8.VS【静寂殺人】翻屋 幽羅裏

「急げメタルヨロイッ! もうみんな大ホールに到着してるって! 早くしないとお手柄ぜんぶ持ってかれるーーーッ!」


『まだ暴れ足りないのかお前は!?』


 刃毀崎はこぼれざき 閃華せんか、ジョン・ザ・デットリーバズーカー、崩野くずしの万壊炎ばんかいえん! 三人の株主を撃破した二人の勢いは止まらず、ニシタマ・大ホール目掛けて疾走中ッッ!!


「すぐそこで総力戦ヤッてんのに首突っ込まないなんて言語道断!! 決戦兵器不在の決戦なんか、米の入ってない茶碗と同じだよ!」


『時には陶芸的価値を見出すのも悪くないもんだぜ……!』


「えい、超高圧電力放出装置ボルテックスロッド


『ぬおおォォォォォ精密機器に異常をきたすからやめろォォォォォォ!!』


 そしてとうとう見えてきた――ニシタマ・大ホール!! その名の通りドーム状、重厚なコンクリート造りの建築物! まだ五百メートルほど離れているにも関わらず銃声やガレキの崩れ落ちる音がここまで響いて来るッッ!!


「やってるやってる! よーしメタルヨロイ、景気よく一発ブチ込んじゃえ!!」


『バカ! 味方ごと吹っ飛ばすつもりかお前は!?』


 その刹那ッッ!!


「――隙アリィィィィッッ!」


 ZBAAASH!! 不吉な金切り声が、突如として夜の闇から響き渡る!


「おおッ……!?」


 エグゼキューターのうめき声が響いたかと思えば――な、なんと!? キーボードの装填された右腕がぐるぐると宙を舞い、地面へ落下したではないか!? 突然の出来事に、メタルヨロイの思考は真っ白になった!


「うおおおおおおおォォォッッ!?」


 絶叫!! エグゼキューターの悲鳴が響き渡るッ!!


『エグゼキューター!? 嘘だろ!?』


「ファファファ! 少々イタズラが過ぎたようだな、小童こわっぱがァ!」


 しゃがれ声ッ! 夜のとばり虹彩こうさいが揺らめいたかと思うと――なんと、闇から人影が浮かび上がったではないか!?


「よくも我々の計画を邪魔してくれたものだ! 貴様らの行いは万死に値する! よって天誅を下してくれようッッ!」


 宵闇色の衣に包まれた小男……! 一見すれば徒手空拳、拳を中段に構えていると見えるが―――否! 否、否ッ! 騙されてはいけないッ! よく目を凝らせば、同じく宵闇色を帯びた刀を握っているではないか!?


「チッ……超光学迷彩兵器カモグラフィックウェポンか! アタシとしたことが油断しちゃったな!」


 ベルトで腕を引き絞りながらエグゼキューターは不敵に微笑む! その表情はどこまでも挑戦的である……!


「ファファファ、ご名答! だが、その余裕もいつまで持つかな? このまま一本ずつ手足を切り落とし、その表情を恐怖と後悔に染め上げてやろう!」


「今までの相手とは雰囲気が違うね。いよいよ暗殺部隊も本気ってワケだ!」


「本気だと? 笑わせるな! 抹殺商会の四天王が一角、翻屋ひるや幽羅裏ゆらりが、貴様ら如きに本気など出すまでも無いわーーーッ!」


 翻屋ひるやは嘲笑すると、夜の帳に姿を隠したッ!


「ファファファ! 暗殺者の恐ろしさを味わいながら死ねェェェッ!!」


「エグゼキューター、危ないから隠れてろ!」


 メタルヨロイは強引にエグゼキューターの首元をつかむと、そのまま内部ストレージへと押し込んだ! 緊急用のシェルターである! 決して快適な空間とは言えないが、不可視の刃にさらされるよりは断然マシ……!


「甘い! その程度で我が静寂殺人サイレンスから逃れられると思うたか! 甘すぎるッッ!! 踏んできた場数が違うわーーーッッ!!」


 ゆらり……! 闇夜に虹彩が揺らめくと、メタルヨロイの死角に死神が姿を現す!

 不可視の切っ先が狙いを定めたのは――膝の裏側!

 

 それは構造上、絶対に生じうる脆弱性ッ! いかな強力無比な決戦兵器とて関節部を破壊されてしまえば……!


「隙アリィィッッ!!」


『しまっ――』


 翻屋ひるやの狙いに気付くも、時すでに遅し!! 不可視の刃が、メタルヨロイの関節部へ吸い込まれてゆく――


 その瞬間ッッ!


「――待ってた待ってた予定調和だよビンゴビンゴビンゴビンゴォォォォォォォッ!!」


 メタルヨロイの内部ストレージがいきなり開き――な、なんと!? 片腕だけで器用にホーミング拡散バズーカー兵器「アセンション」を構えたエグゼキューターが現れたではないか!?


「なーにが静寂殺人サイレンスよ、バカバカしい! 透明人間が相手なら、ッッ!! 死ねェェェェェェッッッレッツ・ゴー・トゥー・アセンション!!」


 ターゲット・ロックオン完了のアラートが鳴り、第一の砲弾が放たれるッ!! DOOOOW!! 凄まじい反動と爆風によってエグゼキューターは内部ストレージから放り出されたッ!!


「ガキがァァァッッッ!!! 小癪こしゃくな真似をッ!!」


 だが翻野ひるやとて歴戦の殺し屋ッ! 眼前から放たれた弾丸を、高速転身によって流麗に回避ッ!

 しかしアセンションの真骨頂は第二弾にあるッ! 弾丸が割れ、中からホーミング弾が拡散放出、あらゆる角度から襲来ッッ!


「プロの暗殺者をナメるでないわーーーッッ!!」


 翻屋ひるや幽羅裏ゆらり、光速のステップ! 右へ左へ縦横無尽ッ! ホーミング弾は虹彩の瞬くままに翻弄ほんろうされ、互いにぶつかり合って爆散してゆく……! 万事休すか!? 


 いや、違う! エグゼキューターはアセンションによって生じるであろう致命的なスキを、ずっと待っていたのだ!


 彼女は地面に転がった自らの腕を拾い――バカな、何を考えている!?  その腕に超高圧電力放出装置ボルテックスロッドを突き刺して、翻屋ひるやに向かって全力投球したではないか!? 


「気でも狂ったか!? 見苦しいわッ!」


 BRRRRRSH!! 青白い電撃に包まれた右腕を、翻屋ひるやは冷静に一刀両断ッ!! 無慈悲である!


 だが次の瞬間! な、なんという摩訶不思議まかふしぎか……!? 真っ二つに両断したはず腕が、刀身にピッタリくっついて離れないではないか!?


「なんだ――これは!?」


 それだけではない! 地面に飛散したバズーカ弾の破片が、ガチャガチャと音を立てて翻野ひるやに向かって吸い寄せられてゆくッッ!


「ぬおおおおおッッ!? 重い、身体が動かぬ……! 貴様、何をした!?」


「チェックメイトだ、メタルヨロォォォォォォォイッッッ!!」


 エグゼキューターの慟哭どうこくと同時に、メタルヨロイは巨大な剛腕を振りかぶった! SHGOOOO……! 凄まじい噴出音と共にスチーム・バンカーが一本、宙高く舞い上がるッッ!!


『出力解放、二十パーセントッッ! 吹っ飛べェェェェェェ!!』


 DRRRSHAAAAAA! 超圧縮水蒸気の噴出によって時速3,200㎞で振り抜かれた剛腕が翻野ひるやを捉え、DOOOOWN!! 500メートル先のニシタマ・大ホールに激突ッ!!


 ブチ抜かれた風穴からは、儚げな虹彩が漂って夜風に散った……!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る