第6話 新しい住みかとそれぞれの思い


 あれから三日が過ぎた。

 ハムスターの姿で龍脈の力を完全に隠し、皆には気づかれないようにしていた。


 この三日間は瞳の村から少し離れた所にあり村を一望できる一本の高く太い大木を中心に生活をしている。影が守ると約束した村は森に隣接する瞳の村を中心に五つの村が形成されていた。なので守護者の襲撃を受けて全ての村にすぐに駆け付けるには瞳の村近くに住むのがいいと考えたのだ。


 勿論生活を保障されていない今の影が巫女達と約束した村の緊急時には力を貸す約束は破綻している。だが今までの感謝、そして影の命を繋ぐ為頑張ってくれた巫女達に恩返しをしないまま姿を消すのはどうなのかと悩みとりあえず一回だけそんな日は来ないで欲しいが来たときは救う、その為だけにここで生活する事を決めた。


 色々と心配していたが影が瞳の村を出て問題は特に起きなかった。恐らく影に脅されていて未來が今まで何も言えなかったと村の民達が思っているみたいだ。もっと言えば影が村を出た次の日の朝は皆いつも通り何事もなかったかのように自分達の仕事をしている。影は村を出る時に拝借した大量のヒマワリの種をいつも通りマイペースに食べながらのんびり過ごしていた。


「巫女様あれから顔色がずっと悪いですが……体調は本当に大丈夫なのですか?」


「あの時は本当に申し訳ありませんでした」


「巫女様……」


 三人の勇者は巫女の部屋でここ最近体調が良くない未來の事を心配している。


 瞳の村の巫女である未來に勇者の三人が謝っている理由は二つある。


 一つは未來が影の事を本当に好きだったのに自分達のせいでいなくなってしまった事。


 そして二つ目が今まで影は未來の龍脈の力と遜色ないレベルで村の結解の半分以上を維持していた事に気づいた事だ。守護者達が村に攻めてきても村の民達全員の避難には数十分はかかる。瞳の村は幼い子供が他の集落より多く村自体が少し大きい。その為避難所まで逃げるのにも時間がかかる。そして村の民達は今まで何度も未來に村を守る結解をもっと強くしてくれと言ってきている。結解の強度をあげればその分龍脈の力を使う事になる。集落一つを囲み守護者達三人からの奇襲にも数十分耐えられる結解を維持し続けるのは無理と言うことだ。その難題に今までは影の協力の元、何とかしてきた。その影がいなくなればしわ寄せは当然巫女である未來に来る。村の民達は気づいていないが瞳の村の勇者十人はここ数日結解の強度が日に日に落ち未來の龍脈の力がかなり弱ってきている事に気づいていた。そして好きな人がいなくなってもいつもと変わらず笑顔で接してくれる未來に罪悪感を持っていた。


「ゆめ、佳奈、七瀬、私の心配は大丈夫ですから自分の仕事に戻りなさい」


 未來が三人に優しく答える。ゆめ、佳奈、七瀬の三人は反省しているのかとても暗い顔をしている。そんな三人を未來が励ます。


「過ぎた事は仕方がありません」


 未來の言葉に三人が顔をあげる。


「とりあえず結解の強度を他の村と同じく今の半分以下にしようと思います」


 ここでゆめが口を開く。


「やはり無理をされて……いるのですね?」


 未來は微笑みながらゆめを見ていつも通りの口調で答える。


「申し訳ありません。私の力ではもって明日のお昼までが限界です」


 未來は正直に答える。

 そして頭を下げる。


「巫女様、どうか頭をあげてください」


「佳奈の言う通りです。私達こそ今まで何も知らなかったばかり無茶を言い続けてしまいすみませんでした」


 頭を下げる未來に佳奈と七瀬が慌てる。

 未來は二人の言葉を聞いて、下げていた頭を静かにあげる。


「このままでは明日以降私一人の力では結解が維持できません。なので今日中に村の民に緊急時には各自五分以内で避難できるように努力するように伝えてください」


 その言葉は村を守る者の言葉として先ほどまでと違い力強く三人を見て言っていた。


「かしこまりました」


「かしこまりました」


「かしこまりました」


 三人は未來の命を受けすぐに村の民に伝える為に行動を開始する。それは村の周囲に危険が迫っていないかの確認に出かけている雛率いる偵察隊の耳にもすぐに入る。


「もし明日守護者達が攻めてきたら私は龍脈の力不足で戦えない……どうしたら…」


 未來が誰もいなくなった部屋で一人呟く。そしてしばらく考える。どうしたものかと。そして瞳の巫女は影がいなくなった事を伝えてから少し気まずくなった巫女達に助けを求める事を考える。


「奈緒と優奈はいるかしら?」


 未來の一言に二人が姿を見せる。


「二人にお願いがあります。祈りの村と癒しの村に行き明日と明後日の二日間護衛をお願いしてください」


 奈緒と優奈は未來の言葉に返事をする。


「かしこまりました」


「かしこまりました」


 未來は最悪を想定して各村にも護衛をお願いしようと考えていたが勇者は何処の村も人員不足である事から半ば諦めていた。しかし僅かな希望にかける事にする。守護者達の情報網はとても広く正確である事から瞳の村がこの二日間で襲撃される確率を考えればにもりたくなる。


「ところで質問を一ついいですか?」


 優奈の質問に未來が返事をする。


「どうぞ」


「護衛の理由を聞かれた際には何と答えれば……」


 この時奈緒と優奈は内心困っていた。

 理由を聞かれた時に正直に言っていいのかと。

 もし正直に答えれば最悪の場合、他の村の巫女から「自業自得」と言われて断られる可能性を考えていたからだ。


「正直に答えてくれて構いません。明日と明後日も結解を張る予定ですが私の力が回復するまでの約二日間守護者達の攻撃に五分持つかと言ったレベルまで強度が落ちると」


 その言葉は二人が聞きたくなかった答えだったが未來はそんな事はお構いなしに言ってくる。



「それでは巫女様の立場が……」


 奈緒が未來の顔色を伺いながら言葉を口にするが、言葉が途中で出なくなる。


「今まで結解の六割は影の力で維持してたの……しかし三日前それがなくなったんですよ?」


 未來の口調が今までと変わる。

 今まで笑顔だった顔が真剣なものになり、声のトーンもいつも通りの明るいトーンではなく低くなる。


「この状況で保身は命取りになるわ。分かったら早く行きなさい」


 奈緒と優奈はここに来る前に七瀬から事情を聞いていた。そして未來が言っていた事が本当だとするとこの二日間村が本当に危険な状況にある事になる。


「かしこまりました」


「かしこまりました」


 返事をして二人は祈りの村に全力で向かう。

 さらに未來は任務中じゃない残りの二人も呼ぶ。


「紅と綾香も今の話しを聞いていましたね?」


 未來の一言に二人が姿を見せる。


「はい」


「勿論です」


「なら二人は残り二つの村に行って護衛を頼んできてください」


 先ほどの奈緒と優奈の質問で二人にも今の状況が分かっていた。自分達が影を村から追いだしたせいで未來が無理をしてその無理が限界に来ている事に。


「では距離がありますので本日の夜までには戻ってきます」


 紅の言葉に未來が頷く。


「日付が変わる前までに戻ってきて頂ければ構いません」


 未來の言葉に綾香が返事をして二人が未來の前から姿を消す。


「かしこまりました」


 巫女の部屋で一人になった未來は独り言を呟く。


「はぁ……もしこれで私の責任ってなって協力を断られたらどうしたら……」


 未來はこの二年ずっと影と一緒にいた。だからなのか一人になりとても不安になっていた。影を日本から召喚する前は今みたく一人が当たり前だった。しかし影を召喚してからは基本常にずっと一緒だった。勇者達とは違い起きてから寝る時までずっと一緒にいた。困った事があれば何も言わずにいつも影が笑って助けてくれた。その癖いつも何もしてないし知らないと言った態度をとってきた。未來の中では影がいなくなって彼の存在が今まで以上に愛おしく、大きく大切な存在となっていた。遠距離恋愛が恋を情熱的にするとよく言うが正にその通りだと思う。仮に恋心がなかったとしても影の存在の大きさは変わらない。今思えば未來が体調不良の時はいつも影が未來の体調が良くなるまで何日でも結解を維持して張ってくれていた。いくら影が最強の転生者と言っても本当は龍脈の力をかなり消耗していたのだと思う。それに甘えて未來が三、四日寝込んでも顔色一つ変えずに看病もしてくれた。それも守護者達にも分からない様に龍脈の力を変換してとなると変換にも力を使う事からかなりきつかったのだと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る