第6話 パーティー結成、一時の休息①

「まだ飲むんだ?」

「このくらい全然だよ!カイン君も飲む?」

「ぼ、僕もう限界…………というか僕達はお酒飲まないんだ」

 酔った様子も見せず平然と飲み干していくアネモネの姿を見てカインの方が青い顔になる。

「私もこれ以上は」

「うぷっ…………しばらく動きたくないわね」

 シェリー達は満足気だが苦しそうにしていた椅子の背もたれへと寄りかかる。

「アネモネ、アンタ一番食べてる上にエールもガバガバ飲んでいったい何処に入ってんのよ」

「酔いとか大丈夫かい?水を飲んだ方が良いんじゃ……」

「へーき!へーき!この位じゃ全然酔わないよ!」

 アネモネは頬を上気させ身体と尻尾を左右に楽しげに揺らしている。

 ドラゴンは軒並み酒に強い。

 傍から見れば酔っ払いのそれだが酔っているのでは無く、アネモネはただご機嫌なだけだった。

「すまないけど空いている皿を片付けても良いかい?」

 山の様に重ねられた皿を片付けに、女将がやってくる。

「うん!」

「こんだけ食べられると作る側からしても作り甲斐が有るってもんだね!あっはっは!」

 女将は愉快そうに笑いながら空の食器を下げていく。

「アタシ達は三人でパイ一つで悪かったわね。とても美味しかったわ」

「気にする事はないさ。稼いでからまた来てたらふく食いに来とくれ。それより立ち上がるのも苦しそうだけど宿まで歩いて行けるのかい?」

「も、もう少し休憩したらなんとか」

「そうでした。これから宿も探さなければいけませんね」

「…………もしかしてまだ宿を取って無いのかい?」

 食器を片付ける女将の手が止まる。

「それなんだけど良い感じに安い宿屋とか有ったら教えて貰えないかしら?」

「いや、安い宿は軒並み埋まってるだろうね」

「えっ!?そんなぁ!?」

「どうすれば…………」

 アネモネとカインは思わず声を上げる。

「宿屋の数が少ないという事は無いですよね?私達みたいな魔石を掘りに外から来る人が多いと聞きますし」

 実際このエルビスの街は同規模の街の中では遥かに宿屋の数は多く、人の出入りが少ない街と比べると数倍は多い。

「魔石掘りをする連中は長期で部屋を取るから安い部屋はなかなか開かないのさ。数日以上部屋を取るなら割引いて貰えるかもだけど基本は先払い、アンタ達は金が無いんだろ?」

「ウソでしょ?どうしろってのよ?」

 シェリーは頭を抱え嘆く。

「まあなんだ…………頑張んな」

 女将は食器の山を抱えて去っていく。

「街中の宿屋を回れば一つくらい安い場所が残ってるかもしれないよ?」

「そ、そうですね。たくさん回れば何処かは…………」

「この状態で歩き回れっての?疲れと満腹感でまともに動ける気しないわよ」

「ぼ、僕も走るのはムリかな?でも出来る事なら野宿は避けたいしもう少しだけ頑張ろうよ」

 会計を済ませて重い腹を抱えながらアネモネ達は店を出る。

「アタシはとりあえず壁と屋根が有ればどんな部屋でも構わないわ」

「私もどんな所でもだいじょーぶ!」

「僕も特にこだわりは無いかな?どんな所でも野宿よりずっとマシだしね」

「では行きましょうか」

 四人は街中を回り宿屋を探す。

 宿屋は街の至る所に有りアネモネ達はかなりの数の宿屋を回ったがどの宿屋も高い部屋しか無かった。

「どこも空いてるのは一人辺り1万ドラゴ以上の値段じゃないの!高すぎんでしょ!」

 宿が見つからずシェリーは夕闇に吠える。

「まあまあ、もう少し頑張ってみようよ?」

「ほら、すぐそこにも宿が有りますし行ってみましょう」

「ここがダメならもう野宿ね。」

 その宿屋は街の端に有り築何十年と経ってそうな年季を感じさせる雰囲気が有った。

「ちょっと古い感じの建物だね」

「大事なのは値段が安いかどうかよ」

 四人は宿屋へと入る。

「すいません。四人で泊まれる部屋を借りたいのですが」

 リリィはカウンターに肩肘を突いて気怠けに座る宿屋の主人へと話し掛ける。

「ああ……?………………あー、満室だ諦めな」

「そう…………ですか」

 しかし即座に断られてしまう。

「これはもう野宿確定ね。今日はあまり冷えなきゃ良いけど」

 宿屋の主人はアネモネ達を漫然と眺めた後に口を開く。

「五人用の大部屋なら有るぜ?」

「本当ですか!?」

「これ以上探す余裕は無いわ!その部屋で頼むわ!」

 気力も体力も限界なシェリーはすぐさま飛び付く。

「はいよ。宿屋ギルドの規定に基づき一人当たり五千ドラゴでだからえー、二万五千ドラゴだな」

「はぁ!?アタシたちは四人よ?計算間違ってるじゃない!」

 宿屋の主人が提示した価格にシェリーは吠える。

「間違ってねえよ。この街には他の街よりずっと宿屋が多いから互いに潰し合わねえようにとか色々と理由が有って規則に厳しくてな。一ドラゴすら安くは出来ねえぞ?何日か続けて泊まるなら別だがな」

 宿屋の主人が言う様にこのエルビスの街では宿屋の経営者に様々な規則が設けられている。

 その中の一つが貸す際はその部屋毎に定められた人数のみ入れる事が出来て価格は定められた金額以上に値下げする事が出来ないという規則が有った。

「んで?どうするよ?」

「んぎぎ…………ちょっと待って!」

 交渉は無駄と見てシェリーは宿屋の主人に背を向け小さな声で喋る。

「てか一人当たりの価格でも厳しいんだけど。アンタ達は幾ら持ってる?」

「一人当たり五千ドラゴかぁ。僕も厳しいかも」

「もう一人分払わなければいけないのは厳しいですね」

 三人は財布を取り出し手持ちの資金を確認する。

「四千と……八百五十ドラゴ。微妙に足りないわ…………」

「僕は丁度六千ドラゴ。一人分なら…………」

「私は六千と二百ドラゴ。これは…………」

 自分達の懐具合に三人は溜め息と共にがっくりと項垂れる。

「あれ?アネモネは?」

 シェリーはアネモネの姿を見失い顔を上げてアネモネの姿を探す。

「はい。二万五千ドラゴ」

 アネモネはシェリーの背後に居て逡巡なく二万五千ドラゴを宿屋の主人へと支払う。

「はいよ。これが部屋の鍵、場所は二階の奥だ」

 鍵をカウンターへと置いて宿屋の主人は立ち上がり伸びをする。

「明日の昼には出てってくれよな。部屋も全部埋まったし休ませて貰うぜ」

 宿屋の主人は欠伸をしながら奥へと引っ込んで行った。

「じゃあ私達も休も?」

「待ちなさい」

「へ?」

 鍵を手に取り階段へと向かおうとするアネモネをシェリーは呼び止める。

「これ以上奢られるわけには行かないわよ!有り金全部持っていきなさい!」

 そう言ってシェリーは自らの有り金の全てをアネモネへと押し付ける。

「ええっ!?でもでもシェリーちゃん達お金に困ってるみたいだし余裕が出来た時でも全然大丈夫だよ?」

「余裕が出来たらなんて言ってたら一生来ないわよ。払える時に払えるだけ払うの!」

「シェリーの言うとおりだね。受け取って貰えるかな?」

「そうですね。足りない分はまた後日になりますが」

 カインとリリィもアネモネへと有り金を渡す。

「ほらっ、さっさと部屋に行くわよ?死ぬ程疲れてるんだから早く休みたいのよ」

 四人は二階の部屋へと向かう。

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