卒塔婆の街のブンヤ 12

           







「来たって、何しにさ? 菓子かしでも買いに来たのか?」

『馬鹿だね、アタシに会いに来たに決まってんだろ!』


 馬鹿はそっちだろ、とまたしても口から飛び出しそうになった。あぶねえ。


「まあ冗談はさておいて、何か聞き出せたりしたのか?」

『なんでアンタが冗談だって決めつけるのさ! 全く…。別にアンタの飯のタネの為に情報ネタ聞き出してやる義理は無いからね、そんな諜報スパイみたいな野暮ヤボなマネはしなかったよ』


 嘘だ。舞い上がってそこまで頭回ってなかったんだろ。


「なんだよ…。じゃあまさかか? ヒモじゃねぇか」


 まあ流石に二連続で漫画の主人公みたいな空腹行き倒れなんて真似しないだろう、と皮肉った。


『ヤダよもぅアンタそれがいいんじゃないか!! ホント作り甲斐がいのある食べっぷりでれしたねぇ❤』


 また行き倒れてたんかい。

 本当にカイゾクなのかよそいつ。界隈かいわいで伝説の " 流れのヒモ師 " とかじゃねぇだろうな。


「へいへいそりゃどうもごちそうさま。ノロケの報告だけだってんなら切るぞ。俺だって今日一日何も食ってないから腹減って飯食うトコ探してんだよ今」


 そう言い捨てると通話終了ボタンに指を伸ばす。


『アンタ、今日は会社に泊まるんじゃないのかい?』

「あん?」


 再び携帯を耳に当て直す。


「そりゃまあたまには部屋にくらい帰るさ」


 言ってる事がおかしいのは何となく分かってる。うん。


『確かアンタの自宅って、───の辺りだったよねえ?』


 なんでこのタイミングでそんな事聞くんだこのオバちゃんは。


「そうだよ」

『アンタも言ってたあの空飛ぶ乗り物、偶然だろうけどその辺に隠してるって言ってたわあの人』


 ───は??


「えっ、冗談だろ、限りなく都心だぞ? あんなでけぇモン人目に触れずにどこに隠せるってんだよ」


 そして確定ではないが予想も外れた事になる。オリジナルは都市部をけて現れているのではないか?という考察が。

 まあ外国と違ってこの国で人気ひとけの無い荒野とか探すのも難しいだろうけど。


『あの人の言う事が嘘だってのかい! 折角せっかく有力な情報を提供してやったのにこの恩知らずめ! これだからアリスコンプレックス守備範囲7歳~12歳は!』

「だからそれやめろっつーの!!」


 なんでそこアリコンだけ的確に当てめてくんだよ! つかよく知ってたなその単語!?

 慌てて反応した為デカい声を出したせいで再び周囲から奇異きいと警戒の目を向けられる。またかよ!


「あっ、あんた昼間の!」


 距離を取る人々の中から一人、逆に寄ってくる人物が。仕事柄しごとがら反射的に身構えてしまう。


「…あ、お前!?」


 そして俺もその声の主の正体にワンテンポ遅れて気が付いた。


「ごめん八重やえちゃん、急用が出来た。切るわ」

『あ、え!? ちょっと今のこe───』


 俺は携帯電話の向こう側に一方的にそう告げると通話を終了した。

 何か言ってた気がしたがそれ所じゃ無い。

 俺は大股おおまた足早あしばやにソイツに歩み寄る。


「や、あの時は悪かったな! …えっ? ちょ、何」

「ビンタァァァァ!!」

「グーーーー!?」


 問答無用でそのツラにビンタした。手はグーで。








 (次話に続く)








         

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