対峙と絶望

 シズクが眠っていた場所には、割とあっさり着いた。

彼女は、あの場所を嫌いだと言っている割には正確に、その始まりの地を覚えていたのだ。

「ホントにお前は行かなくていいのか?忘れ物とか、あるかもしれないだろ。」

「良い。嫌いだから、ココ。」

「そうか。じゃあ、行ってくる。」

そして俺は、研究施設のような所に、入った。

 そこは、嫌になるほど殺風景だった。

部屋の奥には、彼女が入っていたであろうカプセルが一つ。今は壊れているが。

それだけが、この部屋を構成していた。

「何なんだ……ココは。」

「やっぱりだ。君もココに不思議な印象を感じてるんだね。」

声は、不意に届いた。

「誰だ……お前?」

「さ~て、ムドウにも会えたし、早速オモテの娘さんをぶっ殺しちゃおっかなぁ。元々そのために来たんだし。」

「おい…………」

「あっ………殺す前にはブチ犯してやるのも悪くないよな。」

「何を、言っているんだ………」

「なんせ、かの鋼鉄腕だもんなぁ。きっとイイ体験ができるはずだよ。そう思わないかい?ムドウ。」

何を言っているのか、俺には一切理解できなかった。

いや、一つだけ理解する。コイツは間違いなく敵だ。

殺さなくてはならない、敵だ。

「オイ………テメェ、何者だっていってるんだよ。」

「あぁ僕かい?僕は君の敵さ。君を殺すためにここに居た。」

ありえない。

この外出は、友人であるゲイルにすら伝えていなかった。

(思い立ったのはいきなりだったからな。正直アイツには後で成果を報告するつもりだった。)

なのに、カプセルの影に隠れていた少年は、ソレを認知していた。

「だから!お前はなんで俺の————」

かみ合わず、ヤツは攻撃を仕掛けてきた。

間一髪で避ける、殺されていた。間に合わなければ。

手に携えるは煌びやかな片手剣。

それは、古代の秘宝を幻視させた。

「あのさぁ、今から殺す相手と仲良くお喋り、なんてありえないでしょ。ホラ、僕を殺してみろよ。」

やはり、少年は敵であった。


「くっ…………」

劣勢だ。

あまりの不甲斐なさに、声が漏れる。

逃げちゃ、ダメだ。

扉の向こうには少女が、痛々しいほどに可憐な少女が、弱さの象徴が、シズクが、いるのだから。

守らあねば。

ムドウは反撃のチャンスをうかがい、そして————

「だぁぁぁぁぁぁぁりゃぁぁぁぁ!!!!!」

石製の大剣で、少年を攻撃する。

惨めに殺してやる。

ムドウの撃には、そんな激しさが伴っていた。

しかし…………届かない。

「ちっ……アイツ、出鱈目に強い……!」

「あのさぁ、昔のの人間って、こ~んなにヨワかったっけ?そんな筈無いよねぇ!?」

「弱い?じゃあ魅せてるよ。」

「魅せろよ、この雑魚。」

沸点だった。

俺は目を見開く。

そこに冷静さは共存してはいなかった。

そこにあるのは情動。

意外にもソレは、冷静に獲物の命を見極めていた。

「死ね、ガキが。」

そして、殺してやる————

「お前って、ひょっとして馬鹿?」

……だが、少年がいるはずの場所。そこに、少年はいなかった。

だから、おしまいだ。

その一撃は、少年を一撃で滅ぼすためだけの力を込めていた。

故に、

しかし少年は離脱する。

先ほどいたはずの場所からリタイアする。

それも、絶望のリセットではなく、希望のコンテニュー。


少年は、疲弊したムドウの後ろに立っていた。


ありえない。

俺に流れる感情はそれだけだった。

「悪いねムドウ。これもなんだ。」

「仕事……?それよりお前、なんで俺の————」


「あのさぁ、お前って最期まで醜態をさらす気なの?せめて死に際ぐらいはカッコよく決めてくれよ。」


そして、ムドウの物語は幕を閉じた。


(…………どこで、間違ったのだろう。)

死にゆく世界の中、俺はそんなことを考えていた。


dead end

(視点は、少女に移る。)



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鋼鉄腕の少女~もしも、世界に14人しかいなかったら~ 夏眼第十三号機 @natume13th

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