第1話 応接室①

警察の応接室。外は雷鳴を伴う強い雨が降っている。

田富功利が座って一人で刑事を待っている。やがて、一人の刑事が現れる。


新堂「どうも、おまたせしてすいませんね」

田富「いいえ、こちらこそお忙しいところに押しかけてしまって。

はじめまして、田富と申します」


名刺を差し出す田富。それを片手で受け取る新堂。


新堂「捜査一課の新堂といいます。一年前の例の爆発事件の本を執筆中だとか」

田富「そうなんです。それで実はある情報をつかみまして。……いや、情報というより真相と言ったほうがいいかもしれませんね」

新堂「……あの事件が起きた当時のニュースはご覧になっていましたか?」

田富「もちろん。最近見なおした分を含めると新聞、雑誌含めほとんど全部見ていると思います」

新堂「ならば釈迦に説法かもしれませんが、今でもあの件は集団自殺なのか、事故なのか、あるいは殺人なのか警察も断定できていない事件なんですよ」

田富「知っています。激しい爆破のせいで事件現場の損傷が激しく、手がかりのようなものがほとんど見つかっていないから、ですよね」

新堂「その通りです。犠牲者の身元についても、現場近くで見つかった荷物を調べて、やっと判明したくらいなので」

田富「未だにその犠牲者たちの関係性も分かってない」

新堂「……まあネットか何かで知り合って集団自殺したセンが濃厚だとは思いますがね」

田富「それにしたって、その足取りも掴めてないわけですよね?」

新堂「だから断定出来ないわけです。……それで、アナタのいうところの真相というのは?そこまでおっしゃるからには、よほどご自分の説に自信があるんでしょうが」

田富「論より証拠です。これを見て欲しいんです」


バッグから大きめの封筒を取り出す田富。


新堂「それは……?」

田富「あの事件の犯人の遺書……あるいは犯行声明、でしょうか」

新堂「事件の犯人?つまり犠牲者とされている5人は自殺ではないと?」

田富「現場に小屋が建てられていたでしょう?」

新堂「ええ。爆発が起きるまで、5人はその中に居たとされていますね」

田富「この文書には、小屋の中の様子が事細かに描かれているんです。興味はありませんか?あの『密室』の中で何が起こっていたのか――」


田富の言葉を受けて、少し考えこむ新堂。

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