第16話 巫女作戦会議


 一時間程すると影が詩織に話した全てと影と詩織の間に昨日何かがあったか、そしてこれから詩織がどう考えているかの話しが終わる。


 巫女達はお互いに顔を見て詩織の考えに大方納得した感じであった。ただしそれは村の危機に対しての納得で影に対する行動に関しては納得していないように感じられた。そして影はこの状況をどうしたらいいかと考えていたが今下手に動けば両腕が可愛い女の子二人に使い物にならなくさせられそうな予感がして何も出来ずにいた。いくら女の子と言っても相手は巫女だ。腕の一本二本を折る事は簡単に出来る。


「影、今度から私の事はえりかって呼んで。それと私にもラフでいいからね」


 最初に口を開いたのはえりかだった。そして影が返事をする前に未來が続く。


「私にも素でいいよ。影が甘えたいだけいつでも甘えていいからね」


 まいと有香はどうしていいか困っている影を見て笑う。


「まいでいいわよ。後は素でいいわよ」


「私も有香でいいよ。まいと同じく素でいていいからね」


 未來と詩織とえりかが肉体年齢に対して精神年齢が少し低いもしくは恋愛に対して積極的な女の子だとするとまいと有香は肉体年齢に対して精神年齢が高いように感じられた。

 影は微笑み感謝する。

 まさか五人全員が同じ事を言ってくれるとは思ってもいなかった。


「ありがとう」


 その言葉に五人が笑ってくれる。


 そして十八時を迎えずにそのまま巫女会議が良いムードのまま始まる。しかし先ほどまでの恋愛感情は一切なくなり皆が真剣な表情で話しあう。影は巫女会議なので空いている勇者の部屋を借りてゆっくりしようとしたが未來に止められて今はハムスターの姿でヒマワリの種を食べながら話しを聞いている。これに対しては五人の意見が一致し、影はご飯を食べながら参加で満場一致となっているので問題ないが影としては少し場違いな気がして気まずかった。


 相手の規模は守護神一人で上級守護者三名、守護者五名、守護兵約百人。人数だけで言えば小規模~中規模部隊であった。しかし守護神が直接率いている事から大部隊以上に脅威となっていた。そこで大規模部隊と想定して詩織を中心に作戦を立案、検討している。勇者全員でも相手できて守護兵五十人がせいぜいいい所だ。そして単純計算で巫女一人が残りの守護兵五十人を相手にする。守護者四人に巫女が二人。上級守護者に巫女が三人。守護神を影が一人で相手にするのが理想となる。しかし巫女は五人しかいなく、この作戦では巫女が一人足りないのだ。それに守護神からは階級がいくつか存在する。その階級次第では影一人でも勝てない可能性が出てくる。だからこそその穴埋めと上級守護者三人をどうするかがポイントとなってくる。


 簡単に言えば瞳の村の保有する戦力では火力不足となる。そこに正面から戦いを挑んでも負ける事は明白。しかし作戦を考えても相手が守護神ともなれば知識や知略に関してもかなりキレる。下手な作戦は自殺行為となる。これには流石の巫女の軍師と言われる詩織ですら解決の糸口を見つけられずに苦労していた。影の予想が当たれば守護神の階級は中級だと見ている。


 そして詩織や他の巫女達も状況から中級と見て間違いないだろうと言った考えだ。だからこそ今の影一人では少し部が悪い。影が今も色々と使っている力を全て解除して龍脈の力を回復させたとしても全回復には二日は必要となり間に合わない。それに力の回復に回して他の探知結解や他の村にさりげなく張っている結解の解除は巫女がいない各村にとっては大変危険な状態になる可能性がある事でもある。なので簡単に解除するわけにはいかない。それもあり状況は最悪な展開となっていた。幸いな事に未來は昨日の夜から探知結解を解除して結解と言うにはどうなのかと言う程度の結解の展開していないので明日のお昼には龍脈の力が全回復する見込みとなっている。


「ねぇ詩織はこの戦いの勝率をどれくらいで見てるの?」


 まいが確認の意味を込めて聞く。こう言った些細な情報さえ共有し巫女達は五人の目線を完全に一致させていく。勝つためには出来る事は全てする努力をする。


「そうね……悪くて三十パーセントで良くて五十パーセントって所かしら」


 有香が口を開く。


「私は四十あるかないかって思ってる。言い方は悪いけどどう考えてもこちらの状況が悪いわ。フィフティフィフティの勝負に持ってくのはキツイと思うの」


「確かに」


 未來が有香の言葉に同意する。


「なら四十パーセントと見て今の作戦を変えましょう」


 えりかが作戦変更を希望する。


「そうね。常に最悪を想定して四十じゃなくて三十ぐらいでなら作戦変更しましょう」


 詩織の意見に四人が頷く。こうして何度も作戦変更と言うよりは修正がされる。一度の失敗で村の全ての民と自分達の命がかかっているからこそ失敗は絶対に出来ない。そして作戦会議開始から五時間が経過し二十二時を過ぎた頃五人の口がとうとう止まる。影はずっとヒマワリの種を食べ、水を飲み未來の肩に捕まって横になって話しを聞いていたが考えられる全ての作戦に決定打がない事に気づいていた。皆もそれは気づいているらしく、どうしていいか分からなくなっていた。


 だからこそ影もその理由に気づいた。本来決定打となるはずの自分に負担がかからない作戦しか先程から立案されていないことに。無意識に作戦の全てにある事が反映されていた。それは巫女達にとって自分達の代わりを影は出来るが影の代わりは出来ないと言った思い込みだ。そして影の生存率が高く、逆に巫女達の生存率が勇者と変わらないぐらいにしかない作戦しか先ほどから立案されていない。


 影は未來の肩から飛び降りて机に引かれた作戦マッピングの上に着地する。


 ここでずっと黙っていた影が口を挟む。


「五人で守護神を相手にして欲しい。後は俺と勇者の十一人で何とかする」


 その言葉に未來がすぐさま反論する。


「そんな事したら影の龍脈の力がいくらあってもすぐになくなっちゃう。もし体内の龍脈の力が十パーセントを下回れば生命にも関わってくるのよ? それくらい知ってるでしょ」


 未來が本当に心配してくれているからこそ止めてくるのが分かる。


「うん。でも俺の事は心配しなくていいよ。きっと何とかなるから」


 影が未來の目を見て安心させるように言う。


「普通に考えて私達五人ですら厳しいのに今の影の龍脈の力の残量でしたら死ぬよ?」


 えりかの言葉がとても低い。冗談ではなく真面目に聞いてくる。恐らく皆影が考えなしに言ってない事には気づいている。しかし一人で無茶をしようとする影を直接止める事が出来なかった。それはこの五時間に及ぶ話し合いの中で皆が気づいていながら誰もその一つだけは口にしなかったから。一人の犠牲で五つの村が救われるならこれ以上被害がない方法は現状ない。だからこそ影の口から辞めると言って欲しかった。


「えりか心配してくれてありがとう。でも俺は最強の転生者だから転生者としての役目を今果たすよ。えりか覚えてる? 村の危機的状況の時は力を貸すと約束したあの日の事を」


 影が口にした言葉を聞き、えりかの身体が震える。


「かげ……確認だけど死ぬ予定はないよね?」


 まいが影を見て心配そうに聞く。


「うん。これぐらいじゃまだ死なないよ」


「……分かった」


 まいは影の言葉に納得する。

 やはり何処か心配そうに影を見ている有香。


「影には作戦があるの?」


 有香が聞く。


「あるよ。最悪各村の結解や使い魔の使役に使ってる龍脈の力を全て戦闘に回す予定だよ。だから心配しなくても大丈夫」


 影が有香の目を見て真剣に答える。

 しかしここで詩織が影の言葉に違和感を覚える。


「全ての力を戦闘に回した場合現状二十パーセント前後しかない力がどれくらいになるの?」


 影はため息をつく。正直こればかりは答えたくなかった。

 答えれば皆の反応は簡単に想像がつくからだ。


「全てを戦闘に回せば八十パーセントぐらいにはなるよ。ただしそれは今も他の村を隙さえあれば襲撃しようとしている狂暴化した野生の動物の攻撃を許す事になるけどね。今まで瞳の村に張っていた結解分の力は実は回復しているから今は四十パーセント弱あるよ。力の総量から色々とバレたら嫌だったから残量も誤魔化していたのは謝るよ。ごめん」


「確かに八十パーセントなら単純計算で巫女四人分の力……不可能じゃないけど他の村を危険に晒す事になる」


 詩織の言葉に四人の巫女が静かなる。


「あくまで最悪な場合で各村の結解はギリギリまで維持するよ。例えこの身に変えても。だからそこは気にしなくて大丈夫」


 影は詩織を安心させる為に自分の正直な意見を伝える。


 ここで未來が影に向かって涙声で怒る。


「やっぱり死ぬつもりじゃない! 何がこの身に変えてもよ! 影が死んだら誰が悲しむと思ってるのよ! 無責任にも程があるわ」


 普段絶対に人に対して強く言わない未來の言葉に皆が言葉を失う。同じ巫女達ですらこんな未來を見るのは初めてだったからだ。しかし有香はそんな未來を慰めるのと同時に影のフォローをする。


「未來は勘違いしてるよ。落ち着いて聞いて。影は最悪な場合と言ったのよ。要はどうしようもない状況になったらって事」


 有香の言葉にまいが続く。


「そうよ。だからえりかもそんな顔をしないの。あと詩織も納得できないって顔は辞めなさい。私達が召喚した最強の転生者である影を信じてあげるのが私達の役目じゃないの?」


 まいが皆を納得させるように影の気持ちを汲み取り皆の心に訴える。


「もし死んで欲しくないと思うなら私達の四人が守護神を相手にして一人を影の援護に周ればそれだけでも影の生存率がかなりあがる。それに守護神の中級なら巫女が四人~五人で戦える相手のはずよ」


 そしてまいの言葉が終わると同時にそれが一番いい作戦だと巫女達が各々思いお互いに自分の意見を話し出す。誰が守護神と戦い誰が影の援護に周るが一番得策かを話し合う。


 影は未來がいつもの未来に戻り安心する。影の事を好きな未來、詩織、えりかにとって影の生存率は何より大切な事になっていた。しかし戦争においてそう言った感情は命取りとなる事を影は若くして知っていた。影がいた世界の日本は戦争とは無縁だったが世界の何処かでは毎日戦争が起きており沢山の命が毎日失われていた事を知っている。


「それで誰が影の援護に周るの?」


 有香が皆に質問をする。


「なら私がする」


 未來が口を開く。未來が得意とする特殊スペルは効果範囲が広い物が多く個人戦より集団戦に向いている。確かにこの状況では適正なのかもしれない。未來の言葉を聞いて四人の巫女が話し合う。しばらくすると意見がまとまる。


「分かったわ。ならそれで行きましょう」


 詩織が四人を代表して未來の提案を了承する。そして明日の襲撃に対する巫女作戦会議は終了する。

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