第14話 愚者の行き先
「いってらっしゃい」
「……ああ」
毎日同じことの繰り返し。
目をつぶっても歩ける通学路は何も変化はない。赤信号の横断歩道で立ち止まると溜め息をついた。
「はぁ……つまんねえな」
俺は人生に絶望していた。夢も希望もありゃしない。365日をただ惰性で生きている。そんなつまらない男だ。
だがな、悪いのはこの平和ボケした国のせいだ。俺の望んでいる刺激が得られないのがいけないんだ。
ただ生きている実感が欲しかった。自分以外のなにかを傷つけることでこそ、生を自覚できる俺はおかしいのだろうか。
衝動を抑えるのに、もうそこら辺の小動物では我慢できないでいた。
本来なら、俺はこんな閉塞感漂う小さな世界に留まるべき人間ではないはずなのに、大人達は杓子定規で良い子を量産していく。
自分には誰にも理解されない可能性があると信じていた。
父親のようなうだつの上がらないサラリーマンなんて反吐が出る。
母親のように家事だけに生きる人間も許せない。
そんな両親のことなど眼中にもないが、思い描く未知の才能はまだ花開くことはなかった。
もし……別の世界に飛び出すことができたなら、その時こそ秘められた力を発揮出来るはずだ。
きっとそうにちがいない。
叶うはずもない妄想に苦笑いをし、青信号になった横断歩道を渡り始めると、悲鳴のようなクラクションが鳴り響いた。
「なんだ?」
視線を右に向けると、この世界に終わりを告げるトラックの姿が迫っていた――
『いらっしゃいませ☆』
「ああ……俺は死んだのか」
「おや、理解が早いですね。仕事がスムーズに運ぶので助かります。えっと……マエダ・ケイジさんですね」
「やっとこの日が来たか……おい、俺は転生すんだろ。チートは? ハーレムは? なんでもいいが、一つ注文がある。顔面はこれ以上ないってくらいにイケメンにしてくれよ。わかるだろ? 不細工だと締まるもんも締まらねえだろ」
「はー……。ここ最近一部の世界ではラノベが浸透したせいか、神と対峙しても驚かない人が増えているのはゆゆしき事態ですね。神道は浸透しない。なんて嘆かわしいことでしょう」
「それにしてもよ。こいつの態度はどうなんだ? 端的に言えばムカつくが。現世ではなんの不自由もなく甘やかされて育ったのが目に見えてわかるな。こういう自分は特別だと思ってる奴は目も当てられねえよ」
「あなたほど甘やかされた存在もそうそういないでしょうし、働こうともしないニートほど目も当てられない存在はないでしょう。どうせなら天罰当ててやりましょうか」
「おい。グダグタ言ってねえでさっさとその茶番はやめろよ。ここは世界の危機が迫ってるとか、あなたの生前の善行によりとか、俺を持ち上げるのがお前の仕事だろ?
なんで仕事を放棄してる。そんで何故こんなロリ体型の奴が担当なんだよ。残念だがその体で迫られてもお断りだぞ」
あ、こいつ地雷踏み抜いた。
「んだと、このクソガキが。クッソムカつきますね。きっと何かの手違いで送られてきた奴でしょう。たまにあるんですよね、そういう上層部の
「はい……ちょっと視界に入れたくないです」
「辛辣だな。まぁ俺も同意見だ。俺が言うのもなんだが、ちょっと頭冷やしてこい。ここは勘違いヤローがくるとこじゃねえよ。はっきりいってお呼びじゃない。チェンジだ」
「なんだと……黙って聞いてりゃ、お前ら何様だよ。これから世界を救う勇者だろ俺は! 敬え! 今なら土下座して必死に謝罪すれば許してやるよ」
「聞く耳持たないのはどちらでしょうかね。地に頭も手もつくのはあなたでしょうに。もはや五体投地したとしても許されませんが……しかし、良いでしょう。神は許します。あなたにはとある世界を救ってもらいましょうか」
「おい、こんなやつを転生させるのか?」
やっと思い描いた展開になったかと、少年は不遜な態度は崩さずに卑弥呼を見下していた。
「ふん。態度はでかいが許してやろう。さあどんな世界なんだ」
「行ってからのお楽しみですよ。サプライズです。どうぞご希望のチートスキルで混沌と殺戮が渦巻く極悪非道な世界を救ってきてくださいませ。良い
「――なぁ卑弥呼様よ。あいつはどんな世界に転生させたんだ? どこに行ってもあの性根は治らんだろ。根っこがダメなんだから」
「根腐れしてますからね。処置は不可能です。ですが世界を救いたいという願いは叶えて差しあげようかと思いまして、難易度MAXの極悪な世界に送って差し上げました。例えるならダークソウル3をノーミスでクリアするようなもんです。ちなみにダメージをくらうと最初からやり直しというスキルを与えました」
「うわ……エグ。とんだサプライズだな。神様の仕返しが陰湿極まる」
「地獄に落とされたようなものですね……」
「転生させて私の実績にもなりますし、願いも叶えてあげられて良いことずくめじゃないですか。文句を言われる筋合いはないですよ」
「初めて会ったときに、あれ以上調子に乗らなくて良かったとつくづく思うよ……」
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