第9話邂逅、そして会敵の朝✗9 

 この世界が変わったのは、思えばいつの頃からなのだろう。

 記録には残っていても、記憶にはないときに思いを馳せる。

 この世界が変わってしまったそのとき、ひとは何を考えていたのだろう。

 既に失われたときのなか、ひとの心に刻まれた想いに思考を巡らせる。

 私はこの思いに囚われたとき、いつもたったひとつのことを考える。

 世界が変わり、日常が崩れ、いつも通りが覆ったそのとき。

 果たしてひとは、、と。

 記録に残ることはなく、記憶にのみ遺された想いの残滓。

 、世界を守りたいと願った尊い望み。

 私には想像することしか出来ず、私などには想像すら出来ない現実。

 その裏返った現実に、ひとは如何なる意志を以て抗したのか。

 私には思い、考えることしか出来ない。

 ただ教えられたままの事実を、頭のなかで反芻することしか許されていない。

 だけどそれも、当然のことだった。

 その当時、私は世界の何処にも存在していなかったのだから。

 だからこそ、私はこの憂鬱な気持ちを払拭する為に辿っていく。

 現実を受け容れ、事実を見据え、過去を紐解いていく。

 そうして生き延びてきた、人類の軌跡を。

 全ては、太陽が消えた日から始まった。

 何十年も前のとある日蝕の日を境に、世界の様相は一変した。

 これまで何千年と同じひと同士で戦い続けてきた人類。

 それが初めて、「敵」と出逢ったのだ。

 レッド。

 R・E・D。

 正式名称、RE:code・extinction・Destruction。

 再発性特殊自然災害指定生物。

 とある国ではそうも呼称される、

 奴らは、必ず海からやってきた。

 これも何らかの確証がある訳ではない。

 だがこれまで人類が撃退してきたレッドのなかに、ひとつの例外もいない。

 何の前触れもなく、突如として海上に出現するのだ。

 そして陸地を、いや、進み出すのだ。

 レッドが出現し始めた当初は各国の足並みも揃っておらず、また有効な迎撃手段もなかった。

 その為いまでは考えられないことだが、奴らとの戦闘は陸上が主戦場だったらしい。

 そうして人類は初めて、自分達以外の生き物との「戦争」を開始した。

 開戦当初は未知の敵に苦戦を強いられ、一進一退の拮抗状態を保つのがやっとだったという。

 それを可能とした理由は、ふたつある。

 ひとつは当時の人類が所有していた兵器、レッドにある程度の損害を与えることが出来たこと。

 そして残ったふたつ目の理由。

 いまをもってしてもその動機は不明だ。

 だが摩訶不思議なことに、

 自然そのものと、そのなかに生きる生物は言うに及ばず。

 レッドは人間が建造した建築物すら、自らの手で破壊しようとはしなかった。

 なかには文化財に指定されていた国のシンボルを、身を挺して守ったという記録まである。

 その不可思議なレッドの生態が、復興に対する大きな一助となったことは周知の事実だ。

 しかし一体どんな皮肉なのだろう。

 人間より怪物のほうが、

 しかし、その落陽の日々も長くは続かない。

 ある日突然大国同士が結束し、レッドに対して戦略敵な戦線を構築したのだ。

 まるで、

「エクリプス・デイ」と名付けられた、名称が定められたのだ。

 そして、ときを同じくして現れる。

 異能の力を操り、「オルタ」と呼ばれる特殊なユニットを装備しレッドを狩る。

 それが私たち、「エクスタミネーター」。

 世界の防人にして、人類の守り人たる猟犬だった。

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