第2話 密室①

密室。窓は存在せず、白い壁面が覆っている。部屋には右から、矢内、根間、麻生、平、吉良の5人がいて、麻生だけ眠っている。

全員の両腕は鎖で繋がれていて、遊びはあまりなく、舞台センターに麻生が行くには全員が協力する必要がある。

舞台上には立方体の箱が6つ。それぞれイスのように使用できる場所とセンターに1つ。根間が大声で叫んでいる。


根間「出せ!!おい!なんだよこれ!!出せよ!!」


麻生が目を覚ます。


平 「もうよせ。体力の無駄だ」

根間「だからってじっとしてろっていうのかよ」

平 「落ち着け。最後の一人が目を覚ました。叫ぶのは話を聞いてからでもいいだろう」

根間「……」


ふてくされて座り込む根間。


平 「気分はどうだ?」

麻生「ここは……?なんですか?どういうことですか?」

矢内「……こっちが聞きたいですよ」

吉良「……」

麻生「あなた達は?ここはどこです?これは一体なんなんですか?」

平 「面白いもんだな。みんな大体同じ事を言う」

根間「なんだよ。やっぱ俺たちと同じじゃねーかよ。意味ねーじゃん」


掌で首を撫でて、困惑している様子の麻生。


麻生「あの、すいません、誰か説明してくれませんか?どういうことなんです?」

全員「……」

吉良「多分みんな同じです。あなたと」

麻生「僕と同じって……」

吉良「昨日……っていうのが合ってるのかわかりませんけど、誰かに眠らされて、気がついたらここで目を覚ましたってことです」

平 「なんでこんなことになったのか、全く身に覚えがないんだよ」

麻生「身に覚えがない……ですか」

平 「あんたにはあるのか?眠らされて、拉致されて、こんな部屋に監禁される覚えが」

麻生「いえ……ありません。でも、分からないじゃないですか。どこで誰の怒りを買うかなんて」

平 「だとしても、このやり方は普通じゃない。何が目的なのか全く分からない」

麻生「あの、皆さんは知り合いなんですか?」

矢内「いや、お互い誰の事も知らなかった。あなたが起きる前にちょっとした自己紹介タイムがあったんですよ」

麻生「そうですか」

根間「そうですかって、さっきから質問ばっかりで自分のこと何も言わないね」

麻生「ああ、すいません。ちょっと気が動転して。僕は麻生といいます」

平 「私は平だ。よろしく」

矢内「僕は矢内といいます」

根間「俺は根間。根間恒彦。高3ね」

吉良「私は吉良小百合といいます。宜しくお願いします」

麻生「……皆さん冷静ですね。この状況、怖くないんですか」

吉良「怖いですよ!決まってるじゃないですか!見たところ窓も出口も無いし、(手の鎖を示して)こんな風にされてるし……」

矢内「僕だって一人なら叫びだしたい気分ですよ」

根間「別に俺は怖いとか無いけどさあ、友達と今日遊びに行く約束してたんだよね。だから早く出してほしいんだけど」

平 「遊びに行くくらいならいいが、仕事が滞るのは困る。今日は大事な会議があるんだよ。私一人の問題じゃないんだ」

根間「遊びくらいって何だよ。こっちだって約束なんだから俺一人の問題じゃないよ」

平 「遊びは遊びだろう。仕事と一緒にするな。これだからガキは……」

根間「あぁ?」

矢内「まぁまぁまぁ。皆ここを出たいのは一緒ですって」

吉良「あなた(麻生)が起きたら、何か状況が変わるかもって皆で話してて、それを期待してた部分もあるんですけど」

麻生「すいません。僕も何も心当たりはなくて」

平 「いつまでもこうしていても仕方ない。ここを出る方法を考えよう」

吉良「でも、助けを呼ぶにも携帯も無いし、腕は繋がれてるし、どうやって……」

矢内「5人で力合わせて思いっきり引っ張ってみる?」

根間「無理無理。さっきさんざん引っ張ってみたけどビクともしなかったよ。そもそも片腕の動きが制限されてるし、作り自体もこれでもかってくらい頑丈に出来てる。腕のほうが先にやられちゃうよ」

矢内「そうか……。腕がやられるのは困るな」

根間「それよりさあ、皆でやるなら大声で助け呼んだほうがいいんじゃない?」

平 「……とりあえず、やってみるか?」


頷く一同。


平 「せーの、で皆で大声を出す。いいね?……せーの」


『誰か~』『助けて~』『ファー!』『開けろ~』などひと通り騒ぐ


矢内「だめだ……クラクラしてきた」

平 「少し休もう」

根間「水飲みたい……」

吉良「これ、ずっとやり続けるのは喉が……」


「さっき変なこと叫んでるやついなかった?」みたいなやり取りひと通りあって、


根間「で、どうすんの?また叫ぶ?」

矢内「何か他の方法を考えたほうがいいのでは?思いつかなければ、叫ぶしかないけど」

平 「……そうだ!ええと、麻生くん」

麻生「はい」

平 「一応、ポケットとか、探ってみてくれないか。携帯とか、役に立ちそうなものが入れたままになってないか」

根間「そっか、それやり忘れてたじゃん」

矢内「僕らも君が起きる前にやって、成果なしだったんだけどね。まあコイン一枚でも出てくれば何かに使えるかもしれない」


ポケットなどを探る麻生。


麻生「??……なんだこれ」


ポケットから折りたたまれた紙片を取り出す麻生。


平 「見覚えがないのか?」

麻生「ええ」


紙を広げる麻生。


麻生「これは……」

根間「なんか書いてあるの?」


紙片には『始ノ箱ヲ開ケヨ 終ワリノ始マリ』と書いてある。


麻生「始めの箱を開けろって……」

平 「見せてくれ」


紙を渡す麻生。


平 「おそらく犯人の仕業だろうが、なんだ?どういうつもりだ……?」

吉良「……!?あれ、じゃないですか?」


吉良が指さしたのは舞台センターの立方体。


矢内「ああ!小さく『始』って字が書いてある!」

根間「あれ、イスじゃなかったんだ。俺たちのとおんなじだからてっきり……」

平 「……ちょっと待てよ」


自分の立方体を調べる平。


平 「この箱、参って書いてある。鍵穴もあるぞ!イスじゃなかったのか」


他のメンバーもそれぞれの立方体を調べ始める。


吉良「私の、壱って書いてある」

矢内「俺のは肆です」

根間「俺、弐だ」

麻生「伍です」


平 「さて、どうする?」

矢内「どうするも何も、あの箱を調べてみるしかないんじゃないですか?」

平 「まず間違いなく犯人が残したメモだぞ。罠かもしれないじゃないか」

根間「そうだけどさあ、いつまでもこうしてる訳にいかないって言ってたじゃん」

吉良「私も、調べた方がいいと思います」

平 「君はどう思う?」

麻生「僕は……前に進むしかないと思います。道が一本しかないのなら、なおさら」

平 「……分かった。あの箱を調べよう」

根間「でもさ、届かなくね?」

吉良「これ、みんなと繋がってるほうの腕の鎖の余裕を

一人で使えばいけるんじゃないですか?」

根間「なるほど。で、誰が調べんの?」


黙りこむ一同。


麻生「……僕がやります。万が一なにかあっても、構わないので」

平 「構わないって……君、」

根間「決まり!じゃあ、みんなで麻生さんだっけ?に鎖寄せよう!」


鎖の遊びを麻生に寄せる一同。

手を伸ばして、箱に手をかける麻生


矢内「届いた!」

麻生「これ、上が開きそうです。開けてみます」

平 「気を付けろよ」


麻生を見守る他のメンバー

中からは、小さめの黒い箱と折りたたまれた紙、そして壱と書かれた鍵が出てくる。

それらを自分の位置まで持ち帰る麻生。


平 「箱の中からまた箱か。紙にはなんて書いてあるんだ?」


紙を開く麻生。

紙には『汝ラノ最モ貴キモノ 五ツヲ捧ゲヨ 始マリノ終ワリ』


麻生「なんじらのもっともとうときもの、5つを捧げよ……」

吉良「一人1つずつ大切なものを捧げるってことかな……?」

矢内「その鍵は、多分吉良さんの箱の鍵だろうね」

根間「こっちの箱はなんだろ?」

平 「おい、あんまり不用意に触ると……」


箱を開ける根間。中にはカウントダウンしている表示盤の付いた爆弾が。

時間は残り50分くらい。息を飲む一同。


根間「ねえこれ……」

平 「落ち着いて……ゆっくりと下に置くんだ」

根間「いや、別に落ち着いてるけどさ、これちょっと流石にウソ臭くない?」

平 「何を言ってるんだ?」

根間「だからさ、さすがに爆弾はないでしょって。どうせハッタリだってこんなの……」


言いながら、爆弾のコードをいじる根間。

すると、根間の体にレーザーポインターが向けられる。


吉良「ねえ、……何あれ?」

麻生「危ない!!伏せて!!」

根間「えっ?」

麻生「伏せろ!!」


根間を引っ張って伏せさせる麻生。次の瞬間、空を切る音。


根間「なんだよ。なんなんだよこれ……」

麻生「ボウガンだ……」


矢を拾う麻生。


吉良「私たち監視されてるってこと?」

平 「もうそれ(爆弾)に触るな。ゆっくり下に置け」

根間「う、うん」


爆弾をゆっくりと置く根間。


矢内「それってやっぱり、爆弾ってことですか」

根間「いやでも、触ってて矢が飛んできたってことは、触られるとマズイってことでしょ?やっぱハッタリだよね?ねえ?」

平 「ちょっと黙ってろ!!」


押し黙る一同。


平 「仮にそうだとしても、犯人はいつでも私たちを殺せるんだぞ。さっきので分かっただろう」

根間「でも……」

平 「それとも君はこれがハッタリだという確実な証拠でもあるのか?私達の命を君の勘に預けろと?」

根間「いや、別にそういうわけじゃ……」

平 「こういう時は常に最悪のパターンを想定して行動するんだ。この場合は爆弾が本物だと想定したほうがいい」


何かを考えている吉良。ブツブツと何かをつぶやいている


吉良「終わりの、始まり……」

根間「じゃあ、これからどうするっていうの?このまま大人しく待ってろってこと?」

平 「それは……」

根間「どっちにしろここから出ないと殺されるんなら、いろいろ試すしかないじゃん!」

吉良「……手当たり次第というのは賛成できません」

根間「なんで!」

吉良「犯人が私達を監視してるのはさっきのボウガンを見ても明らかです。さっきのは警告だと思う。根間くんがイレギュラーな手段に出たから……」

根間「……イレギュラーじゃない手段ってなんなんだよ」

吉良「さっき麻生さんが持ってた紙。この爆弾の発見が『終わりの始まり』だとしたら、『始まりの終わり』は、爆弾の起爆阻止なんじゃないでしょうか?」

平 「なるほど……筋は通ってるな」

矢内「5つの貴きものってのはなんだろう?」

吉良「わかりません。でも、その鍵で私の箱を開ければ何か分かると思います」

平 「……時間がない。やってみよう」


鍵を受け取り、自分の箱(壱の箱)を開ける吉良。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る