第7話 パーティー結成、一時の休息②

「久しぶりのベッドぉ〜!」

「ひゃっほ〜」

 部屋に入るや否やアネモネとシェリーがベッドへとダイブする。

「フフッお二人ともお行儀が悪いですよ」

「いや〜雨風しのげる場所で眠れるのっていいね」

「いやー、やっぱベッドはいいわー」

 アンはベッドに顔を埋めて尻尾を勢いよく振り回し自らの機嫌の良さを全力で主張する。

「あのぉ…………本当に男の僕も部屋を一緒に使わせて貰って良かったの?荷物を置かせて貰えるだけでも充分だけど……」

 カインは気まずそうに言う。

「いーの!いーの!三人共長旅だったんだからしっかり休まなきゃ!」

「てかアタシ達とは同じ部屋を使ったり野宿したりしてたじゃないのよ?」

「いやシェリーとリリィは昔からの知り合いだけどアネモネとは今日知り合ったばかりだし…………」

「んー?何か問題有ったかなあ?」

「アネモネさんが構わないというなら私からは何も言う事は御座いません。しかし変な気を起こしたら父から譲り受けたメイスがカインさんの頭蓋を粉砕しますね」

「あはは!その時はアタシも魔術で消し炭にしてあげるわ!」

「し、しない!しないから大丈夫!」

「あははっ!」

 アネモネはシェリー達のやり取りを見て楽しげに笑う。

「ところで三人はどうして冒険者になったの?」

 ようやく腰を落ち着け、ベットに腰掛け寛いでいる時にアネモネは三人に尋ねる。

「それぞれ夢はあるんだけど、それを叶える為に冒険者になるのが一番という事で僕達はパーティーを組む事にしたんだ」

「夢って?」

「アタシはもちろん一獲千金!お金をしこたま稼いで都会で悠々自適に生活する為よ!田舎で一生畑耕す人生なんて真っ平ごめんだわ!」

 シェリーはベッドの上に立ち上げり力強く拳を掲げて答える。

「えー、自分で野菜や果物を作って生きていくのって素敵じゃない?私はそういうの憧れるなあ〜」

 アネモネは畑を耕し採れた作物を食べ自然と共生する穏やかな生活に思いを馳せて顔を緩ませる。

「アンタねぇ……どうせ自然に囲まれてのんびりスローライフとかお気楽に考えてるんでしょう?」

「そっそんな事考えてないよー」

 アネモネは考えていた事を言い当てられてしまい、動揺しながらも否定する。

「アホほど重労働だしどんだけ頑張っても天気やら作った物を食い荒らす魔物や獣なんかで全て台無しになるの!充分な収穫が出来なきゃ飢え死ぬし農具一本で獣や魔物に立ち向かわなきゃいけないしで大変てもんじゃないわよ!」

「ひ、ひえぇ……」

「シェリー、どうどう」

 熱くなり鬼気迫る様子でアネモネを威圧するアンをカインが落ち着かせる。

「シェリーさんはお一人で畑を管理して特に苦労してましたから熱くなるのも無理も無いですよ」

「うぅ……何も知らずにごめんね?」

「……アタシも熱くなり過ぎたわ。昔の事を思い出したらつい、ね。ハイッ次はカインよ!」

「ええっ!?えーと僕はその、ちょっと恥ずかしいんだけどおとぎ話の英雄に憧れて、かな?」

「子供の頃の憧れを追いかけるってかっこいいよ!ちなみにどんなお話なの?」

「ドラゴン退治の英雄の話だよ」

「うぐっ!」

 突然出たドラゴン退治という単語にアネモネの肩が跳ねる。

「やっぱり変かな?」

「そ、そんな事ないよ〜?素敵だと思うなあ」

「そう言って貰えると嬉しいね。僕もおとぎ話の英雄みたいにいつかドラゴンを倒すのが夢さ!」

「へ、へぇー。ガンバッテネー……」

 アネモネは冷や汗をかきながらも必死で笑顔を崩さないように努める。

「ドラゴンを倒すなんてアホな事言うからアネモネもリアクションに困ってんじゃない。そもそもドラゴンを倒せる人間なんて存在するのかしらねえ?」

「いるさ。現におとぎ話の英雄がだね」

「ハイハイ。次リリィいっちゃって」

「聞いてくれよ……」

 シェリーは聞く耳持たずリリィへと話を振り、カインは寂しげに肩を落とす。

「私は竜教徒の一人として竜の御業を探求する為の修業としてですね。聖地を巡礼したり各地を回って知見を広めた後に父の教会の後を継ごうかと考えてます」

「リリィちゃんのお父さんも竜教徒の司祭さんなの?」

「父、というより私の家は代々竜教徒の司祭をしていまして。父も若い頃は竜教徒かつ冒険者として各地を巡り修業したとの事なので私も父と同じ道を行こうと志したのです」

「その父親はリリィが旅に出るの死ぬほど嫌がってたけどね」

「説得するのめちゃくちゃ大変だったよね。最後には娘を旅に連れて行きたければ私を倒していけー!とか言い出しちゃって」

「ははは……その節はどうもご迷惑をおかけしまして」

 リリィは申し訳無さや気恥ずかしさ、そして少しだけ嬉しそうな複雑な表情で苦笑する。

「全然勝てる気しなかったけどまさかリリィが司祭のオッサンを殺っちゃうとは思わなかったわよ」

「いやいや。たぶん司祭様殺して無いからね」

「たぶんじゃなくて絶対に父は生きてますから!殺してないですからね!」

 からかう様な雰囲気の口調の二人にリリィは必死に否定する。

「目的は違っても一緒に旅をする仲間が居て羨ましいなあ〜」

「そういうアンタだって何か目的があって旅してるんでしょ?」

「私は…………私の居場所が欲しい、かな?」

 ドラゴンだという事を隠せば今の様に友好は築ける。

 しかしアネモネの真の願望は自身がドラゴンだと知った上で対等に生きて行ける場所を望んでいるのだった。

 叶う筈もないがそれでもつい呟くように心からの願望を吐き出してしまった。

「何だか重々しい言い方ね。何か訳あり?」

 シェリー達はアネモネの意味深な発言に眉をひそめる。

「シェリー、あまり踏み入った事を聞くのは良くないよ」

「そうね。まあ人それぞれいろいろあるものだし頑張れば何とかなったりならなかったりするものよ」

「あの……それは励ましになっているのでしょうか」

「間違っては無いとは思うけど励ましの言葉では無いね」

「何よ!文句有るっての?」

「へぶっ!?」

 シェリーは枕をカインへと投げつけ枕はカインの顔面へとめり込んだ。

「アハハッ!ありがとね、少し気持ちが楽になったかも」

「なら良かったわ。明日から魔石掘りの仕事なんだからさっさと寝るわよ。カイン、さっさと枕返しなさいよ」

「えぇ……。投げ付けておいて酷いなあもう」

 カインはシェリーへと枕を投げ返す。

 各々就寝準備を整え明かりが消される。

「そんじゃオヤスミ、起きれなかったら起こしなさいよ?」

「おやすみ、自分で起きなよ」

「フフッ、おやすみなさい」

「おやすみ〜」

 暗闇と静寂の中で寝息が聞こえてくる。

「みんな良い子だなあ。最後まで仲良くできると良いけど」

 シェリーは身を起こしシェリー達と出会えた喜びと遠くないうちにいずれ来る別れを思い複雑な感情が溢れ呟く。

 こうして正体を隠して仮初の関係を一時的に築くのはもう幾度と繰り返してきた。

 毎回楽しさと共に欺く事に罪悪感で心を痛める続けている。

 いずれは何かの拍子に人ではない存在だと知られて、もしくは知られる前に立ち去りその縁を断ち切るのも毎度の事だ。

 アネモネは深く溜め息を吐く。

「さっさと寝たらどうなの?」

「ひゃぁ!?」

 不意に背を向けるシェリーから声をかけられアネモネは小さく悲鳴を上げる。

「シェリーちゃん、まだ起きてたの?というか聞こえてた!?」

「アンタもね。アタシは犬の獣人なんだから耳が良いのよ」

「へ、へぇー。獣人って凄いねぇ」

「事情は知らないけどうじうじ悩むくらいなら寝た方が得よ?」

「う、うん……おやすみ」

 アネモネは布団を頭まで被り眠りについた。

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