企画入賞レビュー「彼女はいかにして復讐を成し遂げたのか」


 実に見事です。
 中国の三国時代を舞台とした復讐劇でありながら、我々が読んでも違和感なく入り込めるように様々な配慮がなされていました。当時の風習、常識について事細かな説明が入っているのみならず「復讐は成功した」という結末を先に見せておくことで「ある種の担保」のようなものを読者に保証し、それによって「主人公がどれだけ酷い目に遭っても、途中で読むのを止めようとは思わせない」作品を完成させることに成功しているのです。
 むしろ「ここからどうやってあの結末にもっていくのだ?」と、強く興味を惹きつけられるのですから、ネガティブな描写が全てプラスになっている稀有な事例と言えるでしょう。

 家族の復讐なんて無意味だから止めた方がいい。
 それは赤の他人、もしくは現代人だから言える正論であり…儒教が浸透した世界では必ずしも正しいとは限らないのでした。ましてや、クズ男の口からそんな台詞を吐かれた所で納得などできるわけもなく。
 肯定派、否定派、どちらが読んでもうなずけるように様々な人物が登場し、読者の代弁を主人公へ語り掛ける所も実に巧妙。クズ男には中指を立てる一方で、恩師の「人殺しにしたくない」という言葉は実に重い。
 数多の悲劇を乗り越えて、遂に果たされれる仇討ちの時。
 その先に主人公を待っているのは無慈悲な処刑か? それとも?

 三国志演義(もしくは無双でも)が大好きな方、もしくは復讐譚が好きな方は是非。
 誰が読んでも楽しめるように配慮された文章は、一分の隙も無く完璧な結末へと貴方を導くでしょう。文句なしに入賞の力作です!

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