた。

 「ばか、やる前に言ってよ。」

 「いつも1回吸ったくらいではイカないでしょ。続けますよ。」俺はナオさんの股間に顔を挟まれたまま息継ぎをしながら吸い続け、イカせることができた。


 ここからは俺も楽しませてもらう。既に完全に勃起している俺のモノにゴムを被せ、まだ余韻に浸っているナオさんのアソコにあてがい、ゆっくり入れていく。少しナオさんの表情が険しくなったが、できるだけ出し入れを小さく小刻みに動いて様子を見ながら、徐々に大きく腰を動かして行った。今晩はまだ美乳をあまり楽しめていないので、胸のふくらみを揉み回し、乳首を摘まんだり、こねくり回す。

 「ぅぅぅ、気持ち良い。」

 「中?乳首?どちらがですか?」

 「分かんない。なんか身体がフワフワ浮いているみたいなのに、乳首だけピリピリする。…変な感じ。」

 そう言ったきり、「ぁ、ぁ、ぁ」と小さい可愛い声をあげながら、首を右に振ったり、少しすると左に振ったりを繰り返していたが、

 「お願い、ユウジ君、私を抱きしめて。…やだ、落ちる。…怖い。はやく。」俺はあまりにも急で、ナオさんが何を言っているのか分からなかったが、入れたまま腰の動きを止めて、手足に力が入っているナオさんの首の下と背中に自分の腕を通し、強めに抱きしめた。ナオさんはしばらく力んだままだったが、フッと力が抜けダラリと手足がベッドに降りた。ナオさんは笑顔で「はぁはぁ」呼吸している。

 「あの、ナオさん大丈夫ですか?」

 「大丈夫。…またイっちゃったよ。へへへ。」

 「いったん身体離しますね。」

 「うん、チンチンは抜いていいけど、腕では抱いたままにして。お願い。」

 「分かりました。」一旦腕を解き、身体を離してモノがアソコから抜ける瞬間、ナオさんから「ん」と小さな声が漏れた。再度、ナオさんを抱きしめるが時折ナオさんの肩が小さく痙攣することがある。

 「何かゆっくり現実に戻って来た感じがする。ユウジ君の腕の中、幸せ。」

 「身体、きつくないですか?」

 「ううん、しっかり抱きしめてもらっている方が安心する。」


 「ありがとう。」抱きしめて10分くらい経っていただろうか、ナオさんが落ち着いた声で言ってくれた。

 「そろそろユウジ君も腕が疲れたでしょ。」

 「まあ多少は。」

 「ユウジ君が頑張ってくれたおかげで夢のようだったよ。今度は私の番。頑張らなきゃ。」

 「あの、気持ちは嬉しいんですけど、俺、一回顔を洗わないとカピカピになってきました。」

 「ああ、ゴメン。舐めてくれたんだった。…じゃあ、一回仕切り直しにしよう。」

 珍しいことだがセックスを一度中断して、仕切り直しだ。俺は顔を洗い、ナオさんはサイドテーブルに置いていたコップの水を飲んでいる。

 「裸になるからと思って、室温を29℃に上げちゃったけど、汗かいちゃったね。」

 「シャワー浴び直しますか。」

 「ユウジ君、いいの?まだでしょ。」

 「ははは。このままじゃナオさんも集中できないでしょう。一回サッパリしましょうよ。」

 「ユウジ君、大人な対応だね。ガツガツしてなくて余裕がある。…じゃあ、せめて一緒に浴びて時間を節約しようよ。」ナオさんが笑顔で誘ってくれた。二人で浴室に入ってシャワーヘッドとボディーソープを交代で使いながら身体を洗い流す。俺のモノは勃起したままだったが、この短いリフレッシュの間はエッチな行為は一切なしだ。


 シャワーを浴びた後はバスタオルで身体を拭き、クーラーの設定温度を下げた後、すぐにベッドに戻って新しいゴムに付け直して再開。ナオさんが満を持しての必殺技を使ってくれて気持ち良くイクことができた。

 「ふー。ユウジ君も溜まってたのスッキリ出せた?」ナオさんはベッドに腰かけて座り、お股をティッシュで拭いている。

 「気持ちよく出せました。…でも、大阪の事を思い出してくださいよ。俺まだできますよ。」イった後も半ダチのままのモノからゴムを外した後、ナオさんに膝枕をしてもらいながら言う。

 「え、…やっぱり。」あまり乗り気ではなさそうだ。

 「あれ?喜んでもらえると思ったのに…。」

 「ユウジ君の気持ちを受け止めきれずにゴメン。でも、今晩は許して。…実はさっきの騎乗位でも軽くイっちゃったから、アソコがちょっと痛いの。」

 「痛い時に無理しちゃダメです。大事な体なんですから。」もう一度イったというのは驚きだが、痛いというのもビックリだ。膝枕から身体を起こす。

 「ありがとう。明日朝に頑張るね。」ベッドに腰かけたまま苦笑いだ。

 「朝じゃなくても良いですよ。俺、そんなに飢えてないですから。」

 「飢えてないってどういうことよ。私じゃできないからって他の女に浮気したら怒るわよ。」目つきが厳しくなる。

 「そうじゃなくて、ナオさんとずっと一緒に居るから、またいつでも出来るって意味です。」

 「それにしても私、最近イキやすくなったのかな、それともユウジ君がイクのが遅くなったのかな。…あの、ユウジ君は私とのエッチ、慣れちゃったとか、飽きちゃったとかないよね。ちゃんと満足してくれてるよね?」

 「付き合う前も、今も気持ち良いですよ。」

 「ならいいんだけど、私ばっかり気持ち良くなってゴメンね。」

 「大丈夫ですよ。ナオさん、先にシャワー浴びて来てください。」

 ナオさんは「ありがとう」と言いながら、シャワーを浴びに向かった。


 ナオさんが心配している、ナオさんの身体で俺が満足できているかの問いには、満足しているというのが答えだ。今も以前からも気持ちいい。俺がイクのが遅いのではなく、ナオさんがイキやすくなったのだ。セックスは悪い事ではない、気持ちがよく感じていることは隠す事ではない、イクことは恥ずかしい事ではない。ナオさんは自分で自分にブレーキをかけることなく、セックスを本当の意味で気持ちよく、楽しめるようになったのかもしれない。

 しかし、浮気の有無やオナニーの回数まで確認されたにも関わらず、俺は1回しかイっていない。無理をしてもらう必要はないが、ナオさんの身体が付いてこれないというのは如何なものかとは思ってしまった。結局、ナオさんは翌朝頑張ってくれたが、お互いに1回イって終了。俺の“一晩2回の壁”はナオさんとは超えられなかった(今現在も超えていない。)。ちなみに、この頃ナオさんは友達が週1回あるかないかなのをバカにしていたにも関わらず、数年後「エッチは回数ではない」と言うようになる。


 婚約後、俺達の新居探しも色々な手配と共に続いている。しかし、こちらは「この日でなければならい」というのが無いので、切迫感がない。都内の新築マンションで良い所があればと思って、たまにサイトで検索したり、気になったモデルルームのパンフレットを見ている程度だ。

 結局、俺達は今住んでいる三鷹周辺の新築マンションを購入することになる。新築マンションで検索している時にたまたま目に入った広告を見て、ナオさんとモデルルーム見学へ行き、購入を決めた。低層マンションで眺望は望めないが、静かで落ち着いたロケーションで、駅まで何とか徒歩圏内ではあるが、今よりは駅から離れることになる。完成予定は年が明けて2月中頃なので、結婚に係る行事や手続きを全て済ませてから落ち着いて新居に移ることができる。

 「そういえば、預金がいくらあるか聞いてなかったけど、半分ずつ出して一括で買えるわよね。」

 「いやいや、ナオさん無理ですよ。俺の方は1千万以上足りません。」

 「うそ~、一人の時に何にそんなにお金使ってたのよ。」

 「まあ、色々。」思わずナオさんから目を逸らす。少しばつが悪い。

 「んじゃ、仕方ないわね。ローン組もうか。」

 こうして俺名義の住宅ローンを組むことになった。俺とナオさんが本気でお金をかき集めればギリギリ借金をする必要が無かったかもしれないが、これから生活が落ち着くまで何かとお金を使うし、すぐ使えるお金を手元に持っておきたい。

 ローンの審査は思ったよりもすんなりと終わった。二人とも中小企業勤務ではあるが、所得証明を見せた時の感触が良かったのと、借入額が1千万円と住宅ローンとしては比較的少額だったからだろう。結婚や新生活は楽しい事ばかりではない。

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