第43話 〜妹ちゃんは取り戻すようです〜

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 気づけば暗く、冷たい……どこまでも広がる闇の中にいた。


 突然現れた人物に、黒く禍々しい剣を刺された。

 そして最後に聞こえたのは、自分の名を叫んで呼ぶ兄の声だった。


 匂いはない、声も出ない……いや、音が聞こえないのだ。脈の流れる音も、心臓の鼓動すらも。だからこそ、自分が今、声を発してるのかどうかも分からない。

 視界も、瞼を開けてるのかすら分からない……。ただただ、『無』の世界。

 刺されたのに、痛みはない。それ以前に、体の感覚もない……故に足の先も、指一本も動かすことが出来ない。

 五感が全て奪われたような……まるで闇の中に溶け込み、自身の輪郭が無くなったかのようだ。


 だが不思議と、恐怖は感じなかった。


 しかし、体の底から謎に湧き上がる寒さだけは、どうしてだか感じていた。




(感覚はないのに、凄く寒い……)




 手を擦り合わせ、体を丸めて暖を取りたいのに……それすらも出来ず、ただ耐えるしかないのだろうか?

 そうして永遠にも等しい中、じっと寒さに耐えていれば、抗いがたい眠気が襲ってきた。




(今度は、眠くなってきたや……)




 このまま意識を手放せば、寒さから開放されるだろうか?

 このまま闇と一体化すれば、楽になれるだろうか?


 世界が変われば、何かが変わると思ったが……やはり簡単には変われなかった。




(もう限界だ……。このまま眠ってしまおう……)




 そう、意識を手放しかけた時……。何かが、頬に触れる感触があった。


 暖かい……細く華奢なその白い指先が、自分の輪郭を取り戻させるように、優しく両手で包み込む。


 重い瞼を開けば、淡く……太陽のように暖かな光を纏った少女が、自身の膝に陽菜子の頭を乗せては、覗き込むように見下ろしている。

 フードを被っていて、顔はよく分からないが……。年は、陽菜子とあまり変わらないくらいだろうか?




「……お願い」




 小さく整った口から、言葉が発せられる。弱々しく……それでいて、どこか芯のある声。


「お願い……彼が……が、泣いてるの……。アナタが……が戻ってくるのを、願ってるの……」


 小さく震える唇から、自分たち兄妹の名が出た。何故この子は、自分たちの名前を知っているのか?


(でも……。それ以前に……)


「どうして、泣いてるの……?」

「………………!」


 その表情が、声色が。どこが憂いを帯びており、何故だか……今にも泣きそうだと、そう思った。


「アナタが……だから……」

「どうして……?」


 少女の頬に、手を伸ばして問う。だが少女は口を閉ざし、どこか悲し気に瞼を伏せた。

 何かを言いたげだった。言葉を飲み込むように、陽菜子の伸ばした手を優しく包み込むように掴んで、頬を擦り寄せる。


 その時、何かが割れるような音と共に、無限に広がる闇に亀裂が入った。




「ヒナ……これだけは、覚えておいてほしい……」




 少女は意を決したように、陽菜子へと視線を落とす。


「私も、ヤヒロも……


 光が差し込むとともに、少しずつ少女の体が崩れる。




「だから……――――――」




 最後の言葉と共に、は引き戻された。

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