第6話 二度目の失恋と甘さの代償

集合場所に着くと光輝と文也が早くから待っていてくれた。


「おっ来た来た、中々様に成ってるじゃねぇか」

光輝がニヤつきながら上下に目線を運びながら言った。


「おっ!安全靴もちゃんと買ったんだな」

文也が細かな所まで気がつく。


「前にスタンドのバイトで必要と思って買ったけどあまり使って無かったんだよ」

特攻服と安全靴が集会時のいわゆる制服だ。


「今日アキオは俺と文也の間で走れ、役は後輩と他のチームに任したので俺らがお前をフォローして行くから」

光輝が俺の為に色々と根回しをしてくれていたらしい。


「ありがとう、恩に着るよ」


文也がすかさず「気合い入れてけよ!」と喝を入れてくる。


「分かってる!」と言いつつ緊張からか体が硬っている。


青山先輩からのルート説明が終わると号令と共に一斉にエンジンが掛かる。


俺もセルを回し思いっきりアクセルを回した。

空き缶のサイレントを外したマフラーから「クウォーーーン」と甲高い音が鳴り響く。


数十台のバイクが幹線通りに一気に出て行く。

俺も光輝に続いて通りに出てアクセルを開く。

一人で走って来た時とは違い緊張感と周囲に対しての意識が敏感になる。


光輝が手の合図で間隔を詰めろと伝えてきた。

俺のバイクはまるで光輝と文也に護衛される様に挟まれ3台が一体となって走っていく。


走り慣れた道を30分位進んだ時、いつもの様にけたたましいサイレン音が鳴り響く。


「アキオ、来たぞ俺にしっかり付いて来い」

光輝の指示に従い素早い走りに俺は必死に付いて行った。


気がつくとケツ持ちのお陰でサイレンの音はは随分と遠くに離れていた。


「後は回避ルート回って集合場所まで行くぞ」

俺は光輝と文也に挟まれ護衛されたまま走り続け無事に戻って来れた。


既に殆どは戻っていて最後にケツ持ち連中が戻り青山先輩の締めの後解散となった。


「丁度いいデビュー戦だったな」

地元に戻りいつもの溜まり場で光輝が言う。


「俺らは警察という権力と闘っているんだ、奴らの裏を描き時には正面からぶつかり、権力者の思い通りに全てが従う人間ばかりでは無いという事を思い知らせてやるんだ」


「世間で爪弾き者として扱われてきたちっぽけな俺らでも何かを変えられるんだと信じてな」光輝の眼は真剣そのもので色々な出来事の中で生きてきて湧き上がった強い信念を待って考えを貫き通す熱意が伝わった。


世間の17歳とは比べのにならないくらい大人に感じた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


仕事帰りに駅前のセブンで改造車の雑誌を立ち読みしていると背中をバシッと叩かれた。


この感触は?!


振り返るとそこには満面の笑みの多部さんが立っていた。


「やっと会えた!」

少しほっぺを膨らましふてくされている多部さんもメチャクチャ可愛い!


「アキオ先輩、私の事避けてます?全然バイト先にも顔出してくれないし、優香の家とかにもいないし。。、もしかして私の事嫌いになっにゃいました?…」


「そんな事無いよ!敢えて言うと多部さんに振られた傷心から足が遠のいてしまったのかなぁ」

と少し意地悪く言ってみると


「別にフって無いし!逃げてるし、なんかズルい!!」


よりほっぺを膨らました多部さんは

「て言うか、宮地先輩と優香、破局寸前なんですよ!知ってます?」


最近宮地と会っていない俺は知らなかった。


「そうなんだ、宮地は家を継いで仕事に専念するからその影響かね?」


「やっぱりそうなんですね!優香も悩んでました、会社を背負わなければならない宮地先輩は浮かれた恋愛ごっこなんかしてられ無いと距離を置いてるらしいんですよ!でもそれって違うんじゃ無いですか!!、だったら二人で苦労を分かち合って乗り越えて支え合うものですよね!」


「多部さん熱いねぇ。」


「だって優香はその覚悟で学校辞めるつもりなんですよ!」


なる程…


「多部さん、多分それが宮地が距離を置いてる理由なんじゃないかな。」


「なんでですか!愛し合ってる二人が苦難を乗り切って二人の世界を築き上げる事こそが人が一番大切にする事なんじゃ無いですか?」


「宮地は若干16歳の優香ちゃんの人生を一時の思いで狂わしたく無いんだよ」


「一時の思いって、そんな軽い思いなんですか?」


「軽い考えでは無いと思うよ、人生80年以上、その先まだまだ沢山の人生が残っている時に一生に影響する判断をするには若くて時間が短すぎるんじゃないかな」


「なんか男の人のズルい考えに思えちゃいます、そこ迄の覚悟を持ってくれないんですか?」


「俺の考えだけど責任を持てる程まだ自分に自信が無いんじゃないかな、世間的には俺らはいくら粋がったって所詮弱い人間だから守りきれる自信なんて無いんだと思うよ」


「じゃぁアキオ先輩は私を大切にしてくれると言ったのはそんな自信の無い自分なのに守れると思ったんですか、諦めて逃げていたらずっと変わらない!」


心臓がグサりとエグられる言葉だった。


確かに命を賭けて守るとか勝手に思い上がっていたけど出来る力も自信も無い口だけの事では無いだろうか。。


何も言えない俺に多部さんがトドメを刺した。


「アキオ先輩に会いたくて地元をウロウロして探してだけどやっぱり今のアキオ先輩とは付き合えない…」


殆ど何も言えず一方的に話され一方的にフラれてしまった。


二度目の失恋だ。


結局宮地と優香は別れる事になった。


多部さんの言う様に覚悟を決めるとしても才能も力も無く自分一人で生活する事さえままならない俺が大切な人を守っていけるのだろうか。


若さや弱さを理由に諦めて逃げていればずっと変わらない。

強くなりたい!力を持ちたい!大切な人を守れる様に!!



「アキオ、来週末の集会は三多摩以外も東京中の各支部が集まる大規模集会だから単車整備しておけよ」


いつもの公園で溜まりながら話している時光輝から通達があった。


参加台数は100台を越し間違い無く警察とぶつかる。

ヤクザや敵対チームとの抗争に発展する事もある緊張感のである集会だ。


俺はガソリンスタンドのでバイト後、裏の駐車場でプラグとオイルの交換、各ボルトの増し締めを行い最後にチェーンへ油を落として整備を終わらせた。


いよいよ明日は自らの単車で参加する初の大規模集会だ。


経験した事の無い緊張感と恐怖、そして高揚感が心中を入り乱れる。


集会当日サラシを腹に巻き特攻服を身にまとい安全靴の紐をキツめに締めた。


「よし、行くか」


気合を入れ単車の隠し場所であるアパート裏の駐車場に向かう。


その途中幼馴染のお母さんとすれ違った。

「こんばんわ」


挨拶をすると怪訝そうな顔で挨拶を返しそそくさと離れて行った。


周囲から見たらグレて危ない道に進んだ関わりたく人間としか思われないのだろう。

それだけでも近所迷惑なのかもしれない。


少し溜息を吐いて気を取り直し単車を公園に運んだ。


アクセルを回さずエンジンをかけて静かにこの場を離れる。


今日は幹線道路には出ずに裏道を静かに走らせ三多摩の各支部が集まる場所へ向かった。


関東支部全てが集合する迄は出来る限り目立たず動く必要がある。

警察に情報が漏れると関東連合全支部のチームが一網打尽にやられてしまうからだ。


三多摩支部が集まる場所に行くと既に光輝や各支部の頭が先に青山先輩との打合せを終えて俺らに指示を与える。


今夜は関東連合の集合場所まではカンカン外さずに出来るだけ裏道を走り向かうとの事だ。

途中には敵対チームの縄張りも通過しなければ成らず乱闘になる可能性もある事を伝えられてより一層緊張感が走る。


静かに身を潜め全台が揃うと共に青山先輩の号令でエンジンをかけて30台が散りながら静かに目的地に向かい始めた。 


関東連合の集合場所までは30分程度たが警察や敵対チーム、ヤクザにも気を向けながら走る時間はスローモーションの様に長く感じる。


橋を超えて10分程度で着く所に差し掛かった時だった、後ろから猛スピードで迫る一台のバイクがこちらに向かってきた。


分散して向かう中今俺らの編成は桜町と北町の10台程度だ。

その内のケツ持ち2台が最後尾に下がりその前に特攻の2台が配置される。


ケツ持ち、特攻4台に囲まれた一台のバイクの奴が叫びながら何かを訴えている。


特攻の一台がこの編隊に居る青山先輩により何かを話している。


すると青山先輩の手が上がった。

止まれという合図らしい。


どうやら関東支部の一部が敵対チームと遭遇し乱闘になりかなり不利な状況らしいとの事だ。 


「桜町の内2台は集合場所に向かって乱闘場所の荒川河川敷に兵隊連れて来てくれ、残る桜町のメンバーと北町のメンバーはこれから応援に向かう」


すかさず光輝が俺たちに指示を送る。


「文也とアキオは集合場所に向かって兵隊集めて来てくれ、俺と成也、早瀬達は青山先輩達と応援に向かう」


「分かった、アキオ行くぞ!」

直ぐに文也はアクセルを全開に走り出す。


俺も必死に文也を追った。


光輝達は大丈夫だろうか。


青山先輩や光輝、成也と腕っぷしのいいメンバーが必然と選ばれ向かったものの相手はかなりの規模らしい。


急がねば!


焦る気持ちを遮る様に路地からパトカーが赤灯を回して飛び出して来た。


「止まれ、そこのバイク!」

相変わらず音割れの激しいマイクで怒鳴り捲る。


「アキオ、俺が抑えるから集合場所迄突っ走れ!」

文也はそう叫ぶと車体を左右に大きく煽りながらパトカーにぶつかる勢いで下がって行く。


もう俺しか居ない。


とにかく皆に伝えなければ。

名一杯スロットを開けて全開で突っ走る。


百数十キロの速度で三叉路に近づくと矢印信号が点灯している。


どっちだ、見えない。。

俺はここのところ視力がかなり落ちていた。


車は来ない、矢印がどちらにしろイケる。

そう思い右の方向へ車体を傾ける。


すると左側の道からトラックが突っ込んで来た。

逆だ!


勢いのついた俺のバイクはトラックに一直線に突っ込んでいく。


駄目か…


ふと多部の言葉が脳裏によぎる。


諦めて逃げていたら変われない…


目を見開き右手と右足でフルブレーキを掛ける。


タイヤが白煙と共にロックし車体が横滑りを起こす。


クソ、このままじゃぶつかる。


トラックの際に車体が流された時アクセルを開いた。


駆動を失った車輪にパワーが伝わりグリップを取り戻した。


トラックの横ギリギリをすり抜け車線に戻った。


まだ生きてる。


俺には使命があるからだ。


アドレナリンが血を駆け巡りそのままアクセルを緩める事なく関東連合の集合場所に辿り着いた。


「三多摩桜町の神野です」

「チームの連中が荒川連合とぶつかり河川敷で乱闘になっています」


その言葉を聞いた関東連合の約50台が何の迷いも無く飛び出していく。


俺もその集団の後に続いた。


河川敷に着くと既に乱闘は終わっていた。


光輝ぎ神妙な顔をして青山先輩と話している。


「光輝!無事だったんだな、良かったぁ」


安堵の気持ちです声を掛けると光輝はゆっくりと首を左右に振った。


「無事どころじゃ無いよ」


「えっ?」


歯を噛み締める光輝に異様な空気を感じた。


成也が敵のチームに攫われたのだ。


関東連合の集合場所に戻ると作戦会議が幹部達で行われた。


頭の光輝以外の俺達は待つしか無かった。


30分位経った頃一台のダンプが入ってきた。


三多摩支部が集まり青山先輩の指示が出る。


光輝をはじめ各支部の腕っぷしの強いメンバーの名前が20人程呼ばれると木刀や鉄パイプを片手に取りダンプの荷台に駆け上がっていく。


どうやらこのダンプで敵の中枢に突っ込むらしい。


これだけの族車が集まり乱闘事件を起こしていれば警察も黙っていない。

周りはパトカーだらけの状態でこれ以上のメンバーや単車は走らせられないからだ。


俺達は再び息を潜める事になった。


何時間経った頃だろう、光輝達が乗ったダンプが戻ってきた。

荷台と運転席から降りてくる中に成也の姿は見当たらない。


成也は見つからなかった。


敵対チームも見つける事が出来ず雄一敵チームの縄張りで族車を走らす奴を捕まえ拉致してきたらしい。


溜まり場やメンバーの家など聞き出そうと拷問に近い状態で追い込んでいる。


格好は特攻服に包まれながらも幼い顔をしている様に見える。

聞けばまだ15歳の中学生だとのこと。


敵対チームには学生ルールが無いらしい。

成也は心配だけどボコボコにされて腫れ上がった顔の中学生も見るに耐えない。


事態の解決が見えない中、今度は数台のライトバンが入ってきた。


ダンプを含め数台の車で敵対チームの溜まり場を拉致した中学生ので案内の元回って行く。


俺はその中学生と同じバンに乗り溜まり場を一緒に回った。


額の血が止まらない中学生が気になりハンカチを差し出した。


「大丈夫か?」

声を掛けると涙を浮かべながら訴えてきた。


「俺、先輩に誘われて今日初めて集会に出たんです、そしたら他のチームとぶつかって乱闘になって、怖くなって一人逃げたら捕まって。。」

「俺殺されるんですかね?」

恐怖で蚊の泣く様な声で震えながら語りかけてくる。


こいつも俺と同じく弱いくせに背伸びして何かを掴もうと精一杯生きてるんだろうな。

そう思うと無性に情が湧いてきた。


「殺されはしないよ、そこまで冷酷非道な奴らじゃ無いよ」

慰めになるか分からないが少しは安心させてやりたいと思った言葉だった。


拉致した中学生の言う敵対チームの溜まり場を一通り回りきると関東連合の頭が冷酷な目で中学生を脅す。


「朝までにお前らのチーム連中を見つけられ無かったらコンクリートと一緒に海に沈めるからな!」


余りにも凄みの効いた言葉に中学生は失禁してしまった。


「なんだコイツ」

「誰かトイレ連れて洗ってこい」


「俺が連れて行きます」

俺は自然と言葉を発していた。


中学生をトイレに連れて行き中に入ると入って来た入り口の反対側にも出口何あった。

その出口は皆の死角になる位置だ。


「なぁ中学生、本当に成也の居場所見当つかないのか?」

彼の目を見つめて聞いてみる。


「俺、今日が初めてだから殆どチームの事知らないです」

涙を浮かべながら震えている彼をこれ以上見てはいられなかった。


「あの裏から出て逃げろ!」


「えっ?」


「その代わりもし成也の居場所が分かったら桜町に教えに来てくれ」

涙と鼻水を啜りながら中学生は何度もお辞儀をして走り去っていった。


さてと、どう言い訳するかな。。


俺は神妙な顔をしてチームの所へ一人で戻った。


「おい、あいつはどうした?」

関東連合の頭がドスの効いた声で聞いてくる。


「すいません、逃げられました」

言った瞬間拳が飛んできた。


「ボコッ」


鈍い音と共に左の頬に激痛が走る。


「テメー、何やらかしたか分かってんのか!」

次の言葉と共にぶっ太い脚の蹴りが直撃する。


何メートルも吹っ飛ばされ草むらに突っ込んだ。

すると光輝が前に立ちはだかり俺を庇う。


「すいません、俺の指示ミスです」


「あっー! 当たり前だ、テメーら全員焼き入れたる」

凶暴に化した関東連合の頭に俺らはボコボコに殴られる。


ヤバい意識が薄れてきた…


立ち上がる事さえ出来ない無力の俺や光輝達を救ってくれたのはまたもや青山先輩だ。


「郷田、スマンがその辺にしてくんねぇか」

青山先輩が関東連合の頭の郷田に頭を下げる。


「青山、お前ら三多摩の失態だ!どう落とし前つけるんだ!」


凄む郷田に青山先輩は鋭い目つきで「何なら俺がお前とタイマン張ってどちらかが死ぬまでやるか?」


その並々ならぬオーラに流石の郷田も怯みを隠せなかった。


「まぁいいや、お前ら三多摩の奴が拉致られたんだ、後はお前らで解決しろよ」

唾を吐き捨て台詞を残して郷田達は去っていった。


「青山先輩すいません」


「アキオ、すいませんで済む様な甘い問題じゃぁ無いぞ」

「俺らの仲間が攫われそれを必死で取り戻そうと動いた関東連合全支部の思いを踏み躙ったんだからな」


中学生を逃がした事は間違いとは思えない、ただ一緒に戦う仲間達を裏切らずに出来る方法は無かったのだろうか。


逃げた奴が仲間やお巡りにタレ込んでいる頃かもしれない。

取り敢えず敵対チームの縄張りから直ぐに離れるぞ。


青山先輩の号令と共に俺達は三多摩の集合場所へ戻って行った。


三多摩に戻ると成也を救うプランを幹部達が練っている。


俺は文也と早瀬ら後輩達とただ待つしか無かった。

「なぁ文也、成也大丈夫かなぁ」


「かなりヤバいかもな、奴等も俺らの溜まり場やメンバー宅をあらゆる拷問をかけて聞き出そうとしているだろうけど成也は死んでも口を割るタイプじゃ無いからな」


「下手したら海に沈められるかも…」


まさか、、でも関東連合の郷田の様な奴らなら人を殺す事も厭わないだろう。


「なぁアキオ、例の人質、わざと逃がしたんじゃないか?」


「えっ?何で?」


「何かアキオがしそうな事だからな」


「文也は誤魔化せないな」 

「そうだよ、ワザと逃がした」


「何で?」


「あいつは何も知らないよ、初めて集会に出たらしいし」


「アキオは優しいな、そして甘い」

「そんな言葉を信じて奴を逃せばあいつらと取引も出来ず結果成也の命を守れない事にもなり得るんだぞ」

「もしそう成ったらアキオ、お前が成也を殺したと同然だ」


文也の腹の底からの怒りと憤りを感じた。

俺は仲間を裏切ったのだ。


朝も明ける時間になっても打開策が見つからず途方に暮れていた。


その時薄らと明るくなった道の向こうからフラフラと歩きながら近寄ってくる人影が見えた。


「成也だ!」


「成也!」

光輝と文也が駆け寄って行く。


俺は後ろめたさでその場を動く事が出来なかった。


「光輝、文也!」

ズタボロになった特攻服から体中に落書きされた挑戦的な言葉が。


殴られた跡とそれを必死に消そうとした跡と共に血が滲み出ている。

成也は涙を浮かべながら悔しそうにしていた。


成也の話によると攫われ拷問を受けていた時に敵対チームの頭の弟が駆けつけ話を通して解放してくれたらしい。

そいつは例の攫った中学生だった。


「光輝、結果はともあれ今回の責任は重いぞ」

青山先輩が光輝に凄む。


「桜町を解散させろ」


「それだけは勘弁して下さい、代々地元を守って来た先輩達にも申し訳が立たないです」


「じゃぁどうやってケジメつけるんだ」


俺のせいで、俺の甘さのせいで皆が命をかけて守って来た伝統あるチームを解散させる事になってしまう。


「自分、何でもしますんで桜町の解散は勘弁して下さい」

俺は青山先輩の前にすがり地面に頭を擦り付けながら土下座をした。


「ペイペイのお前が辞めて済む程度の問題じゃねぇんだよ!」

青山先輩の厳しい言葉が木霊する。


その言葉に負けじと光輝、文也、早瀬、橋田、桜町の皆んなが土下座をした。


「分かった、俺と光輝で郷田の所に成也の無事の報告と詫びを入れに言ってくる、解散の話はその後だ」


青山先輩と光輝を見送り俺たち桜町のメンバーは地元の公園に戻り傷だらけの成也は家に帰って行った。


公園の沈黙の中、文也は俺を許さなかった。

大切な仲間とチームを俺のせいで失う事になり得るのだから当然だろう。


夜が明けた地元の公園でひたすら光輝のだ帰りを待った。

昼に差し掛かろうという頃、光輝が戻って来た。


「どうだった?」


文也が駆け寄る。


「取り敢えず青山先輩が話をつけてくれて今回は三多摩の問題として関東連合は関知しない事になった、青山先輩は今回はアキオを辞めさせるだけで桜町の解散も見送ると言ってくれたよ」


「そうか、取り敢えず良かった」

文也の安堵と同じに俺も安堵した。


「アキオ、当然だけどお前はケジメつけないとな」

光輝が言う。


「分かった、そしてごめん」


皆に深々と頭を下げて俺はその場を去った。



そして俺はチームを辞めて彼らは俺と一線を置いた。

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