第7話 人生最高の聖夜

チームを抜けた俺は情けなさと自分のせいで仲間を苦しめた責任の重さを感じヒロ達や多部さんにも会えずに孤立して行った。


チームから外れ惰性の様にバイトに行く毎日。


喪失感からか社長の安いオイルを高く売れと激を飛ばす言葉に苛つきを覚える。


サービスの様にエンジンルーム点検を促し半ば強引にボンネットを開けオイルをチェック、多少の汚れが有れば燃費が落ちる、エンジンに負担が掛かるを謳い文句にオイル交換を勧める。


薦めるのは原価リッター100円程度で700円売りをする低価格のオイルだ。


メーカー品は倍以上の単価の高性能品もあるが粗利が低くあまり在庫も持たない為、故にこの店と社長の都合のためだ。


車好きなお客には当然物足りなく、その様な顧客はカーショップで自分の好みや車の性能に合ったオイルを選ぶのでガソリンスタンドでは交換や補充をするお客は車に疎い人が多い。


なので水抜き剤や添加剤など実際不要とも思われる製品を多数売り付ける事も出来る。


確かに店に取って売り上げ、利益は大事なのは分かる。

俺も含め従業員達の給与を稼がなければならないのだから。

ただここの社長が闇雲に売らせる手法には違和感を感じる。

もっと必要なお客に必要な物を誠意を持って販売するべきでは無いか。


そんな思いが頂点に立った時思い切って意見を言ってみた。


結果は…


無駄だった。


全く聞く耳を持って貰う事は出来ず、挙げ句の果てに暴走族の輩にそんな最もじみた意見される筋合いは無い、それ以前に自分の行動を考えるべきだと説教されてしまった。


これが社会だ、世間一般真っ当とされる事以外の行動を起こす者には意見を述べる権利さえ認められない。


確かに側から見れば爪弾き者がいくら訴えても受け入れられないのが現実なんだろう。


でも世間一般の真っ当って何なんだろう。


政治家や権力者達も側から見てどう考えても真っ当と思われない事もまかり通るのに。


結局強い者がルールを作り正義を作れるのだろうか。


駄目だ、今のままでは腐ってしまう…


俺はそう思いこのバイトを辞めて何かを見つけようと決意した。


社長に続けられない旨を伝えるとその日に首になった。

ここでもお荷物だった様だ。


俺は何処に行っても迷惑な奴なのだろうか。


家に帰ると母親が困り果てた様子で兄貴に電話をしていた。


原因は俺だった…


バイクを隠してあったアパートから通報が入り警察に没収されてしまったのだ。

名義の俺が無免の為、中免を持っている身内の兄貴が引き取りに行かなければならなくなったからだ。


結局兄貴がバイクを引き取りに行きそのまま俺に返ってくる事は無かった。


「テメーのケツも持てない奴が好き勝手に生きるんじゃねぇ!」

兄貴の捨て台詞だけを残して。


先輩から宮地が譲られ俺に託したバイクを没収され、世話にならないと息巻いていた家族に面倒をかけ仲間にも見捨てられ愛する人にも応えられない。


俺は生きてる意味があるのだろうか…


何かを見つける前に壊れてしまいそうに成った。


自分を保つ事がギリギリな状況を乗り越える術が分からず兎に角がむしゃらに動いた。


今回の件で迷惑を掛けた親の希望である学校を定時制ながら通う事にもした。


仕事は学校の時間までに終わる早出早帰りが出来るコーキング屋の仕事を見つけた。


朝6時に起きて6時半に原チャリで出勤、家から15分程の事務所に集合すると事務所ライトバンにに乗り目的地へ向かう。

現場の場所によるが8時頃から15時頃迄NTTの中で配線と穴の隙間ににひらすらコーキングを詰めていく作業だ。


黙々とやる作業は今の内向きな俺には丁度いい。


余計な事を考えない様にひたすら作業をする事で他の作業者よりも丁寧で早いと現場リーダーに褒められる事もあった。


久しぶりに人に褒められた感じで些細ではあるが心地良かった。


15時半頃にライトバンに戻り現場から出勤場所の事務所に戻って清掃をし、16時半頃仕事が終わる。

そこから学校へ向かい授業を受ける。


毎日22時近く迄の授業だが有難たいのは給食がある事だ。

味は兎も角、朝から働き詰めの17歳の胃袋は空腹で悲鳴を上げている。

そんな身体に温かくボリュームもある給食の時間は体も心も癒やしてくれる。

そんな生活が続きいつもの様に一人黙々と給食を食べているといかにも輩という男が話しかけてきた。


「おい、お前どこの者だ」


「どこって?地元は桜町だけど」

この学校は工業高校の定時制で半分はガラの悪い奴らだ。

うちの地元と敵対するチームの連中も多く入学当初からもめない様に目立たなくしてきたつもりだったが俺の態度が生意気で気に食わないらしい。


「ちょっとツラ貸せや」

仕方なく輩についていく。


学校の裏庭にはまさに夜のその場に相応しい、いかにもヤンキーがたむろしている。


「こいつ桜町らしいっすよ、山田くんとこのチームの支部があるとこっすよね」

ボス的キャラがうんこ座りでタバコを吹かし俺を抉る様に睨んで来る。


「桜町っつうと光輝のとこだな」


「光輝を知ってるんですか?」


「俺は北町だからな」


「じゃぁ青山先輩の知り合いですか?」


「なんだお前、青山の知り合いか?」


「知り合いと言うか世話に色々成りまして」


「そうか、俺は青山の一個上で去年チーム引退してんだ、この学校は色んなチームの奴ら入り混じってるけど学校内で揉めんなよ」


「自分はチーム抜けてるしそんな気、毛頭ありません」


「名前は?」


「神野アキオです」

ニヤリと山田先輩は手を差し伸べ


「アキオ宜しくな」

と固い握手をしてくれた。


どうやらこの学校で狙われずには済みそうだ。


そんな緊張感もありどっと疲れを待って地元に帰ると優香と駅前のコンビニでばったりと会った。


「アキオ先輩!久しぶり〜」

クールな優香が興奮して近づいて来た。


「最近全然見かけないから多部といつも心配してたんですよ!」


俺なんかを心配してくれてるなんて社交辞令でも嬉しすぎる♪


「最近夜間の学校も行ってるんであまり地元に居ないんだよね」


「そうなんだ!忙しいんですね」


「忙しいというか、じっとしていられないと言うか」


「何かアキオ先輩大変そう。。でもらしくないですよ!」


「そうかな?」


「そうですよ!アキオ先輩は常に前向き一直線、バイタリティ一杯で周りも元気づけてくれる人なんですから」


「えー?本当にそう思ってる?」


「思ってますよ!実際宮地と別れた時に多部に言ってくれたアキオ先輩の言葉で前向きになれたんだから」

「おかげで前向きにもっといい男探して見返してやるーって元気出ましたよ」

「多部は理解出来ない!とプンプン怒ってましたけどねぇ」


クールに見えた優香がウィンクをして微笑んでくれる。


ヤバい、今の俺にこの優しさと笑顔は媚薬の様な物だ。。


慌てて頭を多部に切り替える。


「それで多部さんは元気?」


「うーん、微妙かなぁ、あの子も色々悩んでいるから」


「そうなんだ。。」


「だから多部もアキオ先輩と会いたいなぁって言ってるですよ、相談したいんだと思う」


俺を必要としてくれてる!やっぱ俺には多部さんだ!

一瞬の気の迷いで優香を女性としてみてしまう所だった。


それに後ろ向きにウジウジしていても余計ダメな弱い奴になって誰も幸せに出来ない。

やっぱ前向きにならなきゃ!


取り敢えず明日の休み久々にヒロに会いに行こう。


その日は気持ちを切り替えスタートするに相応しい雲一つない晴天だった。


電話も掛けずにヒロの家の前に来てみたがタイミング良く居るのだろうか。


少し緊張気味に久々のヒロ宅チャイムを押してみる。


するとパタパタパタとスリッパの音と共に「はーい」というヒロ母の声が聞こえた。


「ヒロ居ますか?」


「あら?!アキオ君久しぶり!」

「まだ寝てると思うから起こして来るね」

パタパタパタと急足で2階に上がりヒロを呼んでいる。


どうやら居る様だ。

安心と共に不安も湧いてくる。


数ヶ月一切連絡も無かった俺にどんな対応をするのだろう…


恋人を待つ気分で玄関でドキドキしているとヒロが降りてきた。


「おーアキオ!生きてたか!!」

屈託の無い笑顔が受け入れの回答と直ぐに分かった。


「連絡してなくて悪かったな」


「仕方ないだろ、光輝達のチーム入ったら一般人とツルむのNGだからな」

「でもチーム抜けたらしいからまた宜しくな!」


「ありがとう」


何か凄くホッとして何故かお礼と涙が出てきた。


「何だよ気持ちわりーな、まぁ俺も学校留年ヤバかったしバイトも忙しかったんでどちらにしろあまり会えなかったからな」


ヒロは地元の鉄板焼き屋でバイトをしている。

モテ男らしく看板息子?らしい。


「ヒロは彼女出来たか?」


「そんな暇ないし大体芸能人以外付き合わないって言ってるだろ」


相変わらずウザい事を言う奴だ。


ただ付き合いの深い俺には分かるがヒロは恋愛に臆病なだけだ。


両親も離婚し母親一人で兄弟二人を育ててくれて感謝はしているものの家族や家庭という物にも良い印象を持てない事も影響していると思う。


その女性への距離感がより一層モテ男に拍車を掛けるのだから皮肉なものだ。


俺もヒロみたいにクールな男になったらモテるのだろうか。


「アキオはどうなんだ?」

「多部さんだっけ?」


「あー…既に2回フラれたわ。。」


「アキオらしいなぁ!」

ゲラゲラと笑いながらヒロが言う。


「情熱的で一直線、砕けても砕けても何度でもぶつかって行く感じが」


「何だよそれ。。」

クールに憧れる俺に取って正反対の性格を指摘されてしまった。


「じゃぁチームも抜けた事だし再チャレンジだな!三度目の正直だ‼︎」


「二度あることは三度あるとも言うけどね」


二人はゲラゲラと笑いながら話が尽きなかった。


「そう言えばアキオ来週誕生日だな」

そうだった、10月31日は18歳の誕生日だ。


「何かお祝いしようぜ!」


「久々に会いに来ていきなり誕生日祝いの話なんて催促しに来たみたいだな」

申し訳なさそうに言うとヒロは任せておけとばかりに胸を叩く。


「ただバイトの給料前で金は無いけどな!」としっかり言葉を残して。


次の週末の俺の誕生日にヒロが迎えに来て連れて行ってくれた所は意外な場所だった。


近所のサンクス。


多部のバイト先だ。


しかもイートインのテーブルに予約先のプレートが。


「えっ?コンビニのテーブルで予約席とかある??」


「文太と多部さんが店長さんに許可取って確保してくれたんだよ!」


「久しぶりですアキオ先輩!全然会えないから心配しちゃいましたよ」


俺の勘違いか多部さんの目は少し潤んでいる様にも見えた。


やっぱり俺には多部さんしか居ない!


胸が熱くなり慕っていると「ゴッホン」と大きな咳払いをする文太が冷ややかな目で俺を見つめていた。


「あっ文太、ありがとな!」


「絶対今多部さんにしかお礼言おうと思って無かったよな」


「おっしゃる通りで」

ペコリと頭を下げると皆の爆笑が。


約一年の特別な環境を経験しただけだったが平穏な日常がこんなに有難いと思ったのは人生で初めてだと強く感じた。


その後須田も合流しコンビニはパーティーハウスと化してバイト中の多部さんも合間を見ては戯れて来てくれた。


最高の18歳誕生日となった。


「ヒロ、本当にありがとうな!」


「喜んでくれて良かったよ、何より戻って来てくれて良かった!!」

ヒロなりにかなり心配してくれていた様だ。


「ところでアキオは免許取りに行かないの?」

誕生日が9月だったヒロは既に仮免を取って免許取得迄あと少しらしい。


「そっかぁ、免許取りに行くかな」


今更親にも頼れずバイトの給料も余裕は無いが丸井のローンでお得に通えるプランが有るとの事でそれを申し込む事にした。


楽しい時間はあっという間に流れ多部さんのバイトも終わり解散する事になった。


「アキオ先輩はこれからヒロ先輩達と二次会ですか?」

するとヒロがすかさず


「俺は明日バイト早いからもう帰るは」と言い、何故か須田を引っ張り足早に去って行ってしまった。


「つうか鉄板焼き屋朝からやってねぇだろ!」


と突っ込んでいると多部さんがケラケラ笑いながら「気を遣ってくれたんですかね」

とまたもやメチャメチャ愛くるしい顔で俺の顔をガン見する。


「何だろうねぇ」

と照れ隠しで少し不貞腐れてみると


「でも私これから用事があるから」


「えー…」


「って言ったら台無しなのに確認もしないで行っちゃいましたね」


と今度は舌を出しながら悪戯っ子な顔をしてくる。

なんて可愛らしい笑顔だ!


「でもバイト帰り寄り道すると親が煩いからあまり長い時間居られないんです」


今度は少し寂しそうな顔、この子は女優になった方が良いのでは。。


俺は原チャリを押しながら遠回りをして多部を送る事にした。


多部さんは肩を丸めながら手を揉んで息を吹きかけている。


「寒い?」


「大丈夫ですよ!久しぶりにアキオ先輩と歩けて楽しいしすっごく星もキレイだし」


「ホントだ!」

秋の快晴の夜空は東京でも捨てたものてのでは無い。


「アキオ先輩星座とか分かります?」


「いや、全然… 」

ちゃんと勉強しておけば良かった。。

人生で一番学のなさを痛感した瞬間だ。


「そんな感じ〜」

また悪戯顔の可愛さにやられてしまう。


「そう言えばこの間優香ちゃんに会ったら多部さんが何か悩んでいる様な事言ってだけど」


「えっ優香が?」

「そんな暗かったかなぁ私」


「何か有った?」


「うーん、単には言えないけど大きく考えさせられる事が幾つも重なってる感じ」


「例えば?」


「悩みの一つは親友の友達が芸能界デビューする事になって学校辞めちゃうの」

「入学して学校ではずっと二人一緒だったから彼女の居ない学校行くの辛いなぁ…

とか」


「そうなんだ。。それはキツイね。」


「やっぱアキオ先輩いいなぁ」


「えっ?」


「だって大体の人は直ぐ新しい仲良い子出来るよ!とか、そもそも学校は勉強しに行く所だから考えが甘いよとか言ってきますよ」


「厳しいねぇ… 俺は甘々だから親友辞めたら直ぐ辞めちゃうかも」


「私はそんな簡単に行動に移せませんけどね」


「簡単にってロクに考えずにって事でしょ」


「あっバレましたぁ」


「馬鹿にしてるなぁ」


すると急に真面目な顔した多部さんが俺の前に立ちはだかり顔を近づけて「全く馬鹿にしていません!尊敬しています!!」


ダメだ俺はこの娘に翻弄されまくる。


でもこのやり取りが堪らなく幸せに感じた。


相変わらず寒そうな多部さんに肩から俺のジャンバーをかけると「アキオ先輩が風邪をひいちゃいますよ」今度はしっとりした声で語りかけてくる。


「大丈夫だよ、ただ二年以上洗って無いから臭いよ」


「えー、ホントだ臭すぎるー」

と言って多部さんはニコニコしながらずっとクンクン嗅いでいた。


この時間がずっと続いてくれればいいのにと強く感じていた。


しかし時間はあっという間に流れ、もう多部さんを家に帰さなければならない時間になった。


「アキオ先輩、まだまだ話したい事沢山有るから今度一杯時間取ってくれます?」


「勿論だよ!何か有ったらバイト終わって学校行く前夕方の5時頃一旦家に帰る事多いのでその頃電話して。それか夜11時頃なら家に帰って居ると思う」


「うん、分かった」


多部さんの敬語が少しづつタメ語に変わっていくのが距離感を縮めている実感だ。


こうして最高の18歳の誕生日は終わった。


その後教習所にも通い仕事、教習所、学校とかなり慌しい時間を過ごし普通免許も無事に取得してクリスマスにも差し掛かろうという頃、優香から電話があった。


多部が家出するのでかくまって欲しいとのお願いだ。


家には自分達の住んで居る所とは別に離れの空き家が有りそこに多部を優香と共にかくまう事にした。


鍵は渡してあるので昼間はうちの家族に見つからないようにそっと出入りをして夜は俺が差し入れを持って行った。


「多部さん家大丈夫?捜索願いとか出て無いかな?」


「それは大丈夫、大喧嘩で出てきたけど優香と一緒に二、三日考えて来ると言って来たから」


「でも心配してると思うよ。」


「あっアキオ先輩、普通の事言ってる」


「そりゃぁおかしい奴でも流石に世と同意見だよ」


苦笑いをしていると

「みゆき!アキオ先輩に散々世話になってるんだから困らせないの!」

とフォローを入れてくれた。


「アキオ先輩、でも心配しないで下さい!

明後日には帰るし、うちの親経由でみゆきのご両親には安否連絡を毎日入れるので、学校も冬休みなので実際はお泊まり会の様なもんですよ」

流石にしっかり者の優香だ。


2泊3日のお泊まり会の間、夜を通して二人と色々と話をした。


優香は宮地と別れ数日間食事も喉を通らない程落ち込んでいたらしいが、俺から宮地も優香の事も考えた結論だったと聞いて吹っ切れたらしい。


学生の間の今は自分磨きを精一杯やって将来の運命な人に会う準備をするんだとか、それがもし宮地だったら良いけど引きずりたくは無いので世の男性の一人に過ぎないと割り切れているらしい。


優香らしいがそんな彼女でも別れた時は食事も出来ない程落ち込んでいたのは意外だった。


多部は親友との別れの他にも学校で友達関係がギクシャクしている事や母親との確執、進学の事など明るい顔の裏には沢山の苦悩が有るのだと初めて知った。


俺も学校を辞めた事、暴走族に入った事、仲間を裏切ってしまった事などを隠さずに思いを話した。


多部が危険な目に遭いそうだった事などには触れなかったが。。


優香は長くチームに居た宮地と付き合っていただけあって的確な意見を言ってくれた。


多部さんは仕切りに「アキオ先輩が考えて判断して進んだ事には間違いは無い!」と精神論で支えてくれた。


俺はこれから多部とどんな関係になろうとこの二人を親友として守っていこうと心に決めた!


「アキオ先輩!今日はクリスマスイブだよ!」


多部が窓からの外を眺めながら想いに耽る感じで言った。


「そうだね、貴重なクリスマスイブを俺なんかと過ごしていいのかねぇ」


半ば自虐的に言うと多部は空かさず「別にアキオ先輩はおまけで優香と過ごすイブが格別なんですよ!」

「ねー!」


と多部と優香がハグをする。


「げっ!酷えなぁ」


「こんな可愛い二人に囲まれてイブを過ごせるんだから文句言わないのー」


多部がまたもや悪戯顔をフリフリしながら優香とモデル風のポーズを決める。


「ハイハイ、綺麗なお二人に囲まれて俺は幸せモンですよ」


そんな清らかな聖夜に相応しい、愛する事をテーマにその夜は盛り上がった。


優香は結婚願望が強く高校を卒業したら運命の人と直ぐに結婚して早く子供が欲しいらしい。


きっといいお母さんになりそうだなぁと真摯に感じた。


そして多部、固唾を飲んで彼女の想いを聞いた。


「私は小さくても温かい愛を大切に大切に育んで死ぬまでずっと支え合える人生を送りたい!」

いつか彼女の卒業文集に書いてあったままだ。


そこは彼女はブレないらしい。


それを見極めるには簡単に付き合ったり出来ないと言う。

まるで俺を諭している様に。


あっという間の合宿の様な2泊3日が終わり多部は家に帰る事になった。


「大丈夫か?」


「うん、アキオ先輩のお陰で何か吹っ切れた!」


「親は確かにウザいけど多部の事を思って色々言ってくれてるのだから感情的にならずに一つの意見だと思って聞いてあげてな」 


どの口が!と思える程まともじみた事を言ってしまった。


「ありがと!アキオ先輩‼︎、この3日間が無駄にならない様にしっかり家庭復帰してきますよ」


親指を立てて多部と優香は去って行った。

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