第11話 〜お兄ちゃんは幼なじみに託したようです〜

 俺にとって最後の希望であり、砦である幼なじみの伊織に、今までの状況を説明した。普段の伊織はクールだが、状況が状況なだけに分かりやすく動揺しては、混乱の表情を浮かべる。そしてそれはそれは、深く眉間にシワを寄せながら、頭を抱えた末に「百歩……いや、千歩譲って」と言うように、深く長ーいため息をこぼして「分かりました……」と、小さく一言。いや、渋々といった感じに、言葉を絞り出した。


「イオにとって、訳の分からないことだらけだと思う。だがもう俺にはどうにも出来ない。この状況で頼れるのは、お前しかいないんだ! 頭が痛いだろうが、ここは何とか……!!」

「えぇ、大変頭が痛いです。とにかく、要するに、今の目的は『』というのが、最優先事項なのですね」

「あぁ、出来れば日が暮れない内に出たい」

「それは私も賛成です。この訳の分からない森や化け物……いえ、キミーさん、でしたか? とは、早急にお別れするべきです。ヒナの為にも」


 伊織は少し考える素振りをすると、周りを見渡す。そして地面を見たかと思えば、空を見上げ……。さらにセージの方へと、顔を向けた。


「セージさん、でしたか? 自己紹介が遅れました。私は和泉伊織、と申します。よろしくお願いします」

「あ、えっと、はい。僕はセージ、セージ・イクスフォルと申します。こちらこそ、よろしくお願いします」


 突然の伊織からの自己紹介と差し出された手に、セージは頭を下げながら改めて自身の自己紹介をする。

 手を握って互いに紹介をし終えると、伊織は「では」と本題に入るように真剣な表情をする。


「これから、いくつかの質問させていただきます。分かる範囲でいいですので、ご協力ください」

「は、はい。僕でよろしければ……!」


 セージの返事に、伊織は頷く。


「ではまず。突然なんですが、この世界には季節という概念はありますか? もしあるのでしたら、今はどの季節で、何時頃か分かりますか? あと、アナタは何時頃にこの森へ訪れましたか?」


 伊織からの容赦のない質問攻めに答えるために、「ええ、っと!!」あたふたし始めた。落ち着けセージ。イオはそんなことで怒ったりはしないから。


「季節はあります! 今の季節は春です! 時間は多分、日暮れまであと2〜3時間くらいと言ったところでしょうか? あとココへ訪れた時間は、そうですね……。正午を少し過ぎたくらい、でしょうか?」

「なるほど、そうですか。ありがとうございます」

「いえ……」


 セージは上手く答えられたという自信が無いのか、少し肩を落としてしょんぼりした。元気出せ。あの質問攻めに、咄嗟に答えただけでも十分だ。

 そんなセージの事などお構いなく。伊織は一度頷くと、10mほどの感覚が開いた木と木の間を指さす。


「ではセージさん。次に少しあちらの木の、端から端まで。普段通りの歩幅と速度で、少し歩いてみて貰えますか?」

「え? あ、はい……」


 訳の分からないセージは、少し緊張気味に伊織の言われるがままに歩く。一方の伊織は、自身の左腕につけていた腕時計とセージを見比べながら、ジッとその動きを見ている。そしてセージは、言われた距離を歩ききった瞬間に「ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」と言われ、ほっと胸をなでおろした。


「それでは次に、キミーさん。こちらの方に立っていただけますか?」

『ガ、ガウウゥッ?』


 伊織はキミーを、草の生えていない開けた場所に立たせると、空と地面を交互に見合わせながら、無言でキミーの周りをグルグルと回る。キミーはそんな伊織にビクビクと震えながら、ジッと耐えている。見てるこっちが可哀想だと思えてくるのは、何故だろうか?


 伊織は少し離れると、今度は鬱蒼とした森の方へと近づく。顎に手を当て、ジッと何かを無言で見る。

 そして戻ってくると同時に、そこら辺に落ちていた枝を拾って、地面に何かを書き始める。それは数式のようだが、俺は可もなく不可もなく。……ごく普通の平均的な高校時代をおくっていた為に、伊織の書いているものが何なのかサッパリ分からない。それは皆も同じらしく、妹に至っては興味すら持ってない様子だった。いや、お前はもう少し興味を持てよ、妹よ。


「……出来ました。セージさん、地図を貸してください」

「は、はい! コレです!!」


 伊織はセージから地図を受け取ると、しばらくジッと見つめて「なるほど……」と呟いた。


「正確な距離は、どれほどかは分かりませんが。……こちらの方向に進めば、街が見えてくるはずです」


 と、指をさしながらあっさりと言い切った。


「「「……へっ?」」」

『ガウ?』




 俺たちはしばし無言の後に、なんとも間抜けな声をそろえて出したのだった。

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