第7話 もう一人の巫女との再会


 影は住処にしている大きな大木から偵察隊の雛達がゆめから未來からの伝言を聞いているのを見ている。会話の内容は口の動きから全て読唇術を使い把握。


 そして、影は瞳の村とは反対方向を見る。


 その目線の先には瞳の村から二十キロ程離れた所にある守護神の一人が支配している中規模施設がある。


 守護者達もここ数日で瞳の村を守る結解が弱くなっている事に気づいていた。そして理由はともかく一つの仮説として影がいなくなったのではと推測し、大規模な攻撃作戦を計画し徐々に瞳の村に迫ってきている事を影は使い魔から報告を受けている。


「まずいな……」


 影はハムスターの姿で独り呟く。予想が当たれば二日後の夜にも守護神を大将とした大規模部隊が攻めてくると見ている。本来ならばがら空きになった相手の拠点となっている施設を潰したいが昨日増援が来ている事を確認しておりそう簡単にはいかないのだ。それに増援には守護神が二人いた。影一人で守護神二人はやった事がないのではっきりとは言えないが無理だと見ている。そもそも守護神と戦った事がない影は良くて一人が限界だと見ている。この事実を瞳の村の皆は知らない。伝えたいが今の影が村に入れば結解に阻まれて侵入ができない。仮に結解をすり抜ければ未來と勇者にばれる。しかし守護神と戦う為には少なくとも明日の間に他の巫女の村に行き明日の日没までに瞳の村に来てもわなければならない。


 とりあえず考えてみたが理想的な答えがでないので空を見上げヒマワリの種を食べる事にする。変な話し明日には偵察の守護者が村近くまで来るだろうからそれに勇者が気づいて後は芋づる式で気づくかもしれない。


 お腹がいっぱいになった影はヒマワリの種と一緒に拝借した水を飲みハムスターにとってはとても太い木の枝に寝そべる。寝そべると風が吹いて気持ち良かった。野生でのハムスター生活にも早くもなれる自分に今感心している。


「お腹いっぱいになったし少し真面目に考えよ」


 寝そべりながら自分に言い聞かせるように独り言を呟く。


 しばらくして影は動く事にした。


 巫女達との約束を守る為に走る。村の壊滅危機とは正に今だと思ったからだ。

 その時には力を貸すと約束した。

 影はハムスターの姿で一生懸命祈りの村に向かう。

 瞳の村には入れないが他の村なら既に情報が回っていても瞳の村よりかは入りやすいと考えた。それに影としては用が終わればすぐに村を出ていくわけで今回だけ村に入れてもらえればそれで良かった。ハムスターだと一生懸命走っても人間の足より遅いわけでたったの十キロちょっとの距離を完走するのにかなりの時間が掛ったが夜には祈りの村に着いた。


 村に着くと出入口を二人の勇者が見張っており、その数メートル先に瞳の村程ではないが外部から守護者は当たり前だが村の人間以外が出入りすると探知し妨害される仕組みになっている。村の周囲を一周して見ても結解に穴はなくハムスターでの侵入は出来ないと見る。


 そこで昔一緒にいた頃、未來が言っていた事を思い出す。


「結解の弱点は龍脈の力の波長を完全に真似されたら誰も分からない。ただし本人には自分と同じ波長なのですぐ分かる」と言っていた。だから瞳の村で影が結解を張っている時、勇者は気付かず未來が張っていると勘違いしていた。影はこの時仮に祈りの巫女であると同じ龍脈の波長で侵入するとどうなるかを考える。考えられる可能性は三つ。一つは誰も違和感に気づかず詩織は影の気配に気づき黙って待っていてくれる。二つ目は詩織が違和感に気づき勇者と協力して影を倒しに来る。三つ目は詩織を含めた全員に無視される。可能性として一番嫌なのは三番目で一番面倒なのは二番目なのだが結果はやってみないと分からない。影は誰もいない村の暗い裏手で考える。もしここで誰かがこの状況を見ていればハムスターが二足で立ち前足で人の様に考える様子は少し違和感を覚えるだろう。


 決意を決め人の姿に戻って龍脈の力の波長を詩織に合わせ行こうとした瞬間にさっきまでなかった気配が影の背後に三つある事に気づく。さりげなく振り返ると二人の勇者が剣を構え一人の女性をいつでも守れる形を作る。


「そこのハムスター何をしているのですか?」


 二人の勇者に守られている女性からの質問に影は戸惑う。ハムスターの事は巫女でも未來しか知らない。なのに何故目の前にいる三人は影の正体を知っているのかと言う事だ。


「誰だ?」


 影の問いに先ほどまで暗闇で姿が見えなかったが、勇者が持っている灯りに火をつけた事によりようやく顔が見える。


「私ですよ」


 その顔は未來と同じように笑っており、本当は警戒してなかったような表情と言うか服装でもあった。巫女とは思えない桜の花びらの寝間着にサンダルと物凄くラフな格好をしているがこの女性こそ祈りの村の巫女である。詩織は影に対して全く警戒していないように見えるが付き添いの勇者二人がとても険悪な目で影を見る。


「詩織さん……何でここに?」


「影が瞳の村を出た次の日、緊急巫女会議をしました。その時に全部未來から聞いてます」


 詩織は付き添いをしている二人を下がらせ影に近づいてくる。


「その時に未來が巫女全員に言ってきたの。もしかしたら行くあてがないだろうから影がもし来たら何も言わず保護して欲しいって」


 影の前までやってくると両手で優しくハムスター姿の影を救いあげる。


「それで探知結解をいつもより広げてたら謎のハムスターが引っかかったわけ。それに村の外まで来た割にはずっとウロウロして入って来ないからわざわざ迎えに来たのよ」


 詩織はそのまま救い上げたハムスターを自分の胸に挟んで固定すると歩きだす。影はとりあえず複雑な心情を抱いたが女性の胸に挟まれたまま運ばれることにする。


「何となくだけど影の事情は知ってる。とりあえず寒いし私の部屋に行くわよ」


「分かった」


 付き添いの勇者二人が詩織に何か言いたそうだったが気を利かせてか何も言わずに自分の部屋に向かう巫女とハムスターの後ろをただひたすら付いてくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る