【勇者SIDE】無様に敵前逃亡をする

「いくぜえええええええええええええええええええええええええええ!」


 勇者ライアンは無謀にもバハムートに斬りかかった。だが、如何せん、相手は空中にいたのだ。ライアンは対空集団を持っていない。その為、バハムートを引きずり下ろす必要があった。


「魔術師メリッサ、何とかバハムートを引きずり降ろしてくれないか? このままじゃ攻撃が届かないぜ」


「えっ!? あんなに意気込んでいて、私に泣きつきてくるんですか!?」


 魔術師メリッサは呆気に取られていた。


「へっ。仕方ねぇだろ。完璧で最強な俺様にも不可能な事だってあるんだぜ!」


 ライアンは胸を張って言う。


「完璧とか……最強とか……自己矛盾していることに気づいていないんですか」


 メリッサは呆れる。だが、お人よしの彼女はいかに相手がクズなライアン相手でも大人しく願いを聞いてやる事にしたのだ。


「グラビティ!」


 魔術師であるメリッサは重力系魔法を使かった。バハムートの自重が数十倍にもなり、思わず地表まで降り立たざるを得なくなる。


 ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


 バハムートは地面にたたきつけられた。


「へっ。よくやってくれたぜ! 流石はこの俺様が見込んだ魔術師【キャスター】ってだけの事はある。うおおおおおおおおおおおおおおおおおお! やってやるぜえええええええええええええ!」


 ライアンはバハムートに斬りかかる。


「剣技スキル! 竜斬り!」


 ライアンは習得している技スキル『竜斬り』を放った。竜斬りは竜に対する特効効果のある剣技で、剣に付与されているスキルや効果と相まって、凄まじいダメージをたたき出す事ができる……はずだった。


(へっ。決まったぜ! これは貰ったな!)


 ライアンはバハムートが倒れた事を確信した。


 しかし。


 グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 バハムートはダメージをろく負っていない様子だった。ライアンの攻撃は逆効果であった。バハムートは激昂状態になった。怒らせただけだったのにある。


「ば、馬鹿! 俺様の攻撃が効いていないだと!」


 ライアンの予想は大きく裏切られる事になった。ライアンの予想では一撃で相手は倒れるはずだったのだ。こうなる事は想定外だったのである。どう対応するのか、全く考えていなかったのだ。


 ライアンはバハムートの強烈な威圧感に恐怖した。


(や、やばい……このままじゃ俺様が死んでしまう)


 ライアンは恐怖した。確かに聖女であるアリアの蘇生魔法があれば回復できるが、もし木っ端微塵になってしまえば蘇生する事は困難になる。


 ライアンは決断した。


「へっ! 戦略的撤退をするぜっ!」


「えっ!? あれだけ大見栄を切っておいて逃げ出すんですかっ!」


 メリッサは驚いていた。


「人聞きの悪い事を言うなっ! 俺様は逃げるんじゃねぇ! 戦略的撤退をするんだぜっ! 今日はなんだか、調子が悪いみたいだっ!」


 逃げ足だけ早いライアンはパーティーメンバーを見捨てて、一人だけ逃げ出した。


「ちょ、ちょっと! リーダーが先に逃げないでくださいよ!」


 メリッサとアリアの二人も逃げ出していく。


 こうして難敵への挑戦は大失敗に終わったのだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る