第28話 訪れる未来は
倭の国の中心に建てられた神殿。
本来男子禁制の屋敷で、俺は神としてもてなされていた。
一時は狂信化した民衆に刈られかけたりもしたが、すったもんだの末、とりあえずは平和な毎日を送っている――
「いつもここから町を見下ろしてるのか?」
「ええそうですよ。民を見守ることも私の仕事ですからね」
「でもよ。さっきから
「ギクッ」
「やっぱり卑弥呼様はショタが好きって史実に残しとかなきゃなあ」
「そういうあなたこそ、先程から走り回る
「ショタばかり追ってる時点で曇りきってるとは思うんだが」
「あまり姉上への無礼な口の聞き方は慎んでいただきたい。いくら姉上が喪女で干物女で変態巫女だとしても許しませんぞ」
「そうだそうだ! 少しは口を慎め! ってお前の方が酷くない? いきなり背後からぶっ刺されたんですけど」
「そうだな。悪かったよ。少しは口を慎まないとな。卑弥呼様の謹み深いその胸板のよ――卑弥呼パンチ!!
「ギャフン!!」
俺はアマテラスに言われた通りに、二人から離れないようにしていた――
「つまり、この国に未曾有の危機が訪れたとき、あの二人がなにかしでかすんだな」
「ええ。そのときは、二人の近くでどうか見届けてあげてください。あの子は、ずっと一人で心の闇を抱えてきたのです。必要なのは理解してくれる人。それがダーリンなのです」
――とまぁ、何が起きるのかわからないが、常に二人の近くに張り付いてるわけで、今のところ何も起きずに幼い子供ばかり
時折視線が合った幼女に虫けらを見るような眼でみられるが、業界的にはご褒美ですありがとうございます。
「少し、席を外しなさい」
「は? あ、いえ、わかりました」
ニヘラニヘラしてると、卑弥呼は弟を部屋の外に追い出した。わざわざ俺と二人きりになるとは……はっ、もしや、俺のことを好いてるのか?
よもやよもやだ。穴があったら入りたい。
「私を見ながら話さないでください。入れさせませんし、触れさせませんよ。墓穴でも掘って入ってください」
それとも即神仏がお好みですか、と詰め寄ってくる。
「どうどう。ところで何か話でもあるのかよ」
「くそっ、あなたが
「あなたは遠い未来からやってきた人間ですね」
「だからそう言ってるじゃねぇか」
「そもそも、あなたみたいな軽薄な神がいてなるものですか。それに私のくもりなきまなこであなたのことをよーく見てみたら、あなたが暮らしていた世界が見えたんです。いやはや立派な国になったものですね」
「そこまでわかってるのなら、もう隠さなくてもいいか。卑弥呼様よ、お前、これから倭の国に起こる未来が見えてるんだろ」
アマテラスからは黙っておけって言われてたけど、知ったこっちゃない。
「はい……あなたには早々にこの国から立ち去ることをお勧めします。そして元の時代にさっさと帰ってください。倭の国は、直に周辺諸国からの侵略を受けて大量の死体の山が築かれてしまいます。もうどうにもならない未来なんです」
「本当にどうにもならないのか」
「本当にどうにもならないのです」
光が消えかけた眼で、卑弥呼は民を見つめている。その中にはまだ幼い子供達も含まれている。
――そうか。未来が視えるってことは、人の死も見てしまうと同義で、それを何千何万と視てきた卑弥呼が辛くないわけがない。
未来は読めても、それを変える力がなければ無用な長物なのかもしれない。それどころか、変えられない未来を知ってしまうほど酷なものはないだろう。
だから、慰めにもならないが隣で約束した。
「残念ながら、自力で元いた世界に変えれなくてね。だから、最後まで側にいてやるよ」
俺は、生前も死後も決して褒められた人間ではないけれど、今だけは目の前の女の子を救ってあげてもいいんじゃないかと、気まぐれに思った。
どこかの専門家もそう言っていたしな。
「ふ、ふん。なら……好きにすればいいじゃないですか。でも約束してください。あなたは本来部外者なんです。だから身の危険を感じたら、その時は逃げたって誰も文句は言いませんから」
「わかったわかった」
出来れば、救ってやりてぇなぁ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます