第21話 顔、テカってない?

 名古屋駅に着いた頃には日がすっかり落ちて暗くなっていた。こちらでは俺がナオさんをおもてなしだ。まず駅直結のホテルにチェックインして一息ついて、百貨店のレストランフロアで「矢場とん」の味噌カツを食べた。学生時代の俺は濃い味付けで何杯でもご飯がすすんだものだが、初めてのナオさんはどうだろうか。「美味しかった」ようだが、「喉が渇く」らしい。


 ホテルに戻ってシャワーで汗を流した後は、ナオさんと明日に向けたロープレのはずだったが、俺の両親の情報が少なすぎてやり取りが想定できず、プレイにならない。行きの新幹線の中でもお互いの両親の話をしたが、自分の親が「どんな人?」ってフワッと聞かれても上手く答えられない。自分は自分の親しか知らないから比較対象が無く、たまに接する表面的な関係の友達の親や親戚と比較しても仕方がない。むしろ他人を評価するのに比較する基準が一番身近な自分の親なのだ。基準点を説明しろと言われても難しい。

 思うような回答が返ってこない俺に、「好きな食べ物とか、好きなブランドとか、好きな映画や番組とか、何かないの?」ナオさんは苛立ち聞いてくるが、いわゆる反抗期以降、親と出かけることも数少なく、高校を卒業してからは東京で一人暮らしで、たまにしか帰らないから10年以上両親がどうしているのか詳しく知らないのだ。

 「もー、アテにならないなぁ。男の子って薄情なのね。」

 「すいません。改めて聞かれると中々上手く説明できないものですね。」

 「まあ私も大した情報をユウジ君に提供できた訳じゃないけど、ちょっと酷くない?何か思い出してよ。」

 「うーん、新幹線でも話したように両親とも和菓子は好きだし、母親は国内外の旅行番組とか昔はよく見てましたよ。専業主婦だけど父親が“仕事人間”だから海外に行ったことが無くて、長期旅行は憧れだったみたいです。」

 「へー、ユウジ君のお母さん、ずっと専業主婦だったんだ。」

 「そうみたいですよ。良くも悪くも昭和の家庭ですね。父親が働いて十分稼ぎがあったからなんでしょうけど。」

 「お父さんはどんなご職業なの?」

 「自動車部品の製造業です。弟も違う会社ですけど自動車関連なんですよ。」

 「土地柄そうなんだね。…うーん。これ以上は出たとこ勝負かぁ。」

 「面目ない。」


 「さてと、…エッチしようか。」ナオさんが唐突に提案してくる。

 「どうしたんですか、急に。」

 「ほら、エッチの後って肌の調子や化粧乗りがいいからさ、明日に備えてコンディションを整えようと思って。」

 「ははは、俺は嬉しいですけど。」

 「ホルモンがガンガン分泌されるように、ユウジ君頑張ってよ。」

 「ホルモン出すぎて、おでこや鼻がテカテカになったりして。」冗談を言ってみる。

 「ちょっとやめてよ。…私テカってたことある?ファンデで抑えているつもりだったんだけど。」真顔で心配そうだ。

 「冗談ですよ。テカってませんから。ナオさんはいつも綺麗ですよ。」

 「へへへ、じゃあさっそく始めようよ。…何からしてもらおうかなぁ。」ナオさんは自分でパジャマと下着を脱いで、ベッドに横たわる。俺も裸になりゴムをベッドサイドに置いてからナオさんの隣に横になる。

 「まずは、いっぱいキスして。ユウジ君が好きな胸もいっぱいキスしていいよ。」

 「胸もキスしていいって言うか、胸が一番気持ちいいんでしょ。」俺はナオさんにキスや愛撫をしながら言葉を交わす。ナオさんも慣れたものだ、肉体関係を持った当初は顔を隠し、アソコを手で覆い、交わされる言葉も最小限だったが、今では楽しく会話しながらセックスをする気持ちの余裕があるようだ。本当の意味で受け入れてくれているというか、リラックスしてくれているのだろう。

 「ふふふ、違うもん。私が一番気持ちいい所は別にあるのをユウジ君も知っているでしょ。」

 「ああ、そうでした。今日も最後にいっぱい吸ってあげますよ。」クンニの事だ。ナオさんはアソコを舐めて気分を盛り上げた後、クリを吸ってあげるととても喜ぶ。

 「我儘言って悪いけど、クンニはイカかない程度にして、最後は入れてほしいなぁ。」ナオさんの余裕がここでも現れている。以前は「舐めてよ」、「しようよ。」と片言のリクエストだったが、今では本人が自覚しているほど我儘で具体的な指示だ。可愛い我儘ではあるが。

 「分かりました。じゃあナオさん、しばらく下半身の方に行ってきます。」

 「ははは、バーカ。」ナオさんは笑いながら俺の頭を小突いた。ナオさんは自分から誘ってきただけあって、よく濡れている。いつもは気持ち良くなってもらうために一生懸命で、イカない程度という加減がむずかしいと思っていたが、杞憂だった。

 「ヤバイよ。ストップ。…お願い、入れて。」とナオさんが教えてくれた。

 「はい。」ゴムを着けてゆっくり差し込む。

 「ぅぅぅ、…はぁ。」一瞬表情を強張らせたが、入った後は気持ちよさそうな表情に戻った。上体を起こして意識的に奥まで入れると、ナオさんも背を反らし、腰を浮かせて受け入れてくれる。

 「今日はゆっくりにしましょうね。」萎えない程度に時々ゆっくり出し入れをするが、届く限り奥まで入れたところで押し付けるように動きを止め、ナオさんにモノを感じてもらう。

 「うん。」ナオさんも気持ちよさそうに浸っている。


 15分間くらいまったりとしたセックスを楽しんだ後

 「ありがとう。気持ちよかったよ。そろそろイこうか。私はユウジ君が本気を出したらすぐイっちゃうよ。ユウジ君もイけそう?」

 「はい。」

 「じゃあ、お願い。」

 「ナオさん、少し場所を移りますね。」一旦身体を離してナオさんの腰がベッドの淵に来るように引きずり、俺はベッドから降りてナオさんに改めて入れる。S市出張のホテルでもやった、ホテルの背が高いベッドだからできる体位だ。あの時と同じように一気に入れて、カリでナオさんの中の天井をこするようにしながら、ゆっくり出す。

 「はぁあ、…はぁあ、…コレいい。」ナオさんは亀頭の先端がかろうじでアソコに残っている程度まで抜き出すく度に、美声で気持ちよさそうな声をあげる。

 「ユウジ君はまだなの?もう我慢できないよ。」

 「良いですよ。俺も一緒にイきます。」ナオさんの筋肉が収縮して締まりが強くなった時に俺のモノも搾り取られるように包まれ、気持ちよく果てることができた。


 朝食くらいまではリラックスしたいつものナオさんだったが、今は緊張の面持ちで朝の準備をしている。白のレースブラウスとミントカラーのフレアスカートがベッドの上に準備されている。スカイツリーの時に持っていた黒いヴィトンのバッグが今日もお供するようだ。こういう時に男は楽で良い。スーツを着ておけば一応格好がつく。

 「ナオさん、そろそろ出発しましょうか。」ナオさんの着替えも終わった頃合いを見て声をかける。

 「うん。」ナオさんは黒いパンプスを履き、鞄を持って、もう一度全身を姿見鏡に映す。

 「ナオ、綺麗だよ。」心からそう思う。

 「ありがと。」ナオさんはニコっと笑った後、「顔、テカってない?」と冗談を言いながら二人で部屋を出た。ホテルのロータリーでタクシーを待っている時、ナオさんからふんわり勝負香水の香りがした。緊張しているからか、口数が少ない。


 タクシーでおおよそ40分。名古屋の市街地から出てK市の住宅街へ向かって車が進んでいく。もう少しで到着だ。ナオさんは窓に流れる景色をずっと見ていて心ここにあらずだったが「もう少しですよ」と声をかけると、「お水が飲みたい」と俺の鞄から小さなペットボトルを取ってほしいと言ってきた。数口水を口に含み「へへへ、緊張で口がカラカラだよ」と力なく笑っていた。

 家の前にタクシーが止まり、支払いを済ませる。ナオさんと二人、実家の前に立つ。「いいですか?」と声をかけると、「うん、行こう」とチーフ半田ナオの顔になっていた。

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